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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【4章】According to
22/22

According to 4-4

「よっ!三刀屋!」

「いや、歌舞伎の屋号じゃないんすから……」


 渾身の怪談?を言い終えた匁流君に、私なりの喝采を浴びせたつもりだったのだが当の本人からしたらそうでもなかったらしい……最適解って難しいよね。


「私にはまるで理解出来ない小難しい話だったけどAIに支配される社会より恐怖に思えたよ!」

「理解出来なかったんすね……」

「うん、全然でした!」

「そっすか」

 私の脳が勝手にシャットダウンして拒絶でもしているんじゃないかって思ったよ。話はちゃんと聞いていたんだけど上の空になっちゃう感じ?何度も聞かされて分かりきっている話を改めて真剣に聞き続けなければならないような虚無空間に誘われた感覚にも近いのかな……?


「でもでも、なんか怖い感じは伝わったよ?」

「その感想がなにより怖いっすね……」

 匁流君はいつもの呆れたような目を私へ向けている(……いつも?いやいや、そんなまさか)。


「まぁ、このSFチックな内容はいずれ訪れる現実の可能性でもあるんすから今から身構えていた方が良いっすよ?」

「どうやって?」

 人が喜ぶ記憶なんてなにも格納されていないが?それに、仮にその世界が訪れてしまったところで私なんかになにが出来るのだろうか?


「えっと、あー……ヒメちゃんには関係ない話っすね」

「おい、諦めるな!」

 諦めるなとは言ったものの自分から否定的でした……


「さて、満足したんで片付けるっすかね」

「そうだね」


 照明を点けて機械的な明るさが室内を照らし出す。短時間ではあったが暗い空間に目が慣れてしまっていたのか照明の光がやけに強く感じて刺さるようだった。それはまるで異世界の迷宮から生還したかのような場面転換にも思えた。


「異世界の迷宮なんて行ったことないっすよね?」

「比喩だよ、比喩!仮にそんな場所が現代にあったとして私が行くと思う?」

「行かないっすね」

「でしょ!そうなの、行く訳ない!そんな危なっかしい怪しい場所なんて他人に行かせて私は安全地帯でぬくぬく過ごすよ」

「それが生物としては実際正解っすけど……」

「なにさ?」

「いや、なんでもないっす」

「言い淀むね、ほらっ、さっさと白状せい!」

 なんか今日歯切れ悪くない……?いつもの匁流君なら私を馬鹿にする発言ぐらい呼吸をするかのようにほざいているのに。


「良いんすよ、別に。ノンデリ発言王はヒメちゃんに献上っす!」

「いらねー!もっと実用的なものが欲しいよ!」

「物乞いは継続なんすね」

「貰えるものは貰います」

「その潔さはヒメちゃんの良いところかもしれないっす」

「良いところを見つけてもらえるのは嬉しいけど微妙に喜び辛いなー」

「俺はちゃんと分かってますよ」

「訳知り顔すんな!」

 お前は彼氏かなにかか?後方腕組みムーブがハンパないな。


「ヒメちゃんが彼女は嫌っすねー」

「こっちこそ願い下げだよ!なんでなにも言ってないのに振られてるの、私!」

「これからも助手1号と助手2号の関係性でお願いします」

「ビジネス!」

 いつもの誇張された後輩口調はどうした、おい!


「……あ、気付けば結構時間経ってるっすね。今日の昼食メニューは?」

「あぁ!もうこんな時間!?……えぇっとね、ちょっとお待ちを」

 立ち上がりキッチンへ移動しつつ改めて時計を確認したら正午を少し過ぎたところだった。なんだかんだ謎の怪談話で時間を使っていたことを思い知る。別に午後から用事がある訳ではないので慌てる必要はないのだが、日々のルーティンが崩れるとなんか罪悪感に駆られてそわそわしてしまうのは私だけだろうか。


「あー、匁流君……ごめん。冷蔵庫の中身が私の脳ミソ並に空っからで冷え込んでいるから近くのスーパー行ってくるよ」

「なん、だと……!あんな退屈凌ぎなんて早々に止めて食材調達してもらえば良かったっす……」

 どんだけ空腹だったのだろうか。私の料理を喜んでくれるのは嬉しいけど怪談話も楽しくなかった?


「もちろん楽しかったっすけど……ご飯に勝るものはこの世にはないっす」

 食の優先度高ぇな!……そんなキャラだっけ?


「メニューはなにがいい?」

「ヒメちゃんが作ってくれるものならなんでもござれ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!よしっ、ちょっと待っててよ、ダーリン!」

「いってらっしゃい、ハニー!」


 ノリと勢いだけで事務所を飛び出したけれど変なテンションだったなと今更ながら振り返る。おっとり刀で出掛けたから服装や化粧なんて全く気にも留めてなかったや、冷静になってみるとだんだんと恥ずかしくなってきた。せめて日焼け止めだけでも……いや、あわよくばもう少しベースメイクを……乙女失格だ、私。


 カンカン照りの歩道はコンクリートがやけに煌めいて地面から湯気が発しているように見えるほど熱気が攻めてくる。先程までの勢いはどこへやら重い足取りのまま最寄りのスーパーへと向かう。さほど遠い場所ではないので普段なら気にする距離でもないのだが、夏の暑さで体力はどんどん失われて見る見る内に歩幅が狭くなっていく。


「はぁ……暑っ!地球が悲鳴を上げているようだ」

 ぼんやりとしているせいか無意識に独り言を発していることにすら気付かない。


「さっさと食材買って帰ろう……このままじゃ干からびてしまうぜ」

 口調変化すら生じさせる暑さに心底嫌気が差す。


「さて、なにを作ろう……あれっ、仁さんは食べるのかな?」


 動かない脳内で昼食の献立を考えつつも仁さんのことを思い浮かべる。物凄く嫌な顔を見せながら外出する姿はなんだか印象深く、それでいて少し嬉しくなったことは私だけの秘密。いつも飄々として何事にも冷静に対処している姿が強く目に焼き付いていて、私や匁流君とふざける時も一緒になって明るく振る舞ってくれるのだが、嫌なこと?悩み?といった負の感情を露骨に表に出すことは少ない。近い存在の知らなかった表情や感情を知ると新しい一面に出会えた気がして嬉しくなってしまうのはちょっぴり悪く思いつつも、脳内の仁さんフォルダに密かに保管している訳で……決して忘れたくない記憶だ、完全な脳なんて有してなくても。


 そんなこんなで最寄りのスーパーに着き食材を物色する。「野菜ってこんな高かった?」なんて昨今の物価高に苦言を呈しながらも去年の価格がいくらだったかは定かではない。値段が上がっているのは確かだがいくら値上がったなんて具体的に覚えてはいなかったりする。某有名人が昼の番組でよく言っていた台詞のようなそんな気にさせる感覚に少しだけ似ていたが、価格の高騰は各ニュース番組やSNSでもよく話題に挙がっているので肌感覚ではなく事実ではあるのだろう。去年の野菜の値段は言えないが今の価格に対して高いという残酷な現実に気付けるだけまだマシなのかもしれない。いとま探偵事務所に転がり込む前から自炊はしていたが、あの頃とは違いお金の管理に対して少しだけ自覚的になったというかなんというか……節約は大切で、この感覚が大人に近付いたということなのかな?結局はあやふや――未定で不確かで曖昧な覚束ない怪しい情報。その連なりと積み重ねを私たちは記憶と呼んでいるのだとしたら、鮮明に覚えていると自負していても些か疑わしくなってくる。過去は美化されて悪い記憶だけはいつまでも覚えているとは良く聞くが、仮に80%の正確性で覚えていることがあったとして残り20%は無意識に補完しているだけではないのか?その抜けている部分に良い記憶なら美化情報を、悪い記憶なら誇張情報を保管年数に応じて自動的に補正を行い状態を維持する便利機能が人間の脳には備わっているのではと思わなくもない。


 有機物であろうと無機物であろうと少なからず地球上に存在するものは全て劣化する。短期間なものから長い年月を掛けるものまで速度は千差万別だったとしても意識や魂の有無問わずそれこそ平等に劣化する――もちろん人間も例に漏れることはなく皮膚も骨も血液も細胞も脳でさえ例外はない。記憶という曖昧模糊な情報も脳内でシナプスを介した精査と整理が常に行われて短期記憶なものはだんだんとフェードアウトするかのように失われ、長期記憶になったものは補修を繰り返しながら状態を可能な限り維持しようとする。手を変え品を変え色を変え微かな原形だけが残滓となりいずれ消えていく。永遠に変わらないものはないのだろう。


 けれど――それも良いことなのかもしれない。


 完全な記憶があれば、より詳細に鮮明に明確に具体的な歴史を読み取れて立体的な自己を確立出来る。その代わり、覚えている必要のないことや忘れたいことも全てを全て記憶容器から漏れずに内包し続けなければならない。一長一短ではあるけれど、完全な記憶を獲得した100%の自分にはそれ以上の内面的な奥行きも拡張性も見出せないが、随所でまだらな認識だからこそ足りない部分を補おうとしたり、曖昧な情報として受け入れて曖昧だからこそ楽しんだり、それを糧に成長を促せる要因にもなり得る。その人の魅力や価値はもしかしたら足りない部分にこそ宿るのかもしれないから……あの人の過去にはなにがあったのか?今なにを考えているんだろう?とか――分からないから分かろうと努力するし、知らないから知ろうと関心を寄せるし、見えないから見ようとその人の瞳を覗く。他人に対してもそうなんだ、自分自身であれば尚更だ。自分を知るということは足りていない曖昧な情報を整理して理解に努めることから始まることもあるのだろう、きっと……


 100%の自分より60%の自分の方が「多分こうだろう」と情報の空いた穴を埋めて自分探しを行える。それを第三者と照らし合わせることで自分がより形作られ強固になる。思い込みや勘違いかもしれない過去も自分であり忘れているだけで偽りようのない人の歴史だ。抜けているピースが影となりその人に奥行きを与える。未完全で未熟で未完成な自分もまた一興なのだ。

 

 最後に――有名インフルエンサーによると、こんな話があるんだって!

「女性に聞いた、好きな異性のタイプは?」


 ――ミステリアスな人が好き。

 つまりは、そういうこと。




 ―― According to 無解決

4章終了。次話は幕間の続きで19日7:00に投稿予定です。

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