第十話-調理実習-
ボクはサーヤ。実力も何も無いのに特別クラスに入ってしまった女の子です。
ㅤレイブン魔法学校に入学してから一ヶ月が流れました。ボクは人狼と人間のハーフの女の子です。体の小ささからかよく男の怖い人に声をかけられます。
ㅤ入学式のときも声をかけられましたが、あのときはガビンが助けてくれました。見た目は黒くて怖いけど強くて優しい、とてもいい人です。
ㅤエリオさんや千尋さんも初めての迷宮でボクを沢山サポートしてくれました。二人ともボクの能力を活かすのが上手です。
ㅤボクは恵まれているの思います。入学式ではガビンに助けられ、迷宮攻略ではいい仲間に巡り合い、そして特別クラスにはいることもできました。
ㅤボクは今回皆に日頃の恩を返す絶好の機会を獲得しました。本当に運がいいです。
ㅤ今日は調理実習の日。それぞれの班が事前に先生に決められた料理を作り、お昼ご飯として食べる授業です。私は料理をするのが好きなので皆の喜ぶ料理を作れるように頑張りたいと思います。
「君達の班はホーンラビットのソテーだ。ここにある食材を使って作りなさい。」
ㅤホーンラビットは長い角をもつ兎
のような魔物で黒い皮膚に赤い目の少し怖いですが比較的に弱く、森ではよく見かける魔物です。ボクが街にいた頃にもよく売っているのをみたことがあります。
ㅤ今日は恩返しなのでボクはいつもより積極的に行動しようと思います。
「き、今日はボク頑張ります!」
「ガハハ!サーヤはいつも頑張っているだろう!今日も頑張るがいいぞ!」
ㅤガビンはいつもボクを認めてくれます。一ヶ月同じ教室で授業を受けているだけですがガビンと居るとなんとなく居心地がいいです。
「ええ、一緒に頑張るわよ。まずは役割分担をしないとね?」
「そうだな、俺は皆が作ったものをおいしく食べる役にまわるよ。」
「千尋はサボることばかり考えないの!はい、千尋の仕事は片付け全部ね!」
「ぎゃぁあぁぁあ!それなら他のことやるよぉ!」
「ガハハ!それでよいではないか!」
ㅤエリオさんは見た目は私より幼いのに私より背が高いし、とてもしっかり者だし私の小さいお姉ちゃんです。千尋さんはいつもエリオさんに怒られています。
ㅤいつもの風景に和んでいてつい言い出せませんでしたが、料理は私が担当
して皆さんに食べてもらうって決めたんです。私も皆の役に立てるところを見せなきゃ!
「今日はボクが…皆のために料理つくります!だから今日は…その…任せください!」
ㅤ言えた!弱気なボクでもちゃんと言えた!でも皆は認めてくれるかな…少し心配だな。
「ガハハ!サーヤは料理が出来るのか!すごいな!では頼んだ!」
「サーヤが作ってくれるの?楽しみにしてるわね。」
「ぐへへ…ボソボソ…ぐへへ」
ㅤよかった…皆も認めてくれるみたい。千尋さんは何言ってるかわかんないけど…変な人だなぁ。二回レッドライン越えたんだよね?ちょっと怖いなぁ。
ーーーー
「皆できました!さあ、一緒に食べましょう。」
ㅤおかしいなぁ。作っているときから変な視線を感じてたけど…どこか皆もよそよそしい気がする。ボク…でしゃばりすぎたのかなぁ…
「そ、そうね。千尋が楽しみにしてたみたいだから一番に食べてみたらどうかしら?」
「えっ!さ、サーヤはガビンに一番に食べて欲しいに決まってるじゃないか!」
ㅤ確かに…ボクはガビンに一番に食べて欲しい。あぁ、千尋さん…ちゃんとボクのこと考えてくれてるんだ。変な人とか思ってごめんなさい。
「ガビン、入学式のときに助けてくれたお礼に一番に食べてください。ボク、あのときからずっとお礼がしたかったんです。」
「 ガ…ガハハハハハ!!!そうか!サーヤよ!!俺様が一番に食べて欲しいか!では、頂くとしよう!」
ㅤそしてガビンはボクの料理を食べた直後に医務室に運ばれ、生死の境をさまよったらしいです。
ㅤガビンは…体調が悪くてきついのに無理してボクの料理を食べるまで待っててくれたんだ…またガビンに恩が増えてしまったなぁ。次は絶対にボクの恩返しを成功させよう。
「うん?君達の班の昼ごはんは凄まじいな。」
ㅤ背後からザメリさんの声が聞こえた。凄まじいってどういうことだろう?そんなに褒められると少し嬉しいな。ザメリさんって悪口しか言えない人だと思ってた。
「どういう意味だ。」
ㅤ千尋さんも同じ疑問を持っていたみたい。ボクも気になるなぁ。ザメリさんは優秀だし、品があって育ちが良さそうだから料理のこともボクよりずっと知ってるだろうし、意見を聞けるなら…
「人間が食べるようなものを作らないのか、という意味だよ?あ、すまない!君達を傷つける気は無いんだ。黒髪の食事を私が知らなかったんだ。余計な口を出してすまない。サーヤくんの料理はこの二人に合わせて作ったんだろう?ちゃんと人に合わせられるということは優秀である証拠だ。誇りに思うといいよ。」
ㅤ…
ㅤボクがその言葉の意味を理解するよりもはやく千尋さんが立ち上がって一瞬でザメリさんの前に移動しました。
「ザメリ、お前ふざけてるのか?サーヤが作った料理を馬鹿にするのか?
何故お前が一々俺達の昼ごはんにちょっかいを出しにくるんだ?何のためだ!そんなに黒髪に文句が言いたいなら俺だけに言えよ!」
ㅤ千尋さんはかなり怒っていました。黒髪のことを言われたり自分の大切な人が傷つけられそうなときには、普段の姿からは思いもつかないような顔になります。
ㅤボクの料理…変なのかなぁ…一生懸命…作ったのになぁ……
ㅤ気がついたら涙が出ていました。ガビンが医務室に運ばれた理由が自分の料理だと思うと不甲斐なくて涙がとまりませんでした。
「サーヤの料理は素敵よ。何にも悪いところなんて見当たらないないわ。ほら、おいしいじゃない。」
ㅤエリオさんはそう言ってボクの作ったホーンラビットのソテーを大きな口で食べました。そして私に微笑みかけます。
ㅤボクはそれを見て、ボクの料理のせいでガビンは医務室に運ばれたのではない、と安心しました。
「私は君達に文句は無いさ。ただ知らなかっただけなんだ。本当だ。黒髪が食べる料理については今後は人間のものと比べたりしない。今回は私に落ち度がある。本当にすまなかった。」
「だから!!お前は何にも…」
「静かになさい。他の班に迷惑よ。」
ㅤ「すみません、先生。私の班は食事を終え、片付けも済んだので調理実習の終了を報告します。今日はありがとうございました。」
「はい、ちゃんと片付けられているようね。では、それぞれ寮に戻り、次の授業に備えるように。」
「はい、失礼しました。」
「千尋くんの班も食べ終えて片付けを終えたら報告してくださいね。」
「……はい、先生。すみませんでした。」
ㅤ千尋さんはまだ怒っているような顔をしていました。しかしこちらを振り返るとすぐに顔が真っ青になりました。
ㅤ…どうしたのかな?
「エリオ!大丈夫か!先生!エリオが!!エリオの気分が悪そうです!!」
「すぐに医務室に連れて行きます。それと、言いにくいけれど……千尋くんの班はお昼ご飯を食べてはいけません。」
ㅤ!?……先生は何を言っているの?
「せ、先生?どういう……ことですか……?」
ㅤボクは泣きそうだった。ガビンだけでなくエリオさんまでもボクの料理のせいで倒れたと思うとボクは自分を殺したくなりました。
「…これは千尋くんが騒いだ罰よ。連帯責任でこの班はお昼ご飯をお預けにします。片付けもこちらでしておきますから貴方達はエリオさんを医務室に連れていってあげてください。」
ㅤ千尋さんはすぐにエリオさんを抱えました。エリオさん…お姫様みたいです。
「サーヤ!はやく医務室に行くぞ!」
ㅤ千尋さんは不安と安堵が混ざった表情でボクに言いました。その千尋さんの態度からボクはやっと悟りました。
ㅤ思い返せばお母さんとお父さんにご飯を作ったときはいつもお母さんが体調が悪いと言ってお父さんが全部食べていました。そして次の日、お母さんは元気でお父さんはお母さんの体調の悪さが移ったといって寝込んでいました。
ㅤ…そういうことだったのかぁ
ㅤボクは涙を拭きながら千尋さんとエリオさんを追いかけました。そして一つの決意をしました。
ㅤボクの料理で絶対に死人はださない、と。
サーヤが作ったホーンラビットのソテーはどんな味だったんでしょうね。
次回はガビン視点で寮生活です。




