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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【幕間】A twinsish past
25/38

A twinsish past 2

「また会えたかな」

「うげっ……」


 火芽纏は火芽纏とエンカウントを果たす。


 初回の印象が強く短期間では忘れられる訳はない。先日の出来事が脳裏にフラッシュバックされる。


「ど、どうも火芽さん……数日振りです」

「纏ちゃん、こんにちは。この数日間でなにか変わったことはないかな」

 なんか親しげじゃない?纏ちゃんって……そんな好感度を上げるようなフラグあったっけ、前回?


「こんな昼間にどうしたのかな?」

「人間は昼間に活動する生き物ですよ」

 出会したのは前回同様に最寄駅へ向かう道中にあるとある道路。何故このタイミングで彼女はここにいる?


「どこへ行くのかな?」

「商店街まで」


「なにをしに行くのかな?」

「食料の買い出しですよ」


「私も付いて行こうかな」

「出来れば控えて欲しいです(えっ、あー別に構わないですけど……)」


「反転しているかな」

「ハッ……なんてこと!いやっ、これは……乗っ取り被害です!」


「付いて行こうかな」

「はぁ……では行きましょうか」

 何故付いて来る……その前に何故ここにいる!私の行動やスケジュールを把握されている……?


「同行の前に一つ確認です」

「なにかな?」

「火芽さんは何故ここにいたんですか?私を探していた、とか……?」

「ここにいれば能天気に歩いて来るって教えてもらったから」

「誰にだよ!?」

 誰かに聞いた……?仁さん、匁流君……いや、この二人ではない気がする……では、誰が私の行動を把握しているんだ?それに、能天気に歩いて来るって軽く馬鹿にしてんじゃん!


「誰だと思う?」

「知らねぇよ……そんなコンプラ無視人間なんて」

「当ててみてね」

「ヒントは?」

「ノーヒントで」

「分かるか!!!」

 私たちは実のない会話を続けながら商店街へと向かう。彼女はボーイッシュな雰囲気はそのままなのだが、やはり夜と昼とでは印象がガラっと変わる。夜に会うと家出中の神待ち少女感が否めなかったが、昼だともう少し闇が薄く映り仄かな活発さが窺える。


「商店街でなにするつもりかな?」

「買い出しって言いませんでしたっけ?」

「……今日も暑いね」

 誤魔化してんじゃん!


「私が言うのも変ですが、平日のこんな真昼間にフラフラしてて良いんですか?学校とか行かないんですか?」

「有給取ったかな」

「学生には過ぎた制度を勝手に導入しないで!」

 お金払って入学したのに有給取得して使用者に賃金が発生するとか意味分からん。


「なら校舎を爆破して強制休暇になった」

「余計にフラフラすんな、出頭しろ!」

 呑気に街を徘徊すな、あなたが出向く場所は商店街ではなく交番だ。


「答えたくないならそれで良いです」

 はぁ……なんなんだ、この子は。


「もう商店街に着きますけど昼時で案外人気も多いので気を付けて下さいね」

「子供扱いしないで欲しいかな」

 確か同世代だったよね……なんで年下のような扱いをしたんだろう。振る舞いが妹的だからか?


「お店がいっぱい」

「そうですね」

 昼時ということもあり想定通り老若男女入り乱れて買い出しや食事の移動であろう社会人など賑わいを感じさせた。


「纏ちゃんがご飯作るのかな?」

「そうですね……あ、こっちです」

 適当に相槌を打ちながら目的のお店に寄って食材を次々に購入していく。もちろん仁さんからもらったお金だ。


 もう一人の火芽さんもブツブツ呟きながら付いて来るのだが、この子に関して一つ分かったことは……独り言が多いこと。私への雑な質問もそうだが好奇心旺盛なのか目に付いたものや頭に浮かんだことを口に出さずにはいられないらしい。


「よし、こんなもので十分でしょ!」

 粗方買い終え両手には食材の入ったビニール袋が握られている。


「いっぱい買った」

「そうですね」

「満腹、満腹」

「まだなにも食べてないでしょ」

「もう帰るのかな?」

「えぇ、買い物は終わりましたから」

「もう帰るのかな……?」

「はい」

 なにが言いたい?表情は変えないものの……なにかを察して欲しいかのように視線だけこちらに向けている。


「まだ明るい」

「えぇ、まだ昼間ですから」

「昼間なのにもう帰るのかな?」

「時間帯の問題では……」

「もう、帰るのかな!?」

 主張が強くなった……え、私としては帰りたいけどそれは望めない感じ……?


「えっと……火芽さんはこれからなにか予定とかあるんですか……?」

「うん」

「そうなんですねー、なら私なんかとダラダラせずに予定を済ませた方が……」


「あなたも」

「……えっ」


「一緒に」

「……」


「行こう」

 断続的に伝えるの止めて……


「わ、私もですか……?」

「うん」

 さいですか……どうしよう。


「あの……因みにどちらまで?」

「行けば分かる」

 いや、怖っ!出会って数日しか経っていないなにも知らない相手に誘う台詞じゃないよね!


「あーせっかくのお誘いなのですが……知らない場所へ行く程の好奇心は幼少の頃に紛失してしまって……」

「悪いようにはしないから」

 余計に怖いわ!!


「出来れば同行を控えたいのですが……」

「どうしてもかな?」


「えぇ、可能な限り」

「本当に?」


「……はい、すいません」

「嫌、一緒に行く」

 火芽纏の異様な圧に根負けした……私は本当に、流されやすく、靡やすい。


「……ここは?」

「見て分からないかな?」

「見て分からないから聞いているんです」

「ここは――」

 先程までいた商店街から徒歩で30分圏内の距離にある住宅区画。いとま探偵事務所とは駅を挟んで反対方面にあり居心地の良い静けさに包まれている住宅街の一画――道路に沿って戸建住居が並び立つ中、空き地のような敷地の前に私たちは辿り着いた。


「どうかな?」

「どうとは……?」


「思うことはある?」

「思うことと言われても……」

 この場所になにを思えば良いのだろう……火芽纏の思惑が分からない。立派な戸建に挟まれた虚無な空間。道路との境目には立ち入り禁止の看板とバリケードテープ、敷地内は過去に一軒家が建っていたであろう面影が残ったまま。


「廃墟……いや、家屋としての意味を既に成していない……」

 黒々と焦げた跡と崩れた鉄筋や木材、微かに一軒家と思える箇所はあれど見るも無惨な光景だった。


「燃えた……?」

「萌え?」

 誰が燃え燃えキュンだ!物騒なメイドか?ひらりはらりな女の子なのか!?


「ここがどうかしたの?」

「なにも思わないかな?」

「だから、なにも思わないんだけど……」

「そっか」

 そっかって……連れて来ておいてサッパリしてるなー。


「火芽さんはなんでここに来たかったの?もしかしてここに住んでいたとか……?」

「ううん、住んでいない」

「じゃあ、なんで?」

「私じゃなくて、あなたに見て欲しかったかな」

 私に……?


「はぁ……そう言われましてもねぇ。悲惨さを感じさせる光景ではありますが、それだけっていう雑な感想しか……」

「そう」

 私に見て欲しいまで言っておいて興味ないんか?


「ここは火事でもあったんですか?」

 焼け焦げた跡が広範囲に残り黒々と炭化された部分も多く廃墟より荒廃さを生々しく表している。当時の被害が今も尚、語り掛けてくるようだった。


「そうかな」

「へぇ……」


「そこそこ大きな火災だったみたい。一軒家がこんな状態にまでなっているし……逃げ遅れた遺体が四人分辛うじて見つかったかな」

「四人……住んでいた方とかですか?」

「そうかな。両親と子供……それに、犯人と思われる人物の計四名」

「被害者家族と加害者まとめて……」

 犯行に及んだ自責の念での心中……?被害者家族と揉み合いになり逃げ遅れた……?


「火災による損傷が激しくて身元の特定に時間が掛かったらしいけど、両親と子供の三人暮らしなのは周囲の住人などへ聞き取りしたらすぐに分かったのと、現場に残っていた一斗缶や凶器にもう一名の指紋が残っていたから犯人と判断されたみたい」

「凶器……?」

 一斗缶は、まぁ分かる……ただ、その他に凶器があった……?


「有り体に言うと包丁かな。犯人と思しき人物の血痕や指紋が残っていたみたい」

 有り体に言わなくても包丁は包丁だ……そんなツッコミを脳内で呟く。


「へぇ、そうなんですか。じゃあ火事だけが死因という訳でもなさそうなんですね」

「そうかな」


「悲惨な事件があったものですね……」

「他人事かな?」


「まぁ、無神経なことを言えば他人事ではありますね」

「そう」

 なんか噛み合わないな……しっくりこない。彼女は私からなにかを引き出したいのか……?会話が空中をフワフワ漂っている感じだ。


「火芽さんの思い出の場所が火事になってしまった、とか……?」

「縁もゆかりもないかな」

 縁もゆかりもないかー。


「じゃあ……火芽さんはこの光景を見てなにを思いますか?」

「なんとも思わないかな」

 私と一緒じゃん!!


「でも……」

「でも?」


「ここに事件は確かにあった」

「加害者と被害者がいれば、そりぁ……」

「そうだけど……そうじゃない。そうじゃないの……」

「はぁ……」

 なにが言いたい?


「なかったことには出来ないかな」

「四名死亡の火災事件は確かに日本でも大事ですし、仮に捜査は終了していても風化させるのは良くないとは私も思いますが……」

「そうだけど、そうじゃない……けど、そうとしか感じないのかな?」

「見当違いな回答でしたら申し訳ないのですが、私にはあなたが求めている答えは出せそうにないですね……」


「そう」

「はい……すみません」


「なら、帰ろう」

「そうですね」

 感情の見えない彼女の表情は語る――それを分かる訳もなく。チグハグな空中戦を繰り広げた私たちは静かにその場から立ち去ったのであった。それが二人の答えかと言わんばかりに。


「今日はありがとう」

「あっ、いえいえ……私の方こそ満足させられずに……」

「なんとなく分かった気がする」

「なにがです?」

「ほんの少しだけだけど……あなたのこと」

「そ、そうですか……」

 私は相変わらず分からないことだらけだが、彼女はなにかを掴んだようだ。どの部分から読み解けたのだろうか?


「また会える?」

「……そうですね」


「その間はなにかな?」

「……きっと会えますよ!」


「私とはもう会いたくないかな?」

「いえ、そんなことは……」

 別に構わないんだけど要領を得ないんだよな……彼女。


「また会えるかな?」

「い、いいとも!」

 令和を生きる若者には伝わらないネタをぶっ込んでみたが彼女の表情は変わらないのは案の定だった。


「それじゃあ」

「あ、はい、また」


「仁君にも宜しく伝えておいてくれるかな」


「えっ……仁さん?」

 意表を突いた名前に心拍がバクンと飛び跳ねる。暫しの間、呆気に取られていたが我に返り立ち去る彼女を目で追ってみたが既に姿を消していた。


「仁さんのことも知っている……」

 私のことも知っていたんだ、仁さんのことも調べていてもおかしくはない。じゃあ、匁流君のことも……それに、仁君って……彼女は本当に何者なんだ!?


 なにも出来ない、なにも知らない、なにも分からない状態で一人立ち尽くすだけ……預かり知らないところでなにが動いているのか?帰って仁さんたちに確認する……いや、どうしよう……何故だか乗り気がしない。でも、このままここでウダウダと悩んでいても仕方ないし……とりあえず帰ろう。


 火芽纏はなにを知りなにを伝えたいのか――晴れ渡った青に包まれて帰路につく。心とは裏腹なことだけは確かだ……クソッ。


 「はぁ、重いなぁ……」と無意識に吐き出した思いは両手に握られたビニール袋へのし掛かる。

次話は22日7:00に投稿予定です。

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