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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【幕間】A twinsish past
24/38

A twinsish past 1

 木染月の上旬頃、台風が目を覚まして活発に動きを見せようとしているそんなある日。夜になっても重苦しい暑さが全身を包み込んでくるのに辟易としながら見知った道を一人で歩いている。夜道に女性一人で歩くことに抵抗がない訳ではないのだが、まだまだ若さピチピチの私からしたら22時を回った程度では「夜はこれからだぜ!」と逆にテンションが上がってくる時刻でもあった。可憐でか弱い私なんて暴漢の格好の的になってしまうのは全世界が理解していることだと思っていたが、同居している野郎二人は平気な顔して「いってらっしゃい」と手をヒラヒラ振って見送っていた。なんなら視線はテレビに釘付けになっていたから私を見てもいない……なんたる屈辱。これだから察しの悪い男は……全くプンプン丸だぜ。そこは「夜道は危ないから一緒に行こうか?」って甲斐性出して言って欲しかった乙女心が分からんものかね!?これだからモテない男は……私が真の漢にするべくレクチャーするか?ニート探偵とノンデリ王を真人間に変えるのは私の役目か?あ、だからこそ私は導かれるようにいとま探偵事務所に転がり込んだのか!?そう考えると辻褄が合ってくるな。よしっ、帰ったら二人を洗脳して私好みの男に作り変えよう!


「夜道に女性一人で歩くのは危ないよ?」


 言われたかった台詞が急に耳に入り込みドキっと体が硬直する。声がしたであろう目の前を凝視すると街灯もない夜道に薄らと影が見える。


「こんな夜更けにどうしたのかな?」


 少し近付くと人影であることが分かった。そんな状態で職質のような質問は止めて欲しい……マジで恐怖だ。


「あ、あの……どちら様で……?」

「こんな夜更けにどうしたのかな?」

「私の声届いてますか?」

 会話が通じない!普段ならどうってことない台詞も環境次第で恐怖を駆り立てることになるとは!……少しずつ距離を縮めると謎の人影は女性であると分かった。


「そんなしかめっ面してどうしたのかな?」

 私の動向にご執心!?


「あ、あの……」

「どうしたのかな?」

 怖いわ!


「ははっ……お互い夜道には気を付けましょうね、では……」

 ヤバい人だ、絶対!関わったら面倒になる……早く立ち去らないと!


 そそくさと足取りを早めてその場を立ち去ろうとしたのだが、今まさに通り過ぎようとしたタイミングで闇夜からスルっと現れた手によりTシャツの袖をギュッと掴まれ静止させられた。


「え、えっと……」

「どこ行くのかな?」

 あなたのいない場所です!


「手を離してもらっても……?」

「嫌かな」

 嫌なんだ……


「あの……困るんですけど……」

「それで?」

 怖い怖い怖い!


「少しお話しませんか?」

「嫌です……」

 怖い怖い怖い!!


「ガッツリお話しませんか?」

 怖い怖い怖い!!!


「話せば分かるよ」

 あなたの危険性がですか!?


「申し訳ありませんが用があるので、私はこれで……」

 視界も暗く狭い状態だが感覚を頼りに掴まれた手を剥がそうとすると、謎の女性は想定外の発言をした。


「そんな急がないで少しお話しませんか、火芽さん?」

 私の名前を知られている!?


「え、なんで私の名前を……?」

「火芽さんとお話がしたいな?」

「あー、えっと……」

 思わぬ発言に体が硬直してしまい言葉が出てこない。彼女に私のなにを知られている……?


「少し休むだけだから……先っちょだけ、ね?」

「それで承諾する人類は潰えましたよ!」

 遊び人みたいな誘い文句に些か和んでしまったのか謎の女性と私は近くにあった公園へと足を運んだ。いつぞや匁流君と立ち寄った公園でもある……感慨深さは特にないがちょっとした懐かしさを感じる……訳でもない。そもそも夜の公園で知らない女性と一緒に過ごすってなかなか恐怖を煽る状況じゃないか?普通に怖いって!知らない人にホイホイ付いて行っちゃいけないなんて幼い子供でも分かっていることなのに……なにしてんの、私!!


「あっ、いっけなーい!アレアレー?どうしてたんだろう??用事を済ませて帰らないと門限に間に合わないわ!せっかくのところ申し訳ないのですが私は私の託されたミッションにコミットしてコンプリートしないとイグザクトリーでアンビバレントになれないのです!ははっ……」


 作戦変更――公園の敷地内に足を踏み入ったところで華麗に踵を返す。危なかった……なんだかんだ流されて言う通りにするところだったぜ……服の裾を掴まれた手を咄嗟に解き全力ダッシュで逃走を図った。


 急な行動に呆気に取られたのか謎の女性は立ち止まったままこちらを見ているだけ。よしっ、撒いた!ちゃんと後方を確認しつつ全力で避難する。ハァ、ハァ、このまま事務所に戻る……?いや、私の名前を知られていたことを考えるとある程度の個人情報は握られている可能性がある。事務所内なら安全かもしれないが最短距離で帰宅してルートを露見させるのは愚の極み!ハァ、ハァ……ここは付近を徘徊しつつ相手の出方を見よう!それが良い作戦だ!!


「……待って欲しいかな?」

「ハァ、ハァ、ハァ、は……え?」


 ルートを決めずただひたすらに走りながら十字路を曲がって相手を混乱させる作戦だったのだが……気付けば目の前に謎の女性が待ち構えていた。そんな馬鹿な!!


「お話しよう?」

 ど、どどどどういうこと!?な、なんで……完全に撒いたはずなのに……


「戻って来てくれて嬉しいかな」

 戻って来た?確かに公園の前にいるけど。ハァ……あっ!!


「急に走り出したと思えば戻って来てくれた。お話しよう?」

 ハァ……謎は全て解けた――犯人は、私だった。


「お話しよう?」

「ハァ、ハァ、はい……」

 まさか、闇雲に走ったばかりに公園前をぐるっと一周しただけなんて……そんなアホなことある?


「あったね」

「ですね……」

 自身の余りの愚かさに絶望する他ない。肩で息をしながら謎の女性に誘われるまま公園内へと再度足を踏み入れた。久しぶりの全力ダッシュ……本当にキツイ、全身から悲鳴が聞こえてくる。ハァ、ハァ……


「こんな夜中にどうしたのかな?」

 私の行動をそんなに気にしているのは何故だろうか?


「え、えっと……ちょっと近くのコンビニまで行こうと……」

「ふーん」

 興味ないんかい!散々聞いておいて!


「あ、あの……あなたとどこかで会ってたりしますか?」

「はじめまして」

 なら、なんで私の名前を知っている!?


「はじめまして、火芽さん」

「は、はじめまして……」

 二人は公園にあるベンチに座り(このベンチも匁流君と一緒に以前座ったな)会話がスタートした。


「あなたのお名前は?」

 私だけ個人情報を握られているのは面白くない、せめて名前だけでも教えてもらわないと!視界を滲ます街灯の光がようやく相手の輪郭を露わにさせる。ショートヘアの黒髪に少しばかりボーイッシュな印象を与える服装で……年齢の判断はまだ難しいが、若い雰囲気を感じるのは確かだ。


「私の名前……忘れた」

「そんな訳あるか!」

「なら、教えて?」

「知らねぇから聞いてんのよ!」

 え、天然ちゃん……?いや、電波系か?不気味な登場と相まってギャップがエグいな……話し方も少しふわふわした印象もあるし余計に怖い。


「私の名前……うん、と……あぁ、思い出した」

「それは良かったです、ではどうぞ」

「火芽纏」

「それは私の名だ!だから何故知ってる!!」

 

「……だって、私の名前だし」

 息が止まる音がした。

 

「ワンモアプリーズ?」

「Matoi Hime」

 そこは乗っからないで欲しかった……いや、私が悪いんだけど……


「えっ、えぇ……えっと……?」

「火芽纏」

「まさか……同姓同名?」

 そんなことある!?いや、マジで!


「ホント!?嘘だったら針千本飲んでもらうよ?」

「なら、本当だったら針万本飲んでね」

 まさかまさかの10倍返しだった。


「本当に同じ名前……」

 にわかには信じられない……だって、どちらかと言えば珍しい名前のはずだ。こんな身近で出会すなんて……


「ホント?ホントにホント??」

「ホントにホント」

「マジか……」

 汗が止まらない……先程の全力疾走で発した汗とは全く別の源泉を辿っている感覚だ。体温がどんどん下がっていく。


「・・・---・・・」

「-・--・」

 カウンターされた、だと……!?


「他にもお話しよう?」

「え、えぇ……」

 正直どうでもいい……この子との会話の是非より同姓同名の可能性がある相手が目の前にいるということの方がよっぽど心に刺さる。


「何歳かな?」

「少年法の対象とだけ……あなたは?」

「なにかあったら美少女Aとマスメディアに報道される年齢かな」

 同年代……美が余計とかツッコんでいる余裕はない。


「近所に住んでるのかな?」

「都内という意味では近所ですね……あなたは?」

「市区町村の枠を越えないという意味では近所かな?」

 表現がいちいちややこしいな……発端はもれなく私なんだけど。


「好きな食べ物はなにかな?」

「炒飯……あなたは?」

「萌やしかな?」

 敢えて漢字表記で答えるところに好き度が垣間萌える!


「好きな言葉はなにかな?」

「責任転嫁……あなたは?」

「酒池肉林かな?」

「良く聞くけど意味は分からない四字熟語出た!」

「贅沢の限りを尽くした盛大な宴会かな?」

「……ちゃんと意味知っているんだ。私より優秀かよ」

 なんの目的があるかは定かではないが相手からの上っ面な質問からキャッチボールを続ける二人。同世代の同姓同名……なかなか稀に見るレアケースではある。真偽は別として話しているとなんだか家出少女な感じに見えてくるのは何故だろうか……きっと私の変なイメージなんだろうけど。


「ねぇ?」

「なんでしょう?」


「どうして同じ名前なの?」

「……」

 言葉が詰まる。


「ねぇ?」

「……はい?」


「『象は鼻が長い』の主語は?」

「大正時代から続く文法的論争を私に求めないで!パッと見では『象』だけど、本文の述語は『長い』でなにが長いかと問われると『鼻』が主語になるから……って分かるかぁ!!」


「ねぇ?」

「……はい」

 せっかくノリツッコミ頑張ってみたんだからここは乗って欲しい……


「学校楽しい?」

「……通ってないです」

 私の最終学歴は中卒です。


「なら、なにしているのかな?」

「……家事手伝いですかね?」

 いとま探偵事務所のことに触れようか判断に迷ったが、下手に藪蛇になっても嫌なのでフリーター風な解答に留めた。


「自宅警備の間違いじゃないかな?」

「いえ、断じて違います。家事手伝いです!」


「一人で暮らしているのかな?」

「……いえ、複数人で暮らしています」

 嘘は言っていない。結果として居候させてもらえているので間違いではないのだ、そうだよね?


「楽しい?」

「……えぇ、まぁ」

 先程からなにをしているんだ……こんな上っ面な会話でなにが分かるというのだろう。この子は私からなにを引き出そうとしている……?


「あなたは学校とか通っているんですか?」

「禁則事項かな」


「家族構成は?」

「禁則事項かな」


「アルバイトとかしてる?」

「禁則事項かな」

 お前はどこぞの未来人か!?私のことはあれやこれやと聞いてくるのに自分だけ語らないのは卑怯ではないか?


「あの……」

「なにかな?」

 だんだん「〜かな」っていう語尾も気になってきた……イラついているのか、私。


「火芽纏さん……?」

 首を傾げつつ私の名を呼ぶ火芽纏さん……あからさまに訝しんでいる感じを出すな、それは私だって同様だ!


「……はい、なんでしょう?」

「生きていて楽しい?」


「急に重いですね……あなたは楽しくないんですか?」

「あんまり考えたことないかな」


 そうでしょうね。その質問をする人間の考えは大まかに分けて3種類だ。人生を真面目に考えず楽観的に捉えているか、つまらない人生を歩んでいる自分を慰めたいだけか、それと――

 

「その毎日に罪悪感を抱かない?」

 質問した相手への嫌悪や憎悪、詰まるところは否定と拒絶の皮肉。


「黙秘権を行使します」

 私も禁則に抵触する問いには口を閉ざすのだ。元はあなたから始めたことだから別に構わないよね。


 火芽纏は口元を緩め火芽纏は破顔した。


「今日は帰るね」

「あ、はい……分かりました」

 ようやく謎の拘束から解かれる……なんだか心も体もグッタリだ。


「また近いうちに会おうね」

「えっ、あ、あぁ……はい」

 これで終わりじゃないんだ……会いたくないなぁ……正直。


「またね」

「……」


「またね?」

「……」

 火芽纏は火芽纏の顔を覗き込むように返事を待っていた。


「またね??」

「あぁ……はい、またお会いしましょう」

 その言葉を聞いて納得したのかベンチから腰を上げてその場を去ろうとしていた。


「……」

 はぁ……やっと終わった。


「……」

「……」


「次に会う時は、本当のあなたを教えてね?」

「こちらの台詞ですよ」


「……虚像に壁打ちしても意味ないし」

 火芽纏が小声で発した言葉はネットリとした熱気を帯びて火芽纏の心へ纏わり付く。胸中に秘めた声は誰にも届かない。

次話は21日7:00に投稿予定です。

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