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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【2章】ヒトとケモノと
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ヒトとケモノと 2-2

 現在時刻は10時半――私と匁流君でアホな会話を挟みながら仁さんの帰りを待っている。餌を待つ雛鳥の如くピーチクパーチク騒いでいる訳だが、一旦気になり出すと時間の経過が異様に遅く感じるのは何故だろう。電子レンジで食品を温めている数10秒〜数分間、カップラーメンにお湯を注いだ後の3〜5分間、炊飯器でお米を炊いてる数10分間と、待ち遠しくもあるが誰しもが平等に与えられている時のBPMにノリきれずセカセカしてしまう。人間の1時間は犬猫の6〜8時間に相当すると聞いたこともある……飼い主を待つペットの気分を体感しているようだった。


「ヒメちゃんの今日の予定は?」

「うーんとね、基本ダラダラかな?」

「そうなんすね、良いゴミ分……いや、ご身分っすね」

「可燃ゴミなら許す」

「不燃ゴミは嫌なんすね」

「せっかくなら燃やして欲しいじゃん?不燃だと燃えないんでしょ?」

「燃えないから不燃ゴミって分別させている訳じゃないっすよ?」


「……え?」

「……は?」


「……も、もちろん知ってるよ?わワザとに決まってるじゃん!いや、私なりのボケだね、ボケ!私たちの掛け合いに笑いは必要でしょ?だから私からツッコミどこを提供してあげているんです!はぁー、匁流君は察しが悪いなー」

「じゃあ、不燃ゴミの定義は知ってます?」

「定義?そんな難しい日本語なんて知らん」

「定義から分からないんすね……」

「じゃあ匁流君は知ってるの?」

「定義?不燃ゴミ?」

「不燃ゴミ!」

「そうっすねー、燃えはするけど燃焼し切れずに残渣が出てしまうので焼却施設とは別の施設で処理する物っす!」

「知っている、だと……!えぇい、カンニングしたな!不正は火破りの刑よ!」

「火を破るって超能力じゃないっすか、最早……火炙りっす」

「うるさいうるさい!匁流君ばっかり知識をひけらかしてズルいぞ!」

「そう言われても……ヒメちゃんもなにかタメになる雑学とかないんすか?」

「もちろんあるよ!えぇっと……ゴリラの学名はゴリラゴリラゴリラなんだよ!知ってた!?」

「はぁ……」

「私の博学っぷりはどうよ!」

「そうっすねー、その話って結構有名なんすけど、実は間違って伝わってるんすよ」

「えっ?」

「西ローランドゴリラという種類の学名がゴリラ・ゴリラ・ゴリラであってゴリラ全体を指す訳ではないんすよ」

「えぇっ!そうなの!?」

「はい、ヒメちゃんの負けー」

「うぎいぃぃぃ……」

「じ、じゃあこれは……?THE虎舞竜の有名曲ロードだけど実は13章まであるんだよ!」

「ヒメちゃんが虎舞竜知ってる方が逆に驚きっすけど、ロードは見事に復活を遂げて15章まで制作済みっす!」

「な、なにいぃぃー!!」

「はい、ヒメちゃんの負けー」

「ぎゃあああああああ……」

「さっきから反応が怖いっすよ」

「もういい……私はバカで可愛い女の子を目指すもん」

「その前向きさは憧れるっす!」

「うるさい!……で?」

「ん?なんすか?」

「匁流君の予定は?」

「俺は粗大ゴミっすねー」


 ゴミの話に戻すな。また私の無知の露呈ループに入ってしまう。


「今日の予定!」

「あぁ!今日は――」


 ピンポーンと玄関から次の展開を知らせるチャイム音が鳴る。これ以上の無駄話は禁止と言わんばかりのタイミングだ。


「あ、はーい」

 外に聞こえるはずもないのに思わず室内で返事をしてしまう。それに少し恥ずかしさを感じながらドタドタと玄関へ向かう(カメラ付きインターホンが玄関に元々備え付けられているのだが、仁さんの意向で電源を切られている。意味ねぇー)。


「えっと……どちら様でしょうか?」

「突然の訪問失礼します。暇さんはいらっしゃいますでしょうか?」


 扉を開けると……ロングの黒髪をキラキラと靡かせているスーツ姿の綺麗な女性が玄関の外で凛とした姿勢で立っていた。


 えっ、なんのフラグ踏んだ?え、え、さっきの話がフリになっちゃったじゃん!え、え、え、待って待って……仁さんに女性が尋ねて来る?し、しかも綺麗な綺麗な大人の女性!?え、仁さんに女なんていないはずでは……?


「あの……?」

「あっ、すみません!とても綺麗な方でしたので見惚れてしまいました」


 思わず心の声が漏れてしまった……クソっ、口に出すことで余計に敗北感を味わってしまう。


「ふふっ、どうもありがとうございます」

 笑顔で返された……クソっ、流石は大人の女性だ、愛想笑いもお手のものか!

「ご、ご訪問頂いたところ申し訳ないのですが所長の暇は只今外出中でして……」

「そうなのですね、それは都合が良い」

「……えっ?」

「私としては助手のお二人とお話したかったもので」

「私たちと……?」

「はい。お時間宜しいでしょうか?」

 仁さんではなく私たちと話したい、だと……?そんなケースなんて今まであったか?

「は、はぁ……分かりました。匁流君も大丈夫?」

「もろちんっすよー!なんか面白そうっすね」


 目をキラキラとさせている匁流君だった。この女性の艶やかな髪と良い勝負だ……どこに面白味を感じたのか。玄関でこれ以上やり取りするのも悪いので、突然現れた謎の美女を事務所内へ迎え入れる。


「私は佐々動物生命研究所の理事長秘書を務めている煤木(すすき)と申します。宜しくお願いします」

「は、初めまして!いとま探偵事務所所長助手筆頭の火芽纏と言います……!」

「助手2号の三刀匁流です、宜しくっす!」


 勢いで虚偽の自己紹介をしてしまった……クソっ、なにをビクビクしているんだ、私!社会での営みに慣れてなさ過ぎだろ。


「ご丁寧な挨拶ありがとうございます」

 謎の艶髪女性こと煤木さんを客間にあるソファまで案内して、併せて三人分のお茶を用意したところで自己紹介になった(今度はちゃんとお茶を運べた……!ってか、匁流君も手伝ってよ!)。


「それで俺らに話ってなんすか?」

 勝手ながら私が場を回すと思っていたが意外なことに真っ先に切り込んだのは匁流君だった。


「そうですね。結論から申し上げると……暇さんには私どもの研究所と言いますか理事長専属の相談役になって欲しいと打診していました」

「そうなんすね!」

「ただ、気持ち良いぐらいキッパリと断られてしまったので……」

「そうだったんすねー」

 裏でそんなことになっていたのか!匁流君も適当に返してるけど重要なことじゃない!?


「報酬もしっかりと勉強させてもらったつもりだったのですが……残念です」

 なん、だと……!仁さん、仁さん、仁さんよ!大金をゲットするチャンスを捨てたのか!?なんてことを……!


「ですので、暇さんにはほんの数日間だけ理事長の話し相手になって頂きました。と言っても殆どは通話形式が多かったようで実際に対面したのは1回だけと聞いています」

「引き篭もりニートの所長が失礼しましたっす」

「いえ、理事長も大変満足されてました」

「どんな話をしたかは聞いてるっすか?」

「もちろんです。それをお伝えする前に私からも宜しいですか?」

「?」


「暇仁という人間について、です」


「仁さんがどうかしたっすか?」

「単に興味が湧きまして……ほんの好奇心です。彼の人柄など聞かせて頂けると嬉しいです」


 暇仁――いとま探偵事務所所長。

 ・年齢は40代で学歴経歴は不明

 ・右打ち右投げ

 ・髪ボサボサ

 ・無精髭を生やした中肉中背

 ・細い目(まつ毛は長め)

 ・体毛は薄め(腕に浮かぶ血管がセクシー)

 ・服装は意味不明(稀にスーツ)

 ・装着品は全て安物

 ・パンより米派

 ・好きな食べ物は炒飯

 ・歩くのが早い

 ・すぐに言い訳に逃げて仕事をサボろうとする

 ・好きな言葉は「謎は謎のままが美しい」

 ・笑顔が可愛い

 以上、仁さん寄生虫こと火芽纏の提供でお送りしました。


「用紙に書いてまでご丁寧に説明頂いてありがとうございます」

「ヒメちゃん……流石にキモいっす」


「ハッっっ!!!」

 意識がトリップしている内にメモ用紙に箇条書きをして嬉々として説明している私がいた。宇宙エネルギーによって地球外生命体に体を乗っ取られた可能性があるっ!?頭にアルミホイル巻かないと……!


「なるほど……ご自身のことはあまり開示されない方なんですね」

「そうなんですよー!分かります?あの人って他人のことを暴く仕事してる癖に自分のことはひた隠しにするんですよ。個人情報保護がなんちゃらとか言って……共同生活しているのに今更なに言ってんだって感じです!謎めくことでモテるとか思ってるんですかね?勘違いも甚だしいです!確かに優しくて笑顔が可愛いですがっ!」

「ヒメちゃん……?」


「ハッっっ!」

 次は悪魔に乗っ取られてしまったようだ……悪霊退散!


「悪魔なヒメちゃんは置いといて、煤木さんはどんな印象持たれてるっすか?」

「そうですね……火芽さんの情報と似たり寄ったりで素敵な男性と思いましたし自我の強さは特に印象に残りました」

 ……はぁ?今なんて言いました??


「自我の強さっすか?」

「ご自身の中にある軸と言いますか……こだわりが強固でそれが良さでもあると思われますが、人間関係の構築は相手のタイプにだいぶ左右されてしまう気がします。軸が太い故に全くブレない、こだわりが強い故に誘惑に靡かない、他人の下心や思惑に敏感なので利害関係を異様に警戒している感じでしょうか」

「ははー、言い得て妙っすね!」


「大概の人間が少なからず損得勘定で人間関係を構築していく部分があると思いますがそれを良しとしない。危険人物だろうと犯罪者だろうと社会不適合者だろうと彼の軸にハマれば誰でもなんでも受け入れる。固定概念に縛られない自由な人とも言えますが……」

「それは同感っすねー」


「それに彼の弱さも少し分かりました」

 仁さんの弱さ……?


「いえ、あまり関係ないことでしたね。話を戻しましょう」

 おい、言えよ!自分から暇仁のことを聞いておいて大事そうなことを隠すな!謎めかすな!


「ふふっ、これが彼の得意な手法の一つでは?」

「おふっ……」

 クリティカルヒット……効果は抜群だ。確かに仁さんの得意戦法で良く使う手ではある。


「そんなにヒメちゃんをイジめないで下さいっす。仁さんが戦闘不能になったら諸共なんすから」

 そうだ、もっと言え!!


「失礼しました。反応が可愛らしくて、つい……」

 ふふっと僅かに笑みを溢した表情に目が離せなくなってしまう。いちいち所作が綺麗だな……クソっ!


「それで仁さんの弱さってなんすか?」

「それは……身内です」

 身内……?


「……と、言うと?」

「暇さんは、第三者へ見せる顔とお二人へ見せる顔がだいぶ違うように感じます。当然と言えば当然ですが……先程もお伝えした通り、価値観の内か外かが重要――その中に入り込んでしまえば全てを受け入れてしまう。元々の性質なのか、後天的に身に付けたのか……それは余りにも危うい」

「要は気に入ったモノも大切にするってことっすよね?それって当たり前じゃないんすか?」

「その通りです。誰しも同じような感覚や経験ぐらいあると思いますが、彼は法律や倫理すら無視してしまう点が他とは逸脱しています」

「なにか根拠とかあるんすか?」

「根拠という程のものはありません。あくまで私の主観と印象いうやつです」

「そうっすか」


 他人かと間違える程に匁流君の声は低く重々しくなった理由とは。


 コップに出来た結露がひっそりと時間の経過を知らせる。誰にも気付かれず、ただ静かに。

次話は30日7:00に投稿予定です。

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