[隠し込めてきた自分]
この小説をご覧の皆さん。この小説は僕にとって初投稿の小説となりました。「初投稿」という一度しかない機会にこの小説で皆さんに興味を示してもらえるよう試行錯誤し作り上げました。僕はまだ小説を書き始めてまだ月日が浅い初心者ですが、この小説を書く上で誰かの目に届き誰かの心にそっと寄り添えるようそう願ってこの小説を書き上げました。どうかこの小説で救われる人が増えますように。
いつも光り輝いている太陽、青い空、見ているだけで清々しくなる。
でも今はそんなものは見上げても一切見当たらない。
見えるのはどんよりとした雲に覆われた真っ黒な空だけ、僕は学校を出ていつも通っている帰路を辿っていた。
「はぁ」
僕はため息をついた。
「また早退してしまった」
近頃僕はどうにも体調が優れない。頭痛に眩暈、立ち眩み、本当に最悪だ。
無事に家に帰りつくと僕はすぐにベッドに潜り込んだ。
しばらくするとピーンポーンとインターホンが鳴った、
「こんな僕に来客?誰だろう」
ガチャと扉を開けるとそこにはクラスメイトの姿が、
「お見舞いに来た~」
その元気な声を聞いた瞬間僕はすぐさま扉を閉めた。
なんであいつがここに!?僕は恐怖と驚きに駆られた。
スーッ、ハーッと僕は深呼吸をし再び扉を開けた。
「あ~やっとでてきた」
変わらずにそいつは元気な声で話しかけてくる。
あぁ、吐き気がする。僕は先ほどいた僕とは別人のように振舞った。
「え?お見舞いに来てくれたの?無理して来なくてもよかったのに~」
僕は猫なで声で話す。
「ほら、これあげる。早く元気になって」
と僕にそいつは紙袋を渡してきた。
「あ、ありがとう」
そう僕が言い終わる前にそいつはもう僕の前から姿を消していた。
僕はベッドに倒れこんだ。
「あぁ、これだから人付き合いは嫌いなんだ」
僕は昔から、人との関わりが苦手だ、孤立したくない一心で、僕は本当の自分を隠し込め、臨機応変にその場その場に合うようにまるで別人かのようにふるまってきた。
僕は自分でも思うまるで仮面を付け替え、本当の姿を陰に落とし込めているようだ。
人との関わりは自分を偽ることでしか円滑に進まない。そう自分に言い聞かせてきた。
僕はこの日、紙袋を開ける気にもなれず、眠れもせずにただ夜が更けていった。
次の日。僕は重たい体を引きずるようにして校門をくぐった。昨日あまり眠れなかったせいか頭の奥がじんじん痛む。
教室に入るといつものように賑やかな声が飛び交っていた。僕はそれを遠くから聞きながら、そっと自分の席に座る。
「おはよ~」
誰かが声をかけてくる。
「おはよ!」
反射的に降格を少し上げ高めの声を作る。
これも仮面の一つ。授業中、ノートをとっているふりをしながら僕はずっと自分の内側に意識を向けていた。
今の自分はどの仮面をつけている?明るい僕?無害な僕?空気を壊さない僕?考えれば考えるほど胸の奥が苦しくなる。
昼休み、輪の中で僕は笑っていた。みんなが笑うから笑う。みんなが起こらないように言葉を選ぶ。本音が喉元まで上がってきても飲み込む。そうしないとまた一人になってしまうから。
突然視界が揺れた。耳鳴りがして足元がふらつく。
「大丈夫?」
誰かの声が聞こえたけれど、僕は笑って首を振った
「平気平気!」
仮面はこんな時でさえ外れない。
放課後、僕は逃げるようにして校舎を出た。人気のない階段の踊り場でとうとう膝が崩れ落ちる。息がうまく吸えない。
「…もう無理だ」
誰にも聞こえない声にならない声でつぶやいた。
少し落ち着くと階段の踊り場で何事もなかったかのようにかばんを持ち直した。誰にも見られていない。それだけで安心してしまう自分がいやだった。
家に帰ると昨日もらった紙袋がまだ机の上に置かれていた。中を見る気にもなれずそのまま放り投げる。
善意が重たい。期待されるのが怖い。
その夜もベッドに入っても眠れなかった。
目を閉じると、今日被った仮面が次々と浮かんでくる。笑う僕。気遣う僕。元気なふりをする僕。
どれも本当の僕じゃないのにどれが本当なのかもう今となってはわからない。
次の日も同じだった。その次の日も。学校へ行き、仮面を選び、笑い、疲れ切って帰る。
誰かと話すたびに心の中で答えを計算する。この人にはどの僕が正解だ?
ある日ふと思った、僕の周りには人がいるのに僕を見ている人は一人もいない。
見られているのは仮面だけ。
机に突っ伏していると頭痛が一段と強くなった。視界が白く滲む。
「またか…」
そう呟いた声は誰にも届かなかった。
天井を見つめながら僕は思った。もしこのまま消えてしまっても、みんなが知っているのは『仮面の僕』だけだ。それなら本当の僕は存在しなかったのと同じじゃないか。
放課後、誰もいない教室に戻った。机に置いたままのノートを開く。
--疲れた。――一人になりたい。――でも孤独は怖い。
無意識に文字を書いていた。慌てて消しゴムをかける。こんなもの誰かに見られたら終わりだ。本音は隠さなければ。
教室を出る直前、窓の外にふと目をやった。雲の切れ間から光がさしている。一瞬だけ空が明るく見えた。
「…気のせいか」
そう呟いて僕はまた仮面をかぶる準備をした。まだ外す勇気はない。
でも心のどこかで誰かが、仮面の奥の本当の僕に気づいてくれる。そう僕は心の奥で願っていた。
次の日、またいつものように学校へ向かう。先生、同級生、先輩、後輩。色々な人がいるけれど本当の僕を知ってる人は誰一人としていない。
学校に着くといつもと同じ賑やかな声であふれかえっていた。僕はその声を背中で受けながらそっと自分の席に静かに座る。
「おっはよ~」
誰かが僕に声をかけてくる。
「おはよ、」
しまった、ふいに来たものでつい冷たく返してしまった。
そう思い言い訳しようとしたとき、そいつーー彼女が口を開いた。
「あれ?今日なんか元気無さげ?」
うぐっ、痛いところをついてくる。
でも、僕は
「ん、平気!」
元気な声で返す。
「いや絶対嘘」
と彼女はきっぱりと切り捨てた。
そうだよ、嘘だよ。なんていうわけにもいかず僕は返した。
「え~嘘じゃないよ、元気!」
あぁ本当に僕は何をしているのだろう。自分に吐き気がする。
「本当に元気なの?じゃあよかった!」
よかった、か。何がよかったんだろう。でもまぁあいつの誤解が解けたので良しとしよう。
体育の授業中僕は体調不良と訴えて見学している。バスケットボールなんて何が楽しいのだろう。
そう思っているうちに女子の試合が始まった。
すると急にこちらにボールが飛んできた。
「危な!?」
僕はとっさに腕でボールを防いだ。服がめくれ腕が見える。
するとこちらに向かっている彼女の姿が。早く腕を隠そうとあたふたしているうちにあいつが目の前に来ていた。
「ごめ~ん、そっちに飛んで行っちゃった、大丈夫?」
と僕に声をかけてきた。僕はボールを渡し答えた
「大丈夫」
すると彼女は
「当たったとこ見せて?」
そう僕に言ってきた。
まずい腕を見せるわけにはいかない。そう思っていると
「早く当たったとこ見せて?」
彼女は急かしてくる。
「大丈夫だから」
僕が答えるが彼女は僕の腕をつかんだ。するとせっかく戻した服をめくられしまった。
すると僕の腕を見た彼女が
「なに、この腕、どうしたの」
その声が、頭の奥で何度も反響する。
体育館の天井がやけに高く見えた。 蛍光灯の光が白すぎて、世界が色を失っていく。
僕の腕は、彼女の手の中にあった。 細い線が、幾重にも重なっている。 時間をかけて刻まれた、消えきらなかった痕跡。 見られた。 終わった。
「……何でもない」
声が震えたのが、自分でも分かった。
彼女は笑っていなかった。 いつもみたいに軽口を叩く顔じゃない。
「何でもなくないでしょ」
低い声。 責めているわけじゃない。でも、逃がしてもくれない。
周りの歓声が遠い。 ドリブルの音が、水の中から聞こえるみたいに鈍い。
「大丈夫だから」
腕を引き戻す。 長袖を思いきり引き下ろす。
布の下で、心臓が暴れている。 先生の声が飛び、彼女はコートへ戻った。
でも、最後に向けられた視線が、離れない。 あれは、知ってしまった人の目だ。
放課後。 彼女は本当に僕の席に来た。 クラスメイトが数人残っている。
窓から差す光が斜めに机を照らしている。
「ねえ」
逃げればよかった。 でも、動けなかった。
「さっきのやつ」
きた。
「怪我じゃないよね」
一瞬で、いくつもの言い訳が頭を駆け巡る。ちょっと前にぶつけただけ 。 転んだ。 昔の傷。 どれも嘘だ。 でも、僕は嘘を選ぶ。
「猫に引っかかれた」
自然に笑う。 声の高さも、目の細め方も、完璧。
彼女はじっと僕を見ていた。 沈黙が重い。
「……そっか」
それだけ。 追及しない。 問い詰めない。 その優しさが、逆に苦しい。
「誰にも言わないから」
ぽつりと。
「言うわけないじゃん」
軽く言う。でも、目は笑っていない。 胸が締め付けられる。
共有された。 僕だけのはずだったものが、彼女の記憶にも残った。
その日から、世界の色が少し変わった。
彼女は今まで通り明るい。 クラスの中心で笑い、ふざけ、僕にも気軽に話しかける。
でも、ふとした瞬間、視線が合う。
その目に、あの日の体育館が映っている気がする。 僕は無意識に袖を引き下ろすようになった。 暑くても、脱がない。 手首を見られないように、物を渡すときは反対の手を使う。
距離を取る。
でも彼女は、距離を取らない。
「最近ちゃんと寝てる?」
「ふらつきすぎ」
「保健室行けば?」
軽い口調。 でも、ほんの少しだけ本気が混じっている。
やめてくれ。 心配なんて、いらない。 心配は、期待に変わる。 期待は、失望に変わる。 それを僕は何度も見てきた。
ある日、廊下で二人きりになった。 窓の外は曇り空。 彼女が言う。
「無理してるでしょ」
心臓が止まりかける。
「してないよ」
即答。
「してる」
間髪入れずに返ってくる。 その声は強くない。 ただ、確信している声だった。
「……別に」
うまく言葉が出ない。
彼女は一歩近づく。
「隠すの、しんどくない?」
その一言が、胸をえぐる。
隠すのがしんどい? 違う。 隠さないほうが、もっとしんどい。
「平気」
冷たく言ってしまった。
彼女の目が、一瞬だけ揺れた。
「……そっか」
それ以上は言わなかった。 僕も言えなかった。
彼女が去ったあと、廊下に一人残る。 呼吸が浅い。 今、少しだけ、仮面がずれた気がした。 危なかった。
あのまま続けていたら、何かがこぼれていた。 こぼれたら、戻れない。戻れなくなったら、ここにはいられない。
そう思った瞬間、足元が少し揺れた。 廊下の窓に映る自分の顔を見る。
ちゃんと笑えている。 ちゃんと普通だ。 目の下の影も、少し俯けば隠れる。
大丈夫。 まだ壊れていない。
教室に戻ると、彼女は友達に囲まれて笑っていた。 さっきのやり取りなんて、なかったみたいに。
あの真剣な目も、
「隠すの、しんどくない?」
という声も、 全部幻だったみたいに。
僕は自分の席に座る。 机に触れる。 ノートがそこにある。 閉じられている。 静かに、何も語らず。
ふと、彼女の笑い声が近づいた。
「ねえ、それプリント見せて」
何気ない声。
僕は反射的にノートを押さえた。
一瞬、彼女の視線がそこに落ちる。 ほんの一瞬。
それだけで、喉がひりついた。
「……なに、そんな守らなくても」
冗談めかして笑う。 でも、その目は少しだけ探るようだった。
「別に」
何でもない顔で返す。
彼女はそれ以上触れなかった。
でも、あの一瞬。 あれが頭から離れない。
気づいているのか? あのページの存在を。
いや、知らないはずだ。 誰も見ていない。 消した。 確かに消した。
放課後。
教室には僕一人。 椅子の脚を引く音がやけに響く。
静まり返った空間は、安心できるはずなのに、今日は違う。
机の上にノートを置く。 指先が、無意識にあのページの位置を探る。
開かない。 開くな。 でも、確かめたい。 矛盾した衝動が、胸の中でぶつかる。
もし、誰かに見られていたら? もし、あの言葉が残っていたら?
いや、消した。 完璧に。 なのに。
教室の後ろのドアが、わずかに軋んだ気がした。
振り返る。 誰もいない。 気のせい。 気のせいだ。 そう言い聞かせる。
でも、さっきの彼女の視線が蘇る。 “守らなくても” あの言葉。
まるで、何かを知っているみたいだった。 胸の奥で、嫌な想像が広がる。
体育のとき、 放課後、 廊下ですれ違った誰か。
僕は、本当に一人であのページを書いたのか?
本当に、誰にも見られていない? 思い出そうとする。 でも、曖昧だ。
記憶が濁っている。 怖い。
怖いのは、知られることじゃない。 知られたあと、何も起きないことだ。
何も言われず、何も変わらず、 でも『知っている人』が存在すること。
それが一番、逃げ場がない。
ノートに視線を落とすと、消したはずの余白が目に入る。そこに何か見えた気がして、胸がざわついた。
昼休み、席を立つ気力がなく、僕は一人で弁当を開いた。
周りの会話が、ガラス越しに聞こえてくるみたいだった。
参加すれば笑える。でも今日は、それすら億劫だった。
ふと、机の横に置いたノートがずれていることに気づく。
朝は確か、きちんと揃えていたはずなのに。嫌な予感がした。ノートを開く。余白は白いままだ。ほっとした瞬間背中に冷たいものが走る。
ページの端が、ほんの少しだけ折れていた。
……誰かが、触った?心臓が早鐘を打つ。
勝手にページをめくる指が震える。
他には何もない。でも、確かに“僕の知らない痕跡”がそこにあった。
放課後、教室に残るのが怖くて、僕は急いで鞄を持った。
帰ろうとしたとき、床に何かが落ちているのが見えた。
ノートだった。僕のノート。さっきまで、鞄に入っていたはずのもの。
拾い上げると、ページが開いたままになっている。
――疲れた ――一人になりたい ――でも、孤独は怖いそんな文字が薄く残っていた。
それがわかった瞬間血の気が引いた。
「……嘘だろ」
誰かに、見られた。
あの時しっかり消していれば、消えていなかったことに気づいていれば。
そう思った瞬間、視界が歪んだ。頭の奥で、何かが音を立てて崩れる。
急いでノートを閉じ、鞄に押し込む。息が浅い。
周りを見渡すけれど、教室には誰もいない。それでも、逃げるように教室を飛び出した。
階段を下りる途中、足がもつれ、咄嗟に手摺にしがみつく。
胸が苦しい。仮面が、剥がれかけている気がした。
「見られたら終わりだ」「知られたら、嫌われる。離れられてしまう」「だから――」
だから、もっと上手く隠さなきゃいけない。
そう言い聞かせながら、僕は俯いて歩いた。
でもその心の奥で、消せない感覚が、静かに残っていた。
――あの言葉を、――誰かが、知ってしまったかもしれない。それが怖いのに、なぜか同時に、ほんのわずかだけ、胸が痛んだ。
その日は、家に帰っても何も手につかなかった。
夕飯の味もしない。テレビの音も、家族の声も、ただの雑音に過ぎなかった。
ベッドに倒れ込み、天井を見つめる。
頭の中では、あのノートのページが何度も開いては閉じられていた。
誰かの目に触れた、僕の本音が、隠さなければいけないことが。
想像するだけで、胸の奥が締め付けられる。
でも同時に、あの文字が“誰かに存在を知られた”という事実が、どうしようもなく引っかかっていた。
翌日、学校へ向かう足取りは、昨日よりさらに重かった。
教室に入ると、いつも通りの朝が流れている。
誰も、僕を特別視していない。少なくとも、表向きは。
「おはよ」
いつものあいさつだ
「おはよう」
仮面は今日も問題なく機能した。顔も、声の高さも、完璧だ。なのに、胸の奥だけが落ち着かない。
昼休み、僕は一人で校舎の端にある階段を上った。
人の少ない場所。ここなら、仮面を少し緩めてもいい。
踊り場の窓から外を眺める。今日の空は、相変わらず曇っていた。
それでも、前より少しだけ明るい気がする。
そのとき、足音がした。反射的に背筋が固まる。
逃げ場を探すより早く、誰かが隣に立った。
「ここ、よく来るの?」
低い声。今まで、意識したことのなかった存在。
「……たまに」
声を作る余裕はなく、素のまま答えていた。沈黙。気まずい。
仮面を被るべきだと頭では分かっているのに、体が動かない。
「静かだよね、ここ」
それだけ言って、その人は窓の外を見た。
僕の方は見ない。探るような視線も、詮索もない。それが、少しだけ楽だった。
「……うん」
短く答える。それ以上、会話は続かなかった。
でも、その沈黙は、不思議と苦しくなかった。
チャイムが鳴り、その人は先に階段を下りていった。
すれ違いざま、何かを落とした音がする。
拾い上げると、それは小さなメモだった。返そうと思って開いた。
その紙に、短い文字が書かれていた。
――昨日のノート、――勝手に見てごめん。――でも、消さなくていいと思った。
心臓が、大きく跳ねた。名前は書いていない。理由も、慰めもない。
ただ、それだけ。しばらく、動けなかった。
仮面も、言い訳も、全部置き去りにして、僕はその文字を見つめ続けた。
消さなくていい。そんな言葉、初めて向けられた。
怖い。それなのに――胸の奥で、何かがゆっくりとほどけていく。
僕はメモを握りしめ、そっとポケットにしまった。仮面は、まだ外せない。でも、外さなくても、気づいてしまう人がいるかもしれない。そう思えたこと自体が、この日一番の、変化だった。
それから数日、僕はあのメモのことを誰にも話さずにいた。
ポケットの奥に入れたまま、時々確かめるように指で触れる。
そこにあるだけで、胸の奥が少しだけ温かくなった。
でも同時に、怖さも増していった。本当の自分を知られたまま、何も起きていないふりをすることが。
ある日の放課後、教室に残ってノートを片付けていると、背後から声がした。
「ねえ」
心臓が跳ねる。振り返ると、階段の踊り場で会った、あの人だった。
「少し、話せる?」
逃げ道はいくらでもあった。用事がある、と笑って断る仮面も、すぐに用意できた。
それでも――僕は、頷いてしまった。
人のいない中庭のベンチに座る。沈黙が落ちる。
先に口を開いたのは、相手だった。
「ノート、返そうと思って」
差し出されたのは、僕のノート。
見慣れた表紙。でも、今はそれがやけに重く見えた。
「全部は見てない」
そう前置きしてから、その人は続けた。
「でも、あのページだけは、ちゃんと読んだ」
喉が鳴る。
視線を上げられない。
「……気持ち悪いよね」
絞り出すように言った。
「こんなこと考えてるやつ」
「思わない」
即答だった。
「疲れたって言うのも、一人になりたいって思うのも、普通だと思う」
少し間を置いて、こう付け足された。
「孤独が怖いって書いてたのも、正直でいい」
胸の奥が、ぎゅっと縮む。
「……でも」
僕は、とうとう言ってしまった。
「僕、人によって僕自身の人を変えるし、本当のこと言わないし、嘘つきだし」
声が震える。止まらない。
「嫌われたくなくて、一人は嫌で、仮面被って、都合のいい人間やってる」
「だから、今こうして話してる僕も、本当じゃない」
全部言ってしまった。一番知られたくなかった部分。
しばらく、返事はなかった。
やっぱりだ、と思った。これで終わりだ。でもこれでいいんだ。
「……それでも」
その人は、静かに言った。
「今、ここで話してるのは本当でしょ」
顔を上げる。目が合った。
「仮面被っててもいいよ」
「それも含めて、君なんだと思う」
胸の奥で、何かが崩れた。
涙が出そうになるのを、必死で堪える。
「離れないよ」
「少なくとも、こっちは離れるつもりはない」
その言葉は、強くも派手でもなかった。
でも、逃げ道のない、まっすぐな言葉だった。
僕は、初めて仮面を下ろしたまま、人の前に座っていた。
取り繕わず、笑わず、弱いままで。それでも、誰も去らなかった。
その日から、世界が劇的に変わったわけじゃない。今でも仮面は被るし、怖くなる日もある。
でも――一人じゃない、と思える場所ができた。
ほんとの姿を隠してつらい生活を送ってもも。
本当の姿を知っている誰かが、それでもずっと隣にいる。
それは、僕にとって生きていく理由と呼んでもいいものだった。
空を見上げると、雲の切れ間から光が差していた。今度は、気のせいじゃない。僕は、少しだけ前を向いて歩き出した。
この小説に興味を示しご覧になってくれた皆様。本当にありがとうございました。まだ初心者なので是非小説の感想やアドバイスをいただけると嬉しいです。これを機に皆さまの心にそっと寄り添うようなそんな小説を投稿していきたいと思っています。時には路線変更やつらく挫折しそうなことなどがあると思いますが、是非応援してもらえると活動の励みになります。最後にもう一度言いますがこの小説をご覧になってくれた皆様本当にありがとうございました。




