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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【2章】ヒトとケモノと
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ヒトとケモノと 2-1

 薬降る 雲の隙間に 笑み零す 地を這う私 暗転見上げ


「64点!」

 やかましいわ!


「うーん、五七五で終わってたらスッキリしてる感じ出てるんすけど……七七で崩れたっすねー」

「あの……真面目に評価しないで。確かにって思っちゃったじゃん!」

「蛇足ってこういうことなんすね、勉強になるっす!」

「嫌なところで勉強しないで!」

 ただの反面教師じゃん。

「短歌ってなんだかんだ古いっすよねー。確か奈良時代ぐらいには既に詠まれてたんすけど……それだと1300年以上前からある文化ってことじゃないっすか?ヒメちゃんですら詠める手軽さを考えるとマジでコスパ良いっすよね!」

「私ですらってところは議論の余地があるとして……」

「そこに余地はないっすよ?」

 あるよ!あるはずだよ……!

「1300年も前か……なんかピンと来ないというか本当に実在していたかも怪しく感じるぐらいに現実味ないよね」

「その時代の人たちがいたからヒメちゃんが今日を生きてるんすよ?」

「そうなんだけど……どうしても実感は湧かないよね」

「実感が湧けば良い訳でもないっすからね、別にどうでもいいんじゃないっすか?」

「もう少し物思いに耽ようよ!過去から続いている素敵な文化を偲ぼうよ!」

「じゃあ、ヒメちゃんも1000年以上長生きすればいいんすよ!そうすれば今の文化や生活に実感を持ったまま語れるっすよ」

「いやいや、無理でしょ……」

「……(チラっ)」

「ん?」


 匁流君の視線は、先日話題に挙がって無解決になったであろうクライオニクス関連の書面をチラチラと向いていた。


「無理無理無理!書面上の内容だけでは詳細は分からないけど、冷凍保存なんて怖いし蘇る保証もないし!怖い怖い怖い!!」

「えー、良い案だと思ったんすけどねー」

「死後の肉体を冷凍保存させるって確か匁流君言ってたよね?ってことは一度死なないといけないじゃん!まだ死にたくないよ!美味しい物もまだまだ食べたいし、好きな漫画の結末も知りたいし、それに……うん、あれだ!まだまだやりたいこともあるもん!」

「美味しい物も好きな漫画も人の金で満たしているのがタチ悪いっすよね」

「仁さんのスネが溶け切るまでしゃぶり尽くしてやるんだからね!」


 そうなのです。私に関する全ての費用は仁さんのお財布から出ているのです!衣服、化粧品類の消耗品、スマホなどの備品、漫画などの娯楽品などなど……必要な際にお願いするとお小遣いをもらえるシステム。なので、彼のお金なくしては私の生活は成立し得ない、神様仏様仁様なのだ!でもまぁ、こんな可愛げのある若い女性と共同生活出来るのだから当然と言えば当然だろう。逆に感謝されて然るべきかもしれない。


「勘違い寄生メンヘラ地雷女って怖いっすね」

「うるさい!嫌な女の称号を制覇させないで!でも仁さんのスネには私の一部が既に寄生して一体化してるから今更言われても手遅れですー!」

「もはや生物兵器だったんすね。寄生虫じゃなくて、もうキメラじゃないっすか!」

 少なからず虫ではない……え、虫?……いやいや、まさか。


「そんなことないもん!あれ、そう言えば……キメラってなんだっけ?」

「虫のヒメちゃんには無用な内容っすけど……」

 虫の前提で進めるな。

「キメラってのは、ギリシャ神話に登場する怪物が名前の由来になった、生物学だと同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混ざり合っている存在って感じっすかね。分かりやすい例だと、エジプトにあるスフィンクスがキメラっす。日本だと鵺がイメージしやすいかもっすね」

「なんでだろう……日本人なのにスフィンクスの方が分かりやすい……」

 日本人として失格か!?

「まぁスフィンクスはシンボルの像があるっすけど鵺は想像上の妖怪っすからね」

「見慣れているかどうかの問題ってこと?」

「そうっすね。なので、虫とメンヘラの融合体であるヒメちゃんも立派なキメラっす!」

「見るに堪えないね、私……」


 化物に化物をぶつけた挙句、統合してより事態が悪化したホラー映画を思い出した。あれもキメラってことかな……?


「そんな見るに堪えないヒメちゃんが急に短歌とか詠み出すんで滑稽滑稽烏骨鶏!って、ウケる」

 えっ、烏骨鶏も烏と鶏のキメラって、こと!?

「良いじゃん、別に!急に短歌を詠みたくなっただけなんだからね、勘違いしないでよね!」

「ステレオタイプのツンデレっすねー」

「でもたまに、突拍子もないことしたくならない?」

「それはあるっすけどね」

「匁流君はどんなことした?反面教師にするから教えて?」

「意趣返しっすね!そうっすね……闇バイトを仕切ってる闇業者に、より儲かる闇仕事斡旋して群がってきたところを一斉検挙させたり……強引な勧誘している新興宗教者に声を掛けられたんで、論理的回答が出るまで3時間ぐらい質問攻めしたり……東京都下で開催される高額ギャラ飲みを紹介してノコノコ来た子に『やーい、都落ちー』って馬鹿にしたり……」

「あー、もう分かったからこれ以上はストップ!!」

 倫理観どうなってるの、こいつ……。

「人は皆、似たり寄ったりっすね」

 一緒にすんな。


「ねぇねぇ、匁流君。そう言えば仁さんってどこ行ったか知ってる?」

「俺が知ってると思ってるんすかー?自分のスケジュールすらまともに把握していないのに他人の行動を確認出来ている訳ないじゃないっすかー」

「ですよねー」

 聞くんじゃなかった。


「ただ、ヒメちゃんに行き先も告げずに外出ってことは……もしかしてアレじゃないっすか?」

「……ん?アレって?」

「アレっすよ、ア・レ!」

「だから、なによ?」

「頭も悪いし勘も鈍いっすねー!」

 良いとこなくて悪かったな。

「無解決しに行ってるんじゃないっすか?」

「あぁっ!」

「仁さんって、何気ないことはちゃんと言うっすけど、無解決のことは全然触れもしないっすからねー」

「そう言えば、そうか……」

「可能性はあるっすよ」

「ってことは……」

「そうっす!」

「「やったー!!」」

 喜びを分かち合う二人。手の平を高く上げてピョンピョン跳ねながらのハイタッチだ!

「これで来月分の生活も安泰だー!」

「これでアングラ的認知度が上がって変なオモシロ依頼が舞い込むっすー!」


「「……えっ?」」

 固まる二人。今度はお互いの頭上に浮かんだハテナマークがポンポンとハイタッチしていた。


「匁流君……なんて言った?」

「これで、いとま探偵事務所の知名度が上がって色々と依頼が舞い込むっす」

 嘘吐け、このアホンダラ!

「え、アングラ?オモシロ依頼?」

「あ、そっちっすか」

 あっちもそっちもない。

「アングラと思われたら駄目じゃん!それじゃ真っ当な探偵依頼なんて余計に来なくなっちゃうよ!?」

「そんなクソ地味な依頼なんていらないっすよ」

 なにを求めてんだ、こいつ……


「そう言うヒメちゃんだってつまんないこと言ってたじゃないっすか!」

「いやいや、生活費は大切でしょ!?私たちは仁さんのお財布に命を握られているんだよ?収入がなくなったら路頭に迷って銀行強盗しないといけなくなるんだよ!?」

「それこそ、いやいやって言いたいっす……」

「お金は大切!生きる上でなにより大切!現代の貨幣社会で生き残るにはお金がないと太刀打ち出来ないでしょ!?」

「その銭ゲバキャラなんすか?」

「パンがなければ金貨を食べればいいじゃない」

「コインチョコの話っすかね」


 バカ二人によるバカバカしいやり取りだった。あ、こ、これはネタで言ってるだけで、そ、そんなお金に貪欲な訳じゃないんだからね、勘違いしないでよね!


「それにしても仁さんどこ行ったのかな……」

「さぁ?」

「朝食はちゃんと食べてて……ちょっと目を離した時にはいなくなってたんだよね」

「ヒモ男が養ってる女の目を盗んでパチンコ行ってるみたいっすね」

「酷い例えだけど、なんかしっくりくるのはなんでだろう……」

 実際に養われているのは私の方だけどね、スネ齧り万歳!

「ヒメちゃんにも俺にもなにも言わずの外出……大っぴらに出来ない理由がある……?はっ、もしかして!」

「え、なになに?」


「他に囲ってる女のところっすかね?」


「……」

 いやいや。


「仁さんの女性関係って、それこそ謎めいているっすもんね!」

 いやいやいや。


「重要なことは隠したがる人だから、囲ってる女性がいてもおかしくないっす!」

 いやいやいやいやいや……ねぇ?


「それはどうかなー?だって仁さんだよ、仁さん!あんな仕事もろくにしないほぼニートみたいな中年男性に女性が近寄ってくるとか……ねぇ?た、確かに?笑った時のクシャってなる表情が可愛かったり、仕事しないとは思えないほど頼りになったり、あれ、なんて言うの?……そう!包容力があるとか?全体的に優しい感じはあるけどさー?」

「貶してんだか褒めてるんだか分からないっすね」

「あんな男性のどこが良いのかって話ですよ!?ねぇ、世の女性陣よ!もっと素敵な方なんて世界にいっぱいいるからわざわざ仁さんを選ぶ必要がないんですよ!分かりますかっ!?」

「なんか圧強いっすね」


「分かるよね?」

「……っす!」


「ヨシっ!仁さんに女なんていない。仁さんに女なんていない。仁さんに女なんていない。仁さんに女なんていない。仁さんに女なんていない」

 嘔吐物を見るかのような表情で私に視線を送る匁流君の姿がそこにはあった。


「仁さんに……?」

「……お、女なんていないっす!」


「ヨシっ、OK!!!」

 そう見られてもおかしくない光景がここにはあった。


「なんすか、もう……急に怖くなるじゃないっすか」

「匁流君が変なこと言うからじゃん!」

「別に変なことじゃないっすよ?仁さんだって立派な男性なんすから彼女の一人や二人ぐらい――」

「仁さんに……?」

「お、おぉ女なんていないっすぅぅぅ!」

「分かればよろしい」

「だから怖すぎっすよ……」


 現在時刻は午前10時――晴れ渡った空ですら堪えかねたのか陰りを見せ始めている。天気予報では降水確率は低かったがどうなることか。え、私って空にも呆れられてる?


 9時前に遅めの朝食を摂っていた仁さんが知らぬ間にいなくなってから約1時間が経過している。キメラ疑惑のある私こと火芽纏と今日はなんだか押され気味の匁流君こと三刀匁流は、事務所兼自宅のリビングにて、いとま探偵事務所所長である暇仁の行方を話していたはずだが、毎度お馴染みで弊社の名物でもある話題の脱線の迷路に嵌っているようだった。雑談ってこんなもんだよね?……ね?


「仁さん、早く帰って来て欲しいっす……」

 匁流君が肩を落とし項垂れているご様子。そんなに疲れてどうしたのかな?

 

「仁さんに……?」

 この上の句に続く下の句を答えよ。

2章開始。次話は29日7:00投稿予定です。

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