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第十二話-現世の知識-


ㅤレイブン魔法学校に入学して3ヶ月もの月日が流れた。俺は拘束室にぶちこまれたり、サーヤのご飯で死にかけたり、変態とレッテルを貼られたり、非常に楽しい学校生活をおくっている。


ㅤこの3ヶ月間俺はもちろん魔法の授業もきちんと受けている。この学校は何歳でも入学できるということで、俺とあまり変わらない程の小さい子供から更年期に入ったようなおばさんまで新入生として混ざっている。


ㅤ俺は元の世界で勉強に慣れていたおかげで授業内容はどんどん吸収できるが、エリオやガビンはかなり授業に苦しんでいた。


ㅤなんせこの世界、ノートってもんが無い。これは致命的だと思う。本があり、それが流通している世界なのでノートがあっても全くおかしくないと思っていたが、白紙の紙をこの世界に来てから見たことがない。


ㅤ試しにクレンシュナ先生に聞いてみたが「白紙の紙をどうして作るのか分からない」と言われた。


ㅤますます意味が分からないぞ…


ㅤ俺が何故、何故、と険しい顔で唸っていると、ザメリの野郎が暇を持て余したようにこちらによってきた。


「千尋くんは何をそんなに悩んでるんだ?私でよければ力になろう。君のような黒髪では周りに嫌がられて誰にも相談できないだろう?」


ㅤほんっとにこいつぶん殴りたいな。何言ってるか分かってこんなこと言ってんのか?挑発しているとしか思えんな。


ㅤだがザメリは頭がいい。ムカつく程に教養があり、品がある。もしかしていい身分の人だろうか。こいつなら俺がわからないことを知っているかもしれないな。


ㅤ俺は殴りたい気持ちを抑えて、ザメリの方を向いた。ザメリは片方の手をあごに添えて少し顔を傾けていた。ムカつくがミステリアスでイケメンだ。ほんとにぶん殴りたい。


「ザメリ、なんで白い紙が無いんだ?文字もあって本もあるから紙に何かを書いているんだろ?」

「ああ、そんなことか。白い紙、というのはよくわからないが本のように文字がついた紙は、魔力によって生み出されるんだ。」

「じゃあ、なんで文字がついてない紙が無いんだよ。」

「…?どうして白い紙が必要なんだ?魔力を使えば思い描いたものがかかれた紙を生みだせるだろう?」


ㅤ当たり前のようなことを聞いて何が言いたいんだ?というような表情でザメリは俺の質問に答えてくる。


ㅤだが、魔力がそんなにないやつもいる。しかも俺が扱う気では残念ながら紙は作れないようだ。俺は魔力で出来て気で出来ないものは無い、と本に書いてあったので紙を作れなかったのはかなり驚いた。きっとこの本を書いたやつは気を使えるが魔力もあったんだろう。俺のように魔力が0のやつには紙を作れないみたいだ。


ㅤ俺が知っている気法と魔法についての知識はかなり古いものだったらしい。魔法理論の授業を受けていたときに魔法と気法について説明されたが魔法にも気法にもそれぞれ出来ないことがあると言っていた。


「俺は魔力が全くないんだ。本当に一シメルも。授業で先生の話を聞いても他の生徒みたいに紙を作れないから困ってんだよ。」


ㅤうーむ、と言いそうな顔でザメリは俯いた。


「白い紙があればそれに書けばいいから魔力は使わないで済むだろ?」


「ん?待て、君は何を言っているんだ?文字が書かれた紙を出すのではなく、紙に文字を書く必要があるのか?」

「必要とかじゃなくて…俺には魔力がないからそれかわできねぇの!鉛筆とかペンとかインクとか何でもあるだろ!お前はそんなことも知らないのか!?」

「鉛筆…?ペン…?インク…?千尋くんすまない。私は黒髪の扱う道具の名前を知らないんだ。君の言っている言葉は知らない。」

「エリオはちゃんと魔法が使えてるっての!黒髪黒髪とお前は侮辱するんじゃねえ!」


ㅤ何か話が噛み合っていない気がした。が、そんなのは気にしない。


ㅤ俺はエリオまでも侮辱するザメリを怒鳴りつけ、ザメリの言葉をなぞるように思い返した。


ㅤん…?紙に何かを書くという習慣がないのか?


ㅤおい、みんな聞いてくれ。もしかしたら俺の学園生活は詰んだかもしれん。


ㅤ今はまだ簡単な魔法理論しか習ってないからいける。俺は元々高校生だし、こういう異世界っぽい勉強は楽しく実入りがかなりいい。でもさ、でもさ、この学校二年生からは歴史とか地理もあるんだぜ?ノート書けないとやばくね?


「すまない、私は君達を侮辱する気は無かったんだ。黒髪が使う道具を知らなかったとは言え馬鹿にしたような口調になっていた。次からは気をつけよう。」


ㅤこいつ…毎回毎回、謝りながらもちょっと馬鹿にしてねぇ?


ㅤまあ、今はそんなことどうでもいい。ザメリの口ぶりからすると何も書いてない紙は作れると思う。だが書く手段が無い、ということか。


ㅤくっくっくっ…こいつはようやくアレが来たか?俺が現世の知識を活かして何かを発明して周りが千尋すげーーっ!てなるアレが来たのか!?ヒャーハッハッハッハー!これはモテる!変態の汚名も返上できるぞ!


ㅤ俺は謝るザメリを放置して部屋に戻った。まずこういうときは頭の整理が大切だ。現世で俺が読んでいた異世界ものでは大抵こういうときはしっかりと考えていたもんな。


ㅤうーん、まずは必要なものをかんがえよう。鉛筆、ペン、いや何でもいい。とりあえず文字をかけるものが必要だ。そして文字を書くための紙。これは存在しているからクリアだ。


ㅤお?案外簡単そうだな。インクとかは作り方を知らないけど鉛筆なら簡単だよな?確か木の棒に黒炭でもぶちこんでりゃいいんだろ?


ㅤよし!!余裕すぎる!!!早速行動に移そう!善は急げだ!急がば回れ?ほら、その場で一回転してやったからこれでいいだろ?


ㅤ俺はクレンシュナ先生に勉強の効率促進のための物の創作活動に必要、と言って学校に貯めてある冬の暖をとるための黒炭を少し分けてもらった。


ㅤクレンシュナ先生は俺のやる気を分かってくれたのか何も言わず、頼んだ量より少し多めに黒炭をくれた。サンキュー先生!俺は頑張るぜ!


ㅤ俺は早速部屋で鉛筆作りに取り組んだ。ガビンは放課後のランニングに出かけて居ないので今は俺一人だ。ほう、そういえばこの部屋で一人になるってのも珍しいな。


ㅤ俺は黒炭置き場から戻ってくる途中に何本か折った木の枝の先端に黒炭をつけてみた。糊も何もつけてないので黒炭はすぐに落ち、床に黒い後が少し残った。


ㅤ…OK、黒炭で色はつくみたいだ。こ、これは黒炭で色をつけることができるかどうかの実験だよ?ほ、本当だよ?


ㅤえーと、鉛筆は黒炭を細い棒みたいにして木に突き刺せばいいのかな?どうやって黒炭を削ろうかな…


ㅤ素手で削るのも気が引けたので部屋に使えるものがないか探してみた。俺の黒剣が協力したそうにこちらを見ている!どうしますか!使います!


ㅤ黒剣は割と斬れ味がよいので簡単に黒炭を棒状に削ることができた。ん?表面がガッタガタ?意外と難しいんだよ!


ㅤよし、これをこの木に…どうやって突き刺そう?絶対黒炭折れちゃうよな?考えるより先に行動だ!おらっ!はい、折れました!ちゃんちゃん!


ㅤこれは…無理かな?このまま黒炭の棒を使えばいい?馬鹿野郎!そんなのじゃ日本人語れねえよ!もっとこだわりを持てよ!


ㅤ俺はガタガタの黒炭の棒とどうやって黒炭を突き刺せばいいか分からない木の枝を見た。


ㅤ…黒剣がもっと便利だったらなぁ。


ㅤそんな無茶を考えていると手に持っていた黒剣が光を放ち形を徐々に変えた。そして黒剣は刀の面影を完全に失い細く、丸くなった。なんじゃこりゃ!と驚きながら黒剣を見てみると先端にこれまた細く丸い空洞があった。


ㅤ…なるほどな!流石は俺の黒剣!やっぱりお前だけが俺の持つ中で異世界っぽいわ!


ㅤ俺は机の上に木の棒と黒炭を置き、形の変わった黒剣を構えた。昼休みの間や寝る間を削って素振りをしていたことがやっと活かせる。


ㅤ俺は突きの構えをとり、強く踏み出して木の棒に突きを放った。スコーン!と気持ちのいい音がして小さな空洞ができた木の棒がそこにあった。


ㅤドヤッ…誰も居ないのが残念だな。


ㅤ続いて黒炭にも突きを放つと細い黒炭の棒が黒剣の空洞に入っていたので取り出す。これを木の棒の穴に入れれば完成だ!ドヤッ!


ㅤスポッと木の棒の先端から黒炭が飛び出た。あ……穴が無くても掘り返して潜りたい気分っす。


ㅤそれにしてもどうしよう。いい感じだと思ったけどやはり糊が無いと無理だな。うーん、こういうときはクレンシュナ先生に聞いてみよう。俺は剣を置いて職員室へ向かった。



ーーーー



「失礼します。ボス!物と物をくっつける働きをするものはありますか!」

「糊か、創作活動に必要なのか?それならば持ってゆけ、明日のホームルームで返してもらおう。」


ㅤふぁっ!?なんて楽勝なんだ!てか糊あったのかよ!ヌルゲーじゃねえか!


「ありがとうございます!必ずや成功させます!」


ㅤ俺はすぐに部屋に戻り、鉛筆が完成した。フフフ、先生にこれを自慢しよう。千尋すげーーー!いや、これくらい俺にはどうってことないさ。やべぇ、ニヤケがとまんねぇ!


ㅤ俺はガビンが帰ってくる前に出来上がった鉛筆を隠し、早々に寝ることにした。



ーーーー



次の日の朝、いつものガビンとのトレーニングを終えた俺は鉛筆を持って教室に入った。教室にはエリオが居た。よし、自慢してやろう。


「ふふふ、エリオこれを見てみろよ。」

「何よそのダサいへんな棒。何に使うのよ。」

「エリオの紙を貸してくれ。これを…ほら、こんな風に文字が書けるだろ?」

「だから何だって言うのよ。そのくらいロクノがあれば誰にでも出来るじゃない。」


ㅤあれ?何かおかしいぞ?この世界には鉛筆もペンもないはずなのにな…なんか当たり前みたいな顔してるぞ?


「ロクノって…なに?」

「紙に文字が書けるのよ。契約書とか大事なの物は直筆で書かないといけないでしょ?」


ㅤ……やっぱりこの世界は俺には厳しいらしい。何だよ!おだてるだけおだてやがって!くそっ!俺が何したってんだ!


「千尋、昨日言っていたものは完成したか?見せてみろ。それと糊を返してもらう。」


ㅤ………えへへ!殺されるかも!



ーーーー



ㅤ俺はクレンシュナ先生に黒炭と糊を無駄にしたと叱られ、エリオには何も知らないと馬鹿にされ、ザメリには黒髪に対し言葉が足りなかったと謝られた。


ㅤもう俺は異世界に期待するのを諦めることにするよ。

千尋は進学校の高校生といってもそこまで勉強はできません。


ロクノというのはペンのようなものです。ものは同じでも名前が違うと不便ですね。


次回は千尋視点で黒髪の歴史です。

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