第十六話-冒険者になろう-
すみません。題名変更です。
夏休みではなく冒険者になろう、になりました。
ㅤはい、始まりました。夏休み!
ㅤ青い空!白い雲!真っ赤な太陽!夏が俺を呼んでる!!
ㅤまあ夏に呼ばれてたとしても人には避けられる、そんな黒髪ですけどね、はい。
ㅤ夏休みには合宿があるって言ってたからすげー楽しみにしてたのに2週間後とか待ち長いな。
ㅤ俺たちは2週間何をするかみんなで話し合った結果、校門を出ることになった。つまり町に出かけるのだ。
ㅤ俺とエリオはもちろんフードをかぶる。町中で黒髪を見られたらどういう目に合うかなんて火を見るより明らかだからな。
ㅤあらゆるものを投げつけられて殴られて唾を吐かれて服を引き裂かれて股を開かせられて…Oh…
ㅤま、ワザワザ危険なんて起こさない方が俺たちにとっても町にとってもいいはずだからな。俺は大人なんだよ。
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ㅤさて昨日の話をしよう。夏休みの初日のことだ。その日俺たちは重大なことに気がついた。エリオとサーヤが勝手に入って行ったお店でのことである。
ㅤその店は洋服屋だった。大まかに言えばそうなるのだが、鎧からドレスまでなんでも売っているお店だった。
ㅤエリオがサーヤを着せ替え人形にして遊んでいた。俺もガビンにいっぱい服を着せまくった。店員に怒鳴りつけられたがガビンの笑いでなんとかごまかせた。
ㅤしばらくして、よほど気に入った服があったのかエリオは綺麗な碧眼を爛々と輝かせて俺のところに服を持ってきた。フードから髪がチラつきそうで少し焦る。
ㅤていうか目の色初めて気づいたな。昔から人の目を見るの苦手なんだよなぁ。
「千尋!これ買いなさいよ!絶対似合うわよ!」
ㅤお、俺ですか!?
ㅤいやいや、おらはこんな服着ねぇだよ。こんなフリフリでピンクで女の子女の子しい服なんて明らかにおかしい。落ち着け、俺のではないはずだ。よく見ろ。
ㅤまず、エリオを見ろ。
ㅤ…うん、こちらを見ている。何だか全身を見られている。
ㅤ次は服のサイズだ。
ㅤ…俺にぴったりだ。俺はここ一年で結構大きくなった。転移したばっかの頃はエリオのほうがちょっと高かったけど、一緒に小さくなってから成長した今では俺のほうが5シメルほど高い。そんな俺のサイズにぴったりだ。嫌な予感がする。
ㅤ最後に周りを見てみよう。最後の望みだ。
ㅤ…俺は変態を見る目で見られていた。
「うわあああぁぁあ!」
ㅤ何を考えたのか俺は誤解を解こうと必死になっていたはずなのに服をエリオから奪い去ってレジに駆け寄った。ほんと、何考えてたんだろうね。
ㅤ重大なことに気がついたのはこのときだ。俺は財布を持っていなかった。というか…金を全く持っていなかった。
「うわあああぁぁぁ!」
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ㅤさて、そして今日俺たちは作戦会議をすることになった。実に年相応でよろしい。俺は実際は今年で18歳になっているがそこは目を瞑っていろ。てかお願い。
ㅤ俺は金を見たことがないわけじゃない。曖昧だがエリオの家に居た頃にお使いを何回かした記憶がある。たしかこの国の貨幣はこんなもんだ。上から高い順に並べ、お使いのときの記憶から円換算してみる。
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100,000スラグ札 (100,000,円)
10,000スラグ札(10,000円)
1,000スラグ札(1,000円)
100スラグ銭(100円)
10スラグ銭(10円)
1スラグ銭(1円)
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ㅤふむふむ、我ながら素晴らしい記憶力だ。まあ貨幣ってのはどこの世界でもそう変わらんだろうな。日本でいうと5円とかその辺の細かいのが無くなって100,000円札がありますよーって感じだな。うわっ、そう考えると少し不便そうだな。
ㅤ皆ももちろん金のことは知っていた。大陸ごとに違うのかなーとか思ってたけどここはカレラ帝国とも陸繋がりだしそう変わるもんでもないか。
ㅤよし、皆も金のことを知っているみたいだ。ここで最大の問題を投げかけてみよう。彼らなら答えてくれるはずだ。カレラだけに。えへへ、反応してくれないから泣くね。
「諸君、どうやってお金を稼ごうか。」
「仕事をします!」
「その通りだエリオ君。では、次の質問だ。どこにいけば仕事ができる?」
ㅤ……………………
ㅤよし、おおむね予想通りだ。誰も答えられない。その辺の人が仕事をくれるとは思えないし、ガビンはともかく俺やサーヤやエリオの見た目はまだまだガキだ。サーヤは12歳になったはずなのにね。
ㅤだが、俺には一つ案がある。1年とちょっとこの学校で過ごして金を稼ぐ方法に心当たりが出来たのだ。
「冒険者として働けないかな?」
ㅤクレンシュナ先生が元冒険家と聞いて冒険者ギルド的なものがあると思っていた。だってさ、剣、魔法、魔物って聞くとさ、絶対に思い浮かぶじゃん?
ㅤそうは言ってみたものの実際にあるかどうかが分からん。カレラ帝国には無かったと思う。あったらエリオが教えてくれてた筈だしな。でもあんなに大きな国に冒険者ギルド的なものがないっておかしくないか?
ㅤ一抹の不安を抱えながら結局クレンシュナ先生に聞いてみた。
「この町に冒険者ギルドはある。北東部のレンガの建物だ。このデザインは一律だ。大体冒険者ギルドはどこにでもあるものだ。見たことはあるだろう。」
「ですが先生、カレラ帝国にはありませんでした。」
「カレラ帝国の騎士団はとても優秀だからな。必要ないのだろう。ここグリスウェア大陸は魔物は沢山いるが騎士団などはない。代わりに質はそれぞれだが冒険者も沢山いる。」
ㅤエルバークさん!褒められてますぜ!
ㅤエリオも少し嬉しそうだ。ガビン達の故郷も何かしらの理由で冒険者ギルドが無かったんだろう。
ㅤだが、まだ大切なことを聞いていない。最も大切なことだ。俺たちの夏休みがこれによってどうなるから決まると言えるほどに。
「先生!俺たちのような子供でも冒険者に…」
「なれる。最初は雑用みたいな仕事が多いがな。」
ㅤ俺の言葉を察したのか最後まで言わなくとも先生は答えを言ってくれた。脳筋の仁王立ち狂かと思っていたが少しは頭は回るようだ。
「千尋。明日も元気で生きたいか?」
「ぴ、ぴゃぁ!?は、はぃぃっ!」
ㅤおっと、やばいやばい。先生は思考を読むのが上手いんだったね。
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ㅤ冒険者ギルドにやってきた。受付っぽいところを見つけて行ってみる。
ㅤ…高くて届かない。
ㅤガビンが持ち上げてくれた。何しやがる相棒!余計に恥ずかしいじゃねーか!ふ、ふん。でも許してあげるんだからねっ!
「ふふっ、冒険者登録ですか?」
ㅤ綺麗だ…大きい…ハッ!いかんいかん!ここは紳士的に返事を返すところだったな!エリオが怪訝にこちらを見ているが今は放置だ。
「はい。俺たち4人とも冒険者登録をしにきました。」
ㅤ受付の女性は優しそうに微笑むと一人一人に金属みたいな硬さなのに紙のような質感という何とも不思議なカードを渡していった。
「では、それを額にあて登録名を言ってください。登録名は何でも構いません。ですが紛失防止のためにも自分の名前を付けた方がいいですよ。」
ㅤ素直に従って額に当てる。どうする?とりあえずは「千尋」でいいか。どうせならかっこいい名前にしたいけどすぐには思いつかないしな。
ㅤそう思って俺が千尋、と呟くと目の前にシャッターのように暗闇がおりてきてすぐに消えた。今のは何だったんだろうか。
「はい、登録完了です。自分のカードをご覧ください。」
ㅤ俺はカードを見てみた。うん、なんか予想よりかなり簡単な表記だけどこんなもんだろ。シンプルイズベストってやつだ。
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登録名:千尋
ランク:F
職業:
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ㅤはて、職業とは何だろうか。学生じゃダメなのか?というか空白だけどどうしたらいいんだろ?なんとなくカードをまた額に当てて職業、学生、と呟いてみた。するとまたあのシャッターのような暗闇がおりてきてすぐに消えた。
「飲み込みが早いですね。今のように額にカードを当てて職業と言った後に自分の職業を言えばカードに刻まれます。」
ㅤ俺はそう言われカードを見てみると確かに先ほどまで空白にしっかりと「学生」と刻まれていた。
ㅤでも職業とか見た目で分かるだろうし言えば伝わるし何のためにあるんだ?もしかして…
「これは何のためにあるんですか?」
「紛失してしまったときに見つかりやすいようにですよ。」
ㅤやはりな。そんなこったろうと思ってたよ。だが、俺はもう一つ疑問がある。俺の探究心は止まらないぜ!
「この下のスペースは何ですか?」
「パーティを組まれますとそこに設定されたパーティ名が刻まれます。」
ㅤふむ、パーティなんて組まなくとも一緒に依頼をすればいい。それでも同じことじゃないか。それならこれももしかすると…
「紛失したときのため、ですか?」
「いえ、パーティで依頼を受けるとパーティ全員がその依頼を達成したことになります。そのために臨時パーティを組む方もいらっしゃいます。そのときのトラブルを減らすためです。」
「つまりパーティを組まないと一緒の依頼を受けられないということですか?」
「はい。」
ㅤなるほどね、じゃあパーティを組むしかないな。俺たちは互いに顔を見合わせ、ゆっくり頷く。意思疎通完了だ。
「では、パーティ登録をお願いします。パーティ名は…」
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ㅤあれから少しの間冒険者の仕事の説明を受けた。まあ大切なのは依頼の売買は禁止、自分のランクより下かワンランク上の依頼しか受けられないってことくらいか。ごめん、途中寝てて覚えてないわ。
ㅤ今日は冒険者登録をして帰るだけだ。依頼を受けて仕事をするのは明日からにしよう。どんな依頼を受けるかとか、全員で受けるか別れて受けるかとか決めないといけないしな。
ㅤ俺は冒険者カードを見てニヤニヤする。自分で言うのも何だがかっこいい名前になったと思う。折角だから知りたいだろ?見てくれよ、俺の冒険者カードを。
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登録名:千尋
ランク:F
職業:学生
パーティ名:ユズドランジェリー
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ㅤふふふっ…どうだ。ランジェリーって言葉はこの世界に無いってよ。ユズドはもちろんUsedだ。俺の大好きなものがパーティ名だぞ。テンションあがるよなぁ!?
ㅤあいつらはそんなことは知らずに
「ガハハハ!よく分からんがかっこいい!」
「なんだかいい響きね。」
「ボ、ボクもいいと思う。」
ㅤなんだか少し心が痛んだが気にしない。あいつらもいい感じって言ってるんだし別にいいだろ?意味だって分からないんだし馬鹿にするやつは誰も居ない。俺が喜ぶだけ。
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ㅤ学校に帰ってきた。皆も疲れていたようで言葉少なに別れてそれぞれ寮に帰ってゆく。
ㅤ今日は疲れたな。学校から意外と遠いんだよな。この町も結構広いし当然か。
ㅤそれに黒髪も隠さないといけない。髪の毛を見られないようにするのって結構神経使うんだぜ?エリオも疲れただろうな。
ㅤまあとりあえずは冒険者になれた。これから金を稼ごう。これといって欲しいものは今のところ無いけど金は大切だ。何処にいっても使えるものなのだ。
ㅤ金のことをこうして考えるとこの学校はかなり待遇がいいって再認識できるな。
ㅤレイブン魔法学校は当校の生徒に限り一日三食をタダで食える。最初の校納金と国の援助でこんなサービスが出来るってよ。三食以上は自分で払う必要があるけど基本生きて行く上では金は必要ない。
ㅤだけど自由に使える金があった方が心に余裕が生まれる。心に余裕が無いやつは何しでかすか分からんからな。まあ俺たちがそんなことをするとは思えないが。
「ガハハハ!千尋よ!明日が楽しみであるな!俺様は寝るぞ!光を消すのは頼んだ!」
ㅤうん、こいつらは絶対悪いことはしない。
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ㅤ俺も寝るか。明日からは忙しくなるな。稼いだら何を買おう。エリオの喜ぶ物でも買ってあげたいな。昨日は俺の服を探してくれてたみたいだし。ん?フリフリでもいいんだよ!それが男の度量ってもんだろ!
ㅤエリオに何を買おう、そんなことをずっと考えているうちに睡魔がやってきた。
ㅤそして睡魔は俺の上をくるくると回って笑顔の俺の意識をそのまま奪った。
晴れて冒険者となれました。
次回は千尋視点で冒険者のお仕事です。




