逢瀬
キャッチコピーが目に付く。
『まるでチーズをカリカリに焼いたような』
そう、溶けてもなお焼かれ続けたせいで、干からびて焦げ付いて。
剥がそうと思っても剥がせない。
まるで、来週も来月もまだ彼の元へ通い続ける私の心みたいだ。
あの頃はよかった。なんて懐かしむほど、昔のことでもないけれど。
出会ったときは確かに、私は彼を愛せると思っていた。
いつのまにか責務じみていた逢瀬に、少しは刺激になるかと思いついて立ち寄ったコンビニ。
ドリンクコーナーで笑い合う高校生のカップルが、くすぐったいほど幸せそうに見える。
もうすぐ日付も変わるっていうのに。早く帰りなよ、明日学校でしょ。
なんてコトを考えている私は少しオバサンじみているかもしれない。
今彼らみたいな向う見ずな情熱があったら、私はどうするだろう。
少なくとも、このまま機械的に30メートル先のマンションを、習慣化した手順で訪ねるようなことはないのだろう。
深夜の街へ夢みたいななにかを探しに行くのか、それとももっと嬉々として、自転車置き場のごつい二輪車の有無と、カーテン越しの人影の動きを確認もしないで、弾んだ心でインターホンを鳴らすのだろうか。
結局若さをとっくの昔にお金に変えてしまった私は、エントランスのレターボックスから電気と水道料金の請求書を抜き出して鞄にしまいながら、半ば無意識に部屋番号をプッシュしている。
「…奈緒?」
インターフォン越しでも彼の声は甘い。
華のように、毒のように、私に染みていく。
この無力感が、愛だなんて思えないのに。
この依存と束縛は、絶対に愛なんかじゃないのに。
ドアを開けた次の瞬間に、引き寄せられる体。
ああ、またビールの空き缶が散らかってる。
洗濯もたまには自分でしなきゃだめって言ってるのに。
奈緒がいなきゃだめだというこの人は、本当に、だめだ。
私がいなきゃ、本当に、だめな人なんだ。
自我を失った私の左手から、コンビニの袋が抜けて落ちる。
さっき買ったスナック菓子は、それでも1時間後には、話の種になるだろう。
チーザも、カリカリに焦げ付いた私も、酒の肴に彼につままれて消えてしまえばいい。
きっともう、長くない恋なんだろう。