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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【6章】いとま探偵事務所
30/38

いとま探偵事務所 6-1

「神様は実家に帰ってるっす!」

「えっ、神様に実家なんてあるの?」

「うーん、高天原じゃないっすか?知らんけど」

「旦那さんが浮気でもした?……で、いつ戻って来るの?」

「今月末ぐらいじゃないっすかねー、来月から通常営業っす!」

「神様って営業してるんだ……」

「神社っていう店舗があるじゃないっすか。って、ウケる」

「それ以上は止めよう……色々とヤバい感じがする」

 明るいノンデリ野郎こと匁流君の危ない発言を早々に切り上げてなんとか体裁を繕おうとする私、良い女。


 何故そんな話に拗れてしまったかと言えば、匁流君と今月の呼称について触れたことがなによりの原因だった。炎節を乗り越えた我々人類は、ようやく訪れた短く儚い転換期に感謝しつつ木枯らしが影踏みで遊んでいる声がする神無月の初旬。夕食を堪能した後、仁さん含めて三人揃ってリビングでダラダラと思い思いに過ごしていた。


「ヒメちゃん知ってるっすか?神有月と呼ぶ地域もあるんすよ?」

「え、なにそれ?」

「出雲では日本中の神々がミーティングの為に出雲大社に集まると信じられていたので神有月と呼んでいたっす!」

「ミーティングって……それは置いといて、そうなんだ!ってことは、出雲以外の地域では神様が不在になっちゃうから神無月って訳ね!」

「そうっす!」

「……」

 上手い言葉遊びだなと感心しつつも私の脳裏にはとある疑問が過ぎる。


「えっ、難しい顔してどうしたんすか?」

「ねぇ、匁流君……思ったことがあります」

「なんすか?」

「神様なのにテレパシーとか超能力的パワー使って遠隔で交信出来ないんだね」

「神様だって対神関係は大事っすよ?人間も一緒で直接顔を見合わせないと豊かな関係は築けないんすよ!」

「そうなのかな……?」

 人間に関しては間違ってはいないと思うけど……え、だって神様だよ?なんか、こう……人智を超えた全能なイメージない?神々の交流なら超能力でパパッと都合良く出来ないものかね。


「所詮は科学誕生前の理論っすからね。気候変動や農作物の収穫量、病気や生死に至るまで……当時の人類では説明出来ない事態や現象を"神様"という枠組みを設けることで理解しようと試みた産物っすから」

「方々からクレームが殺到しそう……」


「大丈夫だよ、ヒメちゃん」

 匁流君の不謹慎極まりない話を共に聞いていたであろう仁さんが横から入り込む。


「クレームが入る程、僕たちの認知度は高くないよ」

 なんのフォローにもなっていなかった。横槍を私に向けてガシュガシュ刺していた。


「それにヒメちゃん、最悪のケースになったら僕らまとめて神隠ししてもらおう」

「神の権能を炎上対策に使うな!でも、それって……落ち着いたら元に戻れるんですか?」

「うーん、それは難しいんじゃないかな?」

 じゃあ駄目じゃん!そのまま音信不通で行方不明じゃん!


「ただ、当たり前のように神様という言葉を私たちは使っていますけど、そもそも神様っていつから登場したんですか?」

「ヒメちゃんもなかなか攻めるね。しかし残念ながら明確な回答を僕は持ち合わせてはいないんだ」

「そもそも世界共通の答えがないんじゃないっすか?」

 そうなんだ……こんなに世界で使われている神様の起源に答えはないんだ……


「やっぱりキリスト教からですか?」

「「…………」」

 あれ、二人が黙った……世界シェア1位のキリスト教が始まりじゃないかと思ったけどそうでもないのか……?


「うーん、なんと言ったら良いのか……この問題は謎のままが美しいとも思うけどね」

「それは仁さんの嗜好じゃなくてただの忖度っすねー」

「僕は長生きしたい訳じゃないけれど好き勝手に喧嘩を売って無様に死にたくもないんだ」

 男性陣は珍しい思案顔でコソコソと話していた。おい、私も混ぜろ!


「世界に目を向けると余計にややこしいから日本に限定したとしても正確な回答がないからね……どうしたものか」

「そうなんですか……あっ!でも天皇家の血筋を辿るとアマテラスでしたっけ?なんか凄い神様なんですよね?」

「……そ、そうっすそうっす!」

「あぁ、そうだね。ヒメちゃんは博識だねぇ」

「えへへ」

 褒められて咄嗟に喜んでしまったが、なにかはぐらかされた気がする。


「……ん?もしかして違うんですか?」

「「…………」」

 また黙った!


「そうとも……そうともさ!」

 語彙に変化が!?


「ヒメちゃん、良い子だから空気読むっす」

 謎に嗜められたっ!!?


「そ、そもそも!危ない橋を渡り出したのは匁流君じゃん!」

「それに乗っかって鉄骨渡りし始めたヒメちゃんはなかなか勇敢っす!」

 私は福本作品には出ていない!地下帝国で強制労働もまだしてない!!


「まだ、なんだ……」

 仁さんが悲しい視線を私へ送るが無視する。


「みんな歯切れが悪いな。もうっ!いつもみたいにベラベラと無駄口を叩いて下さいよ!」

「無駄口に関しては一家言あるけれど……まぁ、日本で言うならばアミニズムからだろうね」

「はて……?版権ショップですか?」

「頭文字と文字数しか合ってないっす!簡単に言うと……自然信仰っす!」

 仁さんがようやくそれっぽい回答を示したのだが私には理解出来る訳ないと察したのか匁流君がすかさずフォローを入れる。


 アミニズム――自然界の万物には魂や精霊が宿っているとする思想や信仰であり、日本では特に神道とも深い関係があるというのが匁流君からの補足だった……うん、いと難し。


「そのアミニズムっていうのが神様の始まりってことなんですかね?」

「厳密に言えば正確ではないんだけど、日本の神様信仰はアミニズムが重要なキッカケにはなっているだろうね」

「へぇ……そうなんですか」

「流石のヒメちゃんも八百万の神とか聞いたことないっすか?古代日本では森羅万象に神が宿るという考え方をしていて、現在も続く神道の神観念を表す言葉でもあるんす!」

「あぁ、なんか聞いたことある!なんで八百万なんだろうと不思議に思ったよ!」

「数字にはそんな深い意味はないんすけどね、あらゆる場所や物に神がいるって思っていればOKっす!」

「そうなんだ!」

「もう少し具体的な例で言えば、太陽や月はもちろん海や山や石など、様々な存在を信仰の対象にしていたんだよ」

「へぇー!」

「その思想を基礎として日本由来の宗教として神道が誕生したんだ。自然界に宿る神々を崇拝しており人間と自然の調和と共存を祈っている。日本に住む僕たちの生活に溶け込んだ風習や伝統でもある」

「勉強になるなぁー」

「本当に思っているかい?」

「た、多分……!」

「相変わらずっすね、ヒメちゃんは……」


「それで?アマテラスさんはどこから登場したの?」

「「…………」」

 あぁっ、また黙っちゃった!


「ヒメちゃんは日本神話って知ってる?」

「んにゃんにゃ」

「可愛い否定をしても無駄っすよ?」

「じゃあ、古事記や日本書紀って知ってる?」

「日本最古のラノベ?」

「ヒメちゃんは大人にしっかり怒られた方が良さそうっすね……」

「え、なんで!?」

「簡単に言うと、古代より日本に伝わる神々の物語をまとめた歴史書だね。また各地に伝わる風土記などにも記述されている。日本という国の誕生秘話や神々の争いなど……そこにアマテラスさんは登場している」

「やっぱラノベじゃないですか!?」

「ヒメちゃん、シーっすよ」

 匁流君にお口をチャックされた……何故だ!?


「間違いを恐れず超簡単に説明すると――まだ天と地の区別もなかった混沌とした世界に、天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)高御産巣日神(タカミムスビノカミ)神産巣日神(カミムスビノカミ)の三柱が高天原に出現した。その三柱が宇宙の根源や天地創造を語る上で重要な役割果たしている。それから様々な神が登場するんだけど最後に伊邪那岐命(イザナギノミコト)伊邪那美命(イザナミノミコト)が誕生して二柱に対して国生みが命じられる。それが日本国の誕生と言う訳だ」

「最後の二柱は聞いたことある!」

「その後、すったもんだありつつイザナギの左目から誕生したのが、お待たせしました!太陽神である天照大御神(アマテラスオオミカミ)さんだ!」

「おぉー!」

「アマテラスさんもキレて天岩戸に引き籠ったり色々あったんだけど……現在では最高神と位置付けられている」

「テラちゃん、マジぱねぇ!」

「アマテラスをテラちゃんと親しげに呼ぶ人間に初めて出会ったよ」

「えへへ」

「褒めてないっすよ、ヒメちゃん……」

 可哀想な視線を私へ向けたまま仁さんは話を進める。


「そのテラちゃんことアマテラスだが、先程話題に挙がった通り……天皇家との強い繋がりがある。天皇家の祖神とされているんだ。因みに問題なんだけど、初代天皇の名前は分かるかい、ヒメちゃん?」

神倭伊波禮毘古命(カムヤマトイワレヒコノミコト)!」

「ふせっ……いや、正解だ!」

「やったー!」

「いやいや、何故そっちを知ってるんすか……」

「一般的には便宜上、神武天皇と呼んでいるね。確かにヒメちゃんが回答してくれた名は古事記に由来しているし、神日本磐余彦天皇(カムヤマトイワレヒコノスメラミコト)と日本書紀にはある。だから正解ではあるが、相変わらず偏った知識だな……」

「いえーい!」

 正解して博学さを披露したにも関わらず二人はいつにも増して残念な子を見る目を私へ向けていた……何故だ!?


「とりあえず分かりやすいように今回は神武天皇と呼ぶけど、かの初代天皇はアマテラスの孫のひ孫にあたるんだよ」

「えぇー!なんですってぇー!!…………うん、孫のひ孫?」

「そうだね」

「神武天皇の両親とか祖父母が初代天皇にならなかったんですね」

「ヒメちゃんの言いたいことは分かるっすけど……神武東征を果たして初代天皇に即位したんで、彼から天皇家がスタートしているっす!」

 そうなんだ、思い切った人がいるから歴史が動くのか。勉強になるなぁ……でも、あれ?即位したことが凄いのは分かるんだけど、それを全国へどう広めたんだろう……現代みたいにネットやテレビはおろか電話すらない時代だよね?都を治めたとして、それだけでは今で言う県知事ぐらいの範囲じゃない?当時は全国区じゃなくても首都さえ定めて統治すれば良かったのかな。うーん……これはお外で言っちゃいけない案件な気もするな……また変な目で見られないように黙っていよう。うん、良い女。


「思うところはあるだろうけど、結論としてはそういうことになっている……それが今の日本だよ。そんな初代天皇から数えて126代目が現在の天皇になるね」

「歴史がありますね。世界にもこのぐらい長い系譜はあるんですか?」

「有名な話だけど、王室に限れば日本の天皇家が一番長いね。約2,700年に亘っている」

「な、長い……!紀元前から続いているんですか……」

「そうだね」

「ヒメちゃんは色々と学べて良かったっすねー」

「うん、これで東大間違いナシ!」

「バカとブスは東大へ行けって名言があるっすけど、ヒメちゃんはちょっと違うような……」

「えっ、それってつまり!私はバカでもブスでもないと言っているんだね、匁流君!いやー、相変わらずツンデレさんだねー、いつもツンツンしているのにたまーにこうやってデレを出すんだから!!」

 匁流君の唐突なデレ攻撃に私は堪らず尻尾を全力でフリフリぶん回しながら彼の好意を受け入れる。いや、実際には尻尾なんて生えてはいないんだけども。


「あー、そう解釈するんすね……それなら、その理解のままが幸せっす!」

「なにそれー、もしかして照れてるの?」


「よっ!ヒメちゃんは可愛い!」

「もっと言ってー?」


「ヒメちゃんは可愛いヒメちゃんは可愛い!」

「もう一声!」


「ヒメちゃんは可愛いヒメちゃんは可愛いヒメちゃんは可愛い!」

「そして、アンコールのぉ〜?」


「ヒメちゃん死んで下さいっす!」

「ここでツン来たーーー!」

 そんな二人を穏やかな目で見つめる仁さんに気付く。


「仁さんも混ざりたいんですか??」

「ヒメちゃんは可愛い!」

「ま、まさかの!!?」

 まさか乗ってくるとは……いや、マジか!同じ台詞でも匁流君と仁さんではこうも違うのか……!匁流君は元気一杯にふざけて言っているのが丸分かりなんだけど、仁さんは何故かキュンとしてしまう。乙女心が揺さぶられる感じ……?乙女ゲーの攻略対象キャラからドキドキ台詞を引き出した時の高揚感に近いのか?なんか、なんか……良い!!!


「さぁ、仁さん!もう一声!」

「…………」


「あれ、声が小さくて聞こえないなー?照れているのかな??」

「…………」


「さぁ、もっと大声で!」

「…………」

 おや?仁さんの声が全く聞こえない。まるでノイズキャンセル機能を全開して街中を闊歩している時のようだ。


「あれあれ、仁さーん?」

 目の前には仁さんの姿はない。そればかりか一緒になって騒いでいた匁流君の姿も消えている。


「えっ、匁流君……!?」

 辺りを見回しても二人の姿は見えない。


「え、あれあれー、二人ともどうしたのかなー?私のウザさに痺れを切らしちゃったのかな……?」

 誰の声も聞こえない。


「お、おーい……」

 誰の声も聞こえない。


「え、えぇ……嘘……」

 誰の声も聞こえない。


「だ、誰かー!返事しろーーー!!!」


 ガバっと勢い良く体を起こし目を見開く。

 視界に映るのは薄暗い部屋――あれ、さっきまで1Fのリビングでみんなと……数秒前の景色とは異なる空間に脳内の処理が追い付いていないのが分かった。


「…………あっ、仁さん!匁流君!」

 混乱の中、二人の行方が気になり辺りを見回すが誰もいない。


「……誰もいない。その前に……ここは、私の部屋?」

 ようやく脳が冴えてきたのか、だんだんと情報が整理されていく。


「……あぁ、そういうこと」

 見知った天井に見知った家具や所持品の数々、窓のカーテンから弱々しくも顔を出してくる時刻の知らせ。


「夢か……」

 ゴテゴテの夢オチだった。


「夢か……なんて台詞を令和になって自分が言うことになるなんて、なんたる不覚!」

 頭を左右にブンブンと振りながら自身の不甲斐なさに嫌気が差す。


「あー、朝から変な夢見ちゃってサゲぽよポロポロだよ」

 現在時刻を改めて確認すると本来の起床時間にはまだ早かったが謎の夢のせいで脳が変な覚醒をしている。こういう時は二度寝出来ないか逆に寝過ぎて大寝坊をやらかすと相場は決まっている。


「ま、寝坊するぐらいなら早めに起きますか」

 いとま探偵事務所での炊事洗濯掃除などは私の仕事だ、せっかく早く起きたのだから普段していないことをしよう。起床後のモーニングルーティンを済ませ自分の部屋を後にする。


「……ん?」

 リビングに近付くとすぐに違和感に気付く。


「……こんな時間から人声?」

 仁さんはよくリビングにあるソファで寝落ちすることがあるから可能性はなくはない。匁流君も活動時間が不規則で意味不明だから可能性もなくはない。もしくは誰かがテレビを付けっぱなしにしているだけの可能性もなくはない。だけど、この嫌な感じはなんだろう……?


「お、おはよう……誰か起きてるのかな……?」

 扉を開けてそっとリビングを覗き込み挨拶をする。そこには――答えがあった。


「あ、おはようっす、ヒメちゃん!」

 三刀匁流がいつもの元気な表情で椅子に腰掛けたまま私へ挨拶を返してくれる。その笑顔を見て安堵したのも束の間――

 

「おはよう、ヒメちゃん」


 もう一人の声にゾワっと背筋が凍る――期待した声ではない、違和感の正体。

 匁流君と対面になる位置で椅子に座っている見知らぬ女性から目が離せない。


 …………誰?

 唖然としている私を見て彼女は優しく微笑んだ。

次話は29日7:00に投稿予定です。

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