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「番外編」 卒業式までの1週間

作者: さっちゃん
掲載日:2026/05/09

あの日から、気づけば卒業まであと一週間になっていた。


あと一週間で、彼が卒業してしまう。


バレンタインの日。

私は勇気を出して、彼の下駄箱にチョコを入れた。


でも名前は書けなかった。

書いたのは、学年とクラスと出席番号だけ。


やっぱり、わからなかったのかな。


何も起きないまま、時間だけが過ぎていった。


ホワイトデーは一週間後。

卒業式の日でもある。


何か起こるかな。

……まさかね。


そんなことを思いながら、私は卒業式の総練習の日を迎えた。


周りはみんな「めんどくさい」って言っていたけれど、私は少しだけ楽しみだった。


彼と同じ空間にいられるから。


体育館には、在校生の席と卒業生の席が向かい合うように並べられていた。


私は座るとすぐに、卒業生側を見た。


眠そうにしている生徒。

隣とコソコソ話している生徒。

ざわざわした空気の中で、私は彼の姿を探していた。


そして見つけた。


少し離れた席に座る、彼の横顔。


その瞬間、ふいに目が合った。


遠いのに、ちゃんとわかった。


あ、今、目が合った。


私と彼しか気づいていないような、小さな一瞬だった。


先生も気づいていない。

誰にも怒られない。


だから私は、何度も彼の方を見てしまった。


この時間が、ずっと終わらなければいいのにと思った。


卒業証書授与の練習が始まり、彼が在校生の前を歩いていく。


その時も、彼はこっちを見てくれていた気がした。


私は心の中で、そっと呼ぶ。


――さっちゃん。


あの時、あなたは何を思って私を見ていたんだろう。


そして一週間後。


卒業式の日。


私は三階の窓から、登校してくる彼を見つめていた。


今日で最後なんだ。


そう思うだけで、胸がぎゅっと苦しくなる。


彼がふと顔を上げた。


また目が合った。


嬉しくて、胸がうるさいくらいドキドキした。


すると彼は、そのまま校舎へ入っていき――しばらくして三階まで来てくれた。


「ゆき」


そう呼ばれた瞬間、周りの一年生たちが小さくざわついた。


彼は少し寒そうにしながら、ホワイトデーのお返しと手紙を差し出してくれた。


嬉しかった。


今まで遠くから見つめているだけだった存在が、こんなに近くにいる。


夢みたいだった。


卒業式本番。


寂しくないわけじゃなかった。


今日で、本当に最後なんだと思った。


でも、彼からもらった手紙があったから。


総練習の日みたいに、「終わってほしくない」と思ってしまう苦しさはなかった。


それよりも――。


今までで一番、嬉しい日になった。


卒業式の途中、彼はまた何度かこっちを見てくれた。


卒業証書を受け取って歩く時も、少しだけ笑ってくれた気がした。


気のせいじゃないよね。


そう思ったから、私は最後に勇気を出した。


「第二ボタン、ください」


「好き」という言葉は、去年の秋に友達を通して伝えてもらっていた。

だけど本当は自分の口から伝えたかった。

ずっと後悔していた。


だから第二ボタンだけは、最後に自分の口でお願いしたかった。


きっとあなたがくれたあの手紙のおかげで、勇気がもらえたんだ。

最後まで読んでくださりありがとうございました。


卒業前の、あの独特な空気や、目が合うだけで嬉しかった頃の気持ちを書きたくて、このお話を書きました。


遠くから見つめるだけだった恋が、最後に少しだけ前に進めた思い出です。


もし同じような青春の記憶がある方がいたら、よかったら感想で教えてください。

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