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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【1章】Hello world
4/20

Hello world 1-3

 涙の数だけ情けなくなる私を余所に、謎の客人が事務所を去ってから少しばかりの静寂が部屋全体を包んだ。


「あの人……異様に顔色悪かったなぁ、ダウナー系どころじゃない血色でしたね」

「ヒメちゃんの失礼さに周囲が青ざめそうっす」


 図らずも空気を壊したのは私でした。空気読まないキャラは匁流君のはずなのに……


「仁さん、さっきの人って誰だったんすか?」

「あぁ、少し前から付き合いのある人だよ。知人以上友達以下って感じかな」

 専売特許である空気壊しを遺憾なく発揮する匁流君。

「そうなんすかー!友達以下なら大した相手じゃないっすね」

 非常に酷い言い草である。上司の知人に対しての発言レベルが限界突破している(よし、これで先程の私の失言は上書きされたな)。

「ははっ、そんな感じそんな感じ」

 認めるな。それでいいのか!?

「依頼人とかでもないんすか?」

「どうだろうね」

「仕事の依頼じゃないんなら金にもなんないっすねー」


 酷い言い草を超えてただ失礼極まりなかった。よくポンポンと失礼なことを発言出来るものだ。その度胸というか無神経な態度が逆に好感触になると謎の印象操作を受けそうになる。ダメダメ、私はそんな悪辣な女子じゃない。


「ヒメちゃんも酷い言い草っすねー」

 だから、みんなして私の地の文を勝手に見透かすな。

「滅相もない!ワタシヨイコダヨ」

「相変わらず嘘下手っすね」

「わ、私のことは良いんです!仁さん……先程のやり取りが妙に気になるのですが」


 気付けばソファに移動して寝そべっている仁さんに対して言葉を繋ぐ。惰性を貪るのだけは特急並みに早いな、この人。


「お互い含みのあるやり取りだったように聞こえましたが、なんかのっぴきならない事情などあるんですか?」

「のっぴきならない……言い得て妙だね!ヒメちゃんって、もしかして国語の成績良かった?」

「えっ、えぇ!それなりには……」


 もちろんただの見得であり成績は全教科悪い方だった。頭が悪いというよりは授業が私の思考に追い付いていないというか教師の進め方や教え方に難があったというか教科書に嫌われていたというかなんというかそのえっととにかく時代が悪いだけだ。そそう!じ時代だ、私が生まれてくるタイミングが悪かっただけなのだ……うん?その理論だと、知能レベルは別としても相対的に私が悪いことになっていないか??おやおや、とんだ迷路に嵌り込んだものだ。


「とにかく!重要なことでしたらもっとしっかり話した方が良かったんじゃないですか?」

「いやいや、既に結論が出てる話だったからね、これ以上話す理由がないんだよ」


 そ、そうかな……?詳細はもちろん知る由もないが、もっと会話を膨らませることぐらい出来たんではないかと勝手ながら邪推してしまう。


 秒針が沈黙の世界を動かす。世界が変わればその表面上で生活している我々も変化せざるを得ない。微塵切りにされた会話は一度生き絶えるしかないのだ。変わらないものはない、人であれ空気であれなんであれ。


「で、さっきの人は誰だったんすか?」

 匁流君は頑なだった。どんなメンタルしているんだろう、少し分けて欲しいぐらい。

「ははっ、粘るね!その粘りに免じてこれからヒメちゃんが美味しい昼食を作ってくれるってさ」

「えっ、あぁ、もうそんな時間ですか」


 気付けば時刻は昼前を指していた。時間が経つのが早い。件の客人の滞在時間なんて短いものだったから逆算して考えると……仁さんとのダメダメな会話でだいぶ時間を浪費していた。そんなことあります?まぁ実際にあったんですけど……ダメダメ過ぎるでしょ、私。


「本日のランチは炒飯です」

「「わーいわーい」」


 そんなに人気メニューだっけ?まぁそれでもなにも反応がないよりはマシだ。仁さんも匁流君も食事に対するテンションは高めなので子供にご飯を作るお母さんの気分をいつも味わえる。そんなことを考えながらキッチンへ戻り冷蔵庫の中身を物色する。その間、残り二人はダイニングにあるテーブルの所定の位置を陣取っていた。うちでは座る位置が決まっている。誰かが主張し始めた訳ではなくなんとなく定位置に収まったという流れ。


 出来上がった炒飯を三人で食べていると、またもや特攻隊長こと匁流君が口撃を開始する。


「仁さん、面白い依頼もらってますけど確認してくれたんすか?」

「なんの話だい?」

 なにも知らない風を装い首を傾げる仁さん。ちょっと可愛いのが腹立つ。

「いや、数日前に依頼書送ったじゃないっすかー!あの、えっと……あぁ!これっす!」


 先程までテーブル上に散らしていた依頼書の中から(食事の前に整頓済み)、匁流君はとある書面を引き抜いて改めて仁さんへ差し出す。


 "クライオニクス技術の必要性について"

 クライオニクス(極低温保存技術)――1970年代にアメリカのとある夫婦により設立された団体が有名だが、人類から死を科学的に遠ざけることを目的としており、人間の遺体や脳を液体窒素などを用いて冷却し人体の腐敗を停止させ、未来の高度な技術革新により蘇生させて大幅に寿命を延ばす技術である(匁流君から聞いたことをさも知っているかのように紹介してみました。もちろん私が知っている訳がない、エッヘン)。

 

 現在では解決出来ない病気や老化などの問題を冷凍保存して未来へ繋ぎ技術レベルの発展により復活を遂げる……少し前まではSF小説や映画に採用されそうな題材ではあるが、世界では色々なことが試されているなと感心する一方で素人ながらいくつか問題や疑問が浮かんでくる。


「近未来SFモノって感じの技術だけど要はコールドスリープってこと?」

「ヒメちゃんはいつも良い質問してくれるんだもんなー!これじゃ事前に打合せ済みみたいじゃないっすかー」

 匁流君は煽ってるのかな?言い方に棘というか「まんまとコールドスリープって言ったよコイツ」的な罠に掛かった気がしないでもない。

「匁流君、それで答えは?」

「残念ながらニアイコールの親戚って感じっすね」

「そうなんだ(分かった振り)」

「そうっす!ただ混同されて扱われていることもしばしばっすね。概念的にはコールドスリープは生きている人体を対象とした未来の技術っすけど、クライオニクスは死んでいる人体を対象とした既存の技術っす!まぁ既存って言っても完全に確立されている訳でもないし課題や問題はまだまだ山積みみたいっすけどね。問題点もまるっと冷凍保存しているんじゃないっすか?……ウケる」

「そっか、技術はあれど再現性はまだ望めないってことかな?」

 いつものが発症されたようなので上手く掻い潜り会話を続ける(スルースキルの成長を感じるね、私)。

「再現性と言っても……そもそも蘇生まで辿り着いてようやく確立されるようなものっすから今の段階だとなにも言えないっすよね。だって、解決される未来を待っているんすから」

「ほうほう。でも希望者?被験者?患者?……とにかく既に冷凍保存されている人はいるの?」

「もちろんっす!現在だと300名前後の方が冷凍保存されて蘇生される未来を夢見ているっす!」

 ここはウケないんだ!!!コールドスリープの話をフリにしたから『夢見る』って表現したんじゃないの!?え、今のは天然なの、え、えぇっ!?

「ヒメちゃん、どうかしたんすか?」

「いえ……別になんでも」

「変な人っすね!」

 お前には言われたくない。

「300名かぁ……世界の人口割合で言うと少ないけど、なんの保証もされていない技術と考えると先行投資にしては多いのかな」

「感覚は人それぞれっすからね。ヒメちゃんが先行投資って言葉を知っていたことに驚愕っす」

「黙れ!あと、なんか大富豪や有名人とかもやってそう」

「まぁ、いるんじゃないっすか?噂話だと……海外の有名な元野球選手、科学者、あの夢の国の創設者なんかとか言われてたりするっすね!ただ契約自体は締結済みで法的死を待っている方もちょいちょいいるみたいっす」

「へぇー、匁流君さっきから詳しいね」

「それほどでもないっす!単にヒメちゃんの知識が乏しいだけっす!悲鳴あげちゃうっす、ウケる」

 ウケるな。相変わらず明るいテンションで口が悪い。

「ヒメちゃんの貧相な知識レベルは冷凍保存して未来へ託すとして……」

 未来へ託すな。ただでさえ貧相なんだから冷凍保存したら萎れてしまうじゃないか!


「この依頼書には、当たり前っすけど他にも色々と書かれていて……要約すると、クライオニクス技術は旧時代的な理論であり、そもそもの考え方から破綻している。それについて云々って感じっすねー。よく分かんねぇっすけど!後は……依頼を請ける場合の開始時期は数ヶ月後からなんで遅めっすね、よく分かんねぇっすけど!」

「とにかく、よく分からんのね」

「ただまぁ、仁さん!なんか面白そうじゃないっすか?依頼料もなかなかお高いっすよ!」

 書面に記載されている依頼料は高額ではあったものの……そもそも探偵の業務なのか?私の勘違いで実はなんでも屋を開業していました?

「やんない」

 仁さんは食い気味で首を横に振る。

「えー、なんでっすか!」

「だって……」


「謎は謎のままが美しいんじゃないか!」


 こっちもこっちで……また始まった。

「匁流君、ヒメちゃん!解決も解析も分析も分解も探究も究明も全部が全部無粋なんだ!野暮って言葉知ってるかい……だってそうだろう?世の中知らないことや分からないことばかりだ、それでも我々は毎日をしっかり生きているではないか!!」

 そうだろう?と聞かれても。しっかり生きているという点も気になるな……それも無粋か?いや、断じて違う。

「研究者や科学者が未知の解明に勤しんで、それで文明が発展して生活がより安心安定になったことは敬服するに値し素直に認めよう。だがしかし!知らなくても分からなくても良い事柄も多いのではないか!知って後悔すること、分かって残念に思うことは、生きる上で多く経験しなかっただろうか!コンビニ弁当などに当然のように入っているゆで卵は卵を使った加工食品だったり、カニカマは魚のすり身にカニエキスなどを入れた加工食品だったり、刺身に添えられているのはタンポポじゃなくて食用菊だったり、着色料の原料に昔は虫を使われていたり、猫のフンから高級コーヒー豆が出来たり!!」

 食品関係ばかりなのは何故……?

「知ったことでなにかしらポジティブになることばかりではないのだ!なんならネガティブになることの方が多いとさえ思える!であるならば、知的好奇心や興味とは時として誰かを傷付ける行為になってしまう。そんな悲しいことはない。現実は甘くないんだ、誰かを傷付けてまで探究したいか?人々の生活を脅かしてまでやることなのか?不幸製造機になってもいいのか?……うんうん、そうだよな。誰もそんなこと望んじゃいないよな!なら、そんな野暮なことは止めて最低限度の暮らしを満喫しようじゃないか!知らないことは恥ずかしいことじゃない、分からないことに怯えなくていい、無知の知の大切さに気付くべきなんだ!関心に囚われるな!啓蒙に縛られるな!自己啓発なんてただの強がりであり人間なんてそんな崇高な存在なんかじゃない、ただ知性のある動物でしかないと思い返そうではないか。欠けた部分があるのが当然でそれを補う必要性なんて殆どない。皆一様に個性と名付けて認め合っているのは所詮は嘘なのか?生命に対して個性を認めるならば物体や現象に対しても個性を認めるべきだ、そうだろう!?欠けていようが足りてなかろうが満たしてなかろうが全てが全て瑣末な問題でしかない。そんなことにいちいちと一喜一憂する暇があるなら日々をもっと楽しむことに頭を動かすことが正解なんだ!仮に間違いだったとしてもなにも問題ない、生命活動において支障が全くないのだから。だから、無粋で野暮な人たちのことなんて忘れて、我々はまったりのんびりと日々を謳歌しよう!うん、そうしよう!今日も今日とて三人でダラダラと無知を喜び合おう!謎は謎だから美しい!!!」

 

 こ、こいつ……1000文字以上も無駄口を叩きやがった……!

次話は24日(水)7:00に投稿予定です。

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