第一話-いつもと違う朝-
プロローグのようなものです。
8/2大幅に変更しました。
ストーリーに支障はありません。
朝だ。
太陽の目覚めと共に起きる、のは俺ではなく母親。こいつはいつも規則正しい。そして何より腹立たしい。
俺は何の変哲もないただのすっぴん高校生。因みに3年生だ。
俺は朝に弱い。自分の力で布団から出たことがない。学校に行くのは嫌いじゃないが面倒だし、勉強も嫌いだ。俺のようなやつでも世間では受験生と呼ぶらしい。3年ってだけでこの呼ばれよう。ちょっと気に食わんな。
そんなテストも人間も欠点まみれな俺も人の子だ。なにも24時間眠り続けるわけじゃない。
俺は自慢ではないが寝ぼけたことはない。目が覚めるのは覚める。だが、布団から出られないのだ。その辺の寝坊助とは違うんだぜ?
俺は目覚めた。寝たまま辺りを見渡してみる。
「ここは……家か……」
毎日同じことだ。だが、つまらない。何の変化のないこの部屋にはもう飽きた。前に模様替えしたのはいつだろうか。もっとも模様替えしたのは母親だが。
ということはここは異世界かもしれない。いやいや、まだ判断するには早すぎるな。俺は慎重なんだよ。とりあえず窓の外も確認しねーとな。
「外の景色は…いつも通りか…」
この部屋は2階。見晴らしが悪いわけではない。いや、むしろ景色は綺麗だといえる。朝日の昇る方向に高い建物がないので朝焼けの赤い空を見ることができる。
が、そんなものはもう見飽きた。美人は3日で飽きるって言うだろ?景色だってその例に漏れず飽きるってもんよ。
うーん、やっぱりここは異世界かもしれないな。いつも通り過ぎて逆にに怪しい。ふっ、これでも推理は得意なほうなんだぜ?身の回りを確認したら次は人間の確認だ。ここが異世界かどうかのミソだ。
「こいつは…なんだ…ママか…ぶぅぁっ!!」
乾いた音が4月の冬か春か分からん空に響き、異世界の可能性を打ち砕いた。毎日このビンタで起こされるのだ。少しは方法変えろよ。痛くない方向によ。
腰まで伸びた縦ロールの黒髪。俺を睨みつける茶色の目。近所では美人とか言われてるらしい。知るか! 頬が痛え!
母親は腹立たしいことこの上ない。だが、俺は感謝の気持ちを忘れたことがない。反抗期とかいっても結局は甘えてるってやつだ。みんなも経験したろ? 俺はお前らよりその辺が素直なんだよ。
ちっ、今日こそ異世界かと思ったんだが人生はそう上手くは行かないらしい。世知辛いね。少なくとも俺にとっては。
ーーーー
あーあ。暇くせー。
学校の授業はつまらん。寒いのを我慢してこんなところに授業を受けにくる価値なんてはっきり言って1センチもないね。
女子を眺めるために来てるようなもんだぜ。
周りの視線がこちらを向く。そして諦めたような顔をしてすぐに授業に戻る。
あー。やっちまった。また声に出てたんだな。
俺はそう思った。と思ったらやはり声に出していた。出ちゃうんだもん、仕方ないよね。
俺は思ったことが何故か口に出てしまう。最近は結構治ってきたと思う。だけど何故か相手に考えていることがバレる。俺に思考のプライバシーなんてものは無いのだ。
だが、さほど嫌われてはいない。むしろ隠さない系男子として認識されているほどだ。口に出てしまうのはほぼ女子のことばかり。高校生男子の考えなんてそんなもんだ。しかたなぃょ…
それと俺は何か捻くれてるらしい。なんで他人事みたいな言い回しなんだーって? 知らねえよ先生共に言ってくれよ。
道徳の授業とかいって平等について書かされたときだ。俺は平等ってのが好きだ。皆等しい。なんかいいよね。ほっこりするよね。
差別問題を無くすために平等に〜とかなんとか言ってたから「皆差別されれば平等です」って書いたら呼び出されたよ。俺間違ってるか?
そんなわけで俺は少々、ほんとに少々学校では問題児扱いされている。別に素行が悪いわけでもない。成績も普通くらいの極普通の生徒なのに。
そりゃあれだよ? 変態の称号をつけられたよ? でも悪いことじゃないじゃん? 先生も生徒も結局求めることは変態なことなんだろ それがちょっと口に出るってだけでこれだよ。容赦ねぇよな、ほんと。
だけど別に嫌われてるわけじゃない。先生とも生徒とも、もちろん女子も含めて俺は仲良く過ごせてると思う。現に呼び出しをくらったのは2桁くらいしかない。
とまあ、俺は学校ではこんな感じだ。な? 普通だろ? 普通って言ってくれるよな?
そんな俺も受験生なので部活もなくすぐに帰宅する。ん? 受験生になったばっかりだからまだ部活はあるはずだって? ああそうだよ、帰宅部だよ!! ごめんね!!
家に帰ると母親が居た。美人とか言われてる割にはコタツに入ってみかんを枕にして寝るという汚いことをしやがる。みかんの汁ついてんじゃねえか。ほっとこう。
いつも通りの一日。退屈で面白くない、だがどこか居心地がいい。死ぬまでこんな日々が続くと思う。だけど嫌ではない。
毎日ビンタで起こされ、学校では問題児扱いされ、変態呼ばわりされる。い、イジメとかじゃないんだからねっ!
今日もいつも通り面白くなかったな。
俺はベッドに入って目を瞑る。たいして疲れてもない体がベッドに沈み込む。あぁ、このために生きてる。寝るために生きるなんてどういうこっちゃ。だがそれがいい。
こうして俺はいつも通りの一日を終えた。
ーーーー
ゴォォォォオオォオォ!!!!
突然だった。
いつもはベッドから出たくないが故に周りを確認して誤魔化している。しかしそんな場合ではなかった。
まず、ベッドがない。
じゃあどこに居るの? 知らん。ただ辺りは壁のようなもので覆われており、それがグルグルと回っているような感じがした。所々光が漏れている。
落ち着け俺。こういうときはまず落ち着くのが大切だ。とりあえず両手をあげて片足をあげた。ってグ○コはどうでもいい!
フッ…
体が急に軽くなった気がした。もしかして飛んでるんじゃね? そんなことを思った。いや、違う。落ちている。俺は高いところから落ちているんだ。
し、死ぬかもしれん。
瞬間的に死を予感した。嫌だ。まだ死にたくない。俺の暴れん坊はまだDの意思を継いだままだ。Dを卒業しないまま死ぬなんて笑い事じゃない。伊達に変態の称号は受けてないんだ。
しかし、そんな俺の思いも虚しく体はどんどん落ちてゆく。加速して……はいないようだ。
「うわぁぁあぁぁぁ!!」
死んだ、人生が終わったと思った瞬間、周りを覆っていた壁が吹き飛んだ。そしていつもとは違う風景が目にはいる。
その場所は木々に覆われていた。広場のような印象を受ける。少なくとも家ではない。母親にビンタされて黄泉った可能性はとりあえずは考えないでおこう。
こんな綺麗な場所があったなんてな…
どこだろう、なんて思う前に素直に綺麗だと思った。どこの馬鹿なんだ、と言いたいのは我慢してくれ。綺麗なんだ、本当に。
「ここは……森か」
いつもとは違う風景。家はどこいった、なんてどうでもいい。ベッドは返して欲しいけど。
「誰も……居ない。」
俺は確信した。こんなのはアレに違いない。
「異世界どぅあぁぁぅぁぁぉぁあ!」
木々がざわめく。鳥たちが俺から逃げたのだ。ふっ、俺のボイスに耐えられなくなったか。
そもそもなんで異世界に来てしまったんだろうか。こまけぇことはいいんだよ。異世界に行きたかった。来れた。それでいいじゃんよ?
ガサッ
後ろで音がした。俺は反射的に振り返る。知らない世界で後ろからブスリ、とかごめんだからな。
そこには一人の少女が立っていた。コバルトブルーの髪の毛、碧眼。背が俺より少し高いな。まぁ俺はそんなに高くないほうだけど。
にしても顔が真っ赤だ。耳まで赤い。やはりここは異世界だな。肌の色が赤いらしい。じゃあ俺の肌の色って仲間はずれだったりするのかな?
「きゃぁぁあぁぁあぁぁ!」
その子は倒れた。えぇっ! 倒れた!? マジで!?
なんでイキナリ倒れるの!? 俺のせい? 俺のせいなの? 俺駆け寄ろうと走り出した。
ハッ………
ㅤ俺は気づいた。妙な開放感。そして走り出したときにジタバタと動き出すソレ。抑え付けるものが無い状態のヤツだ。
こうして俺は異世界にやってきた。
全裸で。