嘘つきの日
もういいかーい?
いつもの見慣れた道路。この公園の前を通り過ぎると、必ず思い出してしまうことがある。幼かった頃の苦い思い出だ。忘れようと思っても、中々忘れられない。
「なー、そういや今日って」
車の助手席で、なにやらCDの束を漁っている友人がそう声掛けてきた。実は自分は、そう言われる前から気付いている。4月1日、自分の一番嫌いな日。
なぜ嫌いなのか。それはこの世で自分しか知らないだろう。何故なら、ウソをつかれたあの子はきっと今でも気付いていないかもしれないからだ。
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それなりに友人も多く、自分は苦のない生活を送ってきたつもり。
けれどあの子はそうではなかった。確か、父親の転勤のせいで次々と転校してしまうような子だったんだ。それゆえ決まった友達はいなく、あの子はいつも独りだった。
なんで自分があの子のことをこんなに気に掛けているか。それはあの子が自分の初恋だった、というのもあるだろう。そして気になって仕方が無かったあの頃の自分は、躊躇いなくあの子に声を掛けたんだ。
「ねぇ、みんなと一緒に遊ぼうよ」
3月25日。この日に丁度”5年生”が終わりになる。あの子はここでその日を迎え、5年生という年度に幕を下ろした。
そんな彼女にそう声を掛けたのは、『4月1日』にクラスメイトたちが集まって公園でかくれんぼをするという計画があったからだ。
彼女は丁度その日に遠くへ引っ越してしまう。それだから、ぜひ彼女にも参加して欲しくて話を振ったのだった。
同意という同意は無かったものの、その時は勢いで彼女を連れ出し公園へと向かった。無理やりではあったけれど、彼女は別に抵抗の意を見せなかったし、それでいいんだと思い込んでいた。
「じゃーんけーん、ほい!」
クラスメイトの数は32人。その中で”見つける側”なのは5人とルール付けられた。
”隠れる側”となった彼女は、他の連中の後を追って隠れる場所を探しに向かって行った。自分は”見つける側”となったので、木に顔を伏せて数を数えた。
「もーいいかーい?」
口を揃えてそう声を上げると、あちらこちらから「もういいよー」と大声でも小声でもないようなトーンの声が聞こえてきたので、行動開始。
こちらも5人いれば十分な捜索力になる。次々と見つかるクラスメイトたちは、公園中央の噴水前に束ねられて集まっていた。
「あと3人だよ~!」
15分くらい経っただろうか。もうそんなに捕まったのか、と驚いたものの、その中にあの子がいないことに気付く。まだどこかに隠れているのか。
結局あの子は最後の一人となった。あんまり話しをしない大人しい子だったので、そういう才能があるなんて知らずに。
「どうだー、見つかった?」
「ううん。そっちは?」
その様子だとやっぱりまだ見つかっていないようだ。それほど広い公園でもないし、隠れる場所なんて限られている。
すると、すべり台の後ろに不自然な影を視界に捉える。真っ直ぐな斜体の影が、少しだけ出っ張って見える。
「見~つけた!」
そう気取って言い張ってみたのだが……、
「あ、あれ?」
いない。ではさっきのは何の影だったのだろうか。
と辺りを調べてみると、すべり台の裏に誰が悪戯したであろうか、木の枝がビッシリと隙間に挟められていただけだった。
結局その後30分探したのだが、一向に見つかる気配すら感じなくなってきた。日もだんだん暮れてきている。見つけられたクラスメイトたちも、流石に飽き飽きしてきたようで。
「もう帰っちゃダメー?」
「あの子だけ置いて帰れないよ、もうちょっとだから!」
自分はそうやって言い張った。苦い顔をされたが、あの子をどうしても放っておく事なんて出来なくて、ましてや好意すら抱いていたのもあった。
カラスが夕暮れに鳴き始めてきた頃。すべり台の影もブランコの影も横に伸びてきた頃だ。
「あっ……!」
彼女がいた。
いつ隠れたのだろうか、自分たちが数を数えていた木の後ろにいたのだった。灯台下暗し、とはまさにこのこと。
「……見つけてくれて、ありがとう」
「えっ」
初めて、その子から声を掛けてくれた。
「もう行かなくちゃ。引越し屋さん、来てるかも」
予定の時間を遥かに越えてしまった。
彼女はちょびっとだけこちらの顔を覗き見てから、そこから走って家まで向かっていってしまった。けれど自分はただ立ち止まっているワケにも行かず。
「俺、大きくなったら会いに行くから! 絶対!」
「……うん!」
夕陽の方へ駆けて行った彼女は、一度だけこちらを向いて大きく手を振ってくれた。他のみんなへは挨拶できなかったようだけど、この日で会うのは最後なのは今になって気づくんだ。
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自分は今、その頃からの友人を連れてドライブを楽しんでいる。というのも、二人とも彼女なんてものはいなく、傷を舐めあうという意味でのドライブでもある。
「はぁ~ぁ、俺たちの運命の子はどこにいるんでしょーかねぇ」
助手席でラヴソングのCDを掛けながら友人は落胆気味にそう言った。
「運命なんてさ、その人とくっ付いたらそれが運命だよ」
「……相変わらずお前は難しいこと言うなぁ」
あれから自分は毎年、この日になると思い出す。絶対会いに行くと、勢いだけでウソを言ってしまったあの日を、あの子を。
彼女がどこへ引っ越したのかは聞いていない。それに転勤先がコロコロ変わるそうなので、もはや手掛かりすら手が届かなくなってしまった。
もう会えないけれど――、夕陽を背に手を振ってくれたあの子の影は今でも忘れない。あの長々しく伸びた黄昏の影は、絶対に。
このお話は若干フィクションですが、少しだけノンフィクションでもあったりします。
皆さんにもこんな思い出はありますでしょうか。
とにかく読了ありがとうございました。2,3分ほどのお時間を頂けて光栄です。