According to 4-2
急に怪談話をすることになった私と匁流君――まだ昼間で日の光がキラキラと眩しく室内へ差し込んでいる状態。それでは雰囲気を出ないということで、カーテンを閉め切り室内の照明を出来るだけ暗くしてリビングのテーブルにロウソクを用意し火を灯す。お互い対面に座りロウソクの火が懸命に燃えている様を気にしつつ(火事ダメ、絶対)、小さな灯りとエアコンや電化製品の稼働音だけが聞こえる部屋に様変わり――毎日のように使用している部屋が今だけは全く知らない別世界の空間に思えるようだった。雰囲気作りって大切よね。
「さぁ、準備はいいっすか?」
「バッチ来い!」
「それでは――」
空気が一瞬で張り詰めていく。
「ヒメちゃんがまだ働いたことすらない!怖いな怖いなー」
「……」
「あれ、ダメっすか?」
「いや、一人の人間としては社会的に怖いかもしれないけど……怪談話だよね?」
「そんな社会貢献ゼロの居候メンヘラ寄生虫が社会への恨み辛みを……って展開にしようと思ったんすけど?」
「一番怖いのは、相変わらずそんな認識しかされてない私自身にだよ」
「それもそうっすね」
終わらすな。もっと庇え、慰めろ!
「それでは次の話っす」
「もう私をイジるの禁止だからね」
「了解っす!」
微妙な空気がまた少しずつ張り詰めていく。
これは友人から聞いた話。
その友人は過去に不動産の会社に勤めており賃貸物件の営業や入居者へのサポートを担当していました。
そんなある日、突然一本の電話がありました。
「お電話ありがとうございます。◯◯不動産の加藤(仮名)です」
「あの……何某ハイツ502号室に住んでいる佐藤(仮名)です」
「お世話になっております。どうされましたか?」
「実は、少し前から隣の501号室からの騒音が酷くて……どうにかならないかと相談したくて連絡しました」
それは数ヶ月から502号室に住み始めた入居者の女性からの連絡。契約時や鍵の受渡しの際は明るく愛嬌のある方だったと印象に残っていたので、それがこの電話では当初の印象とは全く違う暗く震えるようなか細い声に変化しており本人の心情が伝わってくるようでした。
「騒音ですね?もう少し詳しくお話を聞かせて頂いてもよろしいですか?」
こういう言い方をしてしまうと語弊はあるが、この業界を経験する者からしたら騒音トラブルは日常的にあるちょっとしたトラブルぐらいの認識だ。詳細を聞いたら建物の掲示板に騒音注意の書面を貼り出し、それでも改善がなければ近隣の入居者にも情報収集したり書面の内容をより厳しくしたりといった感じなので、今回もテンプレの動きで大丈夫だろうとタカを括っていました。
「騒音はいつぐらいから始まりましたか?」
「一ヶ月ぐらい前からです」
「何時頃に聞こえてきますか?」
「夜の1〜3時頃にかけてです」
「どんな音ですか?」
「音楽やTVとかではなく住んでいる人が騒いでいるような音です」
「そうですか……それは501号室でお間違えないですか?」
「はい!絶対そうです!501号室側の壁に耳を近付けて何度も確認しました!!」
何某ハイツは5階建のマンションで502号室は最上階にあり501号室から左詰で号室が割り振られている。騒音の可能性として考えられるのは左右の部屋か階下だが、音は意外と周囲へと伝播するので左で鳴っていると思っていても実は違うこともあったりする。だがしかし、憔悴した声から一気に勢いを増した彼女の反応に嘘や勘違いという線はなさそうに思えました。
「毎晩毎晩うるさくて全然寝れなくて……もう辛いです……」
「分かりました、すぐ確認しますので少々お待ち下さい」
悲痛に思える声に駆られてまずは501号室の情報を得ようと保留にする。
「これは……」
当物件の入居者データを参照していると一つ分かったことがありました。
「大変お待たせ致しました。恐れ入りますが改めて501号室からの騒音でしたか?」
「そうです……」
「あの、誠に申し上げにくいのですが……該当の501号室は現在空室で誰も住んでおりません」
「えっ……本当ですか……?」
「はい、確認したところ空室なのは確かになります」
「……そ、そんなはずありません!だって、だってあんなにうるさくて……!」
この後も佐藤さんはなかなか納得されず押し問答の様相を呈してしまい、翌日に501号室の室内を一緒に確認するという運びになりました。
そして翌日、何某ハイツに到着し佐藤さんの住む502号室へ向かうと既に部屋の前で待っており、軽く挨拶を交わしてすぐに502号室の確認になりました。持参したマスターキーを使い玄関扉を開錠し2人で室内を確認すると、当然のように空室のままであり空き巣や誰かが侵入した形跡をありません。
「ご覧頂いた通り誰も住んでおりませんが……」
「そ、そうですね……」
謎の騒音トラブルの解決には至らず佐藤さんも理解はしても納得出来ていない様子だったので、掲示板に騒音注意の書面だけ貼り付けその日は解散となりました。
それからも定期的に佐藤さんから501号室の騒音の相談があり、念の為、近隣部屋の住人にも騒音の確認をしたところ心当たりはないとのこと。程なくして佐藤さんは契約満了を待たずに引越しされました。
退去時の室内確認の際、家具などは綺麗に片付けされていましたが、壁一面に御札を真似た紙が煩雑に貼られており、以前501号室を一緒に確認した時にはあまり気にしなかったのですが、全体的にやつれている感じで目の下の隈もドス黒く濃くなっていたのが印象的でした。
謎の騒音は結局なんだったのでしょうか?
「まさかの2段構えだった!?」
「どうっすか?」
「怖いって言うより不気味な感じだったね……」
「っすね!」
501号室が空室なのはなんとなく読めたんだけど……そこからの展開は予想出来なかった。まんまとしてやられた感が悔しい……
「もう一本!」
「もう一杯みたいに……別にいいっすけど」
「さぁ来い!」
「それでは――」
今回も友人から聞いた話。
友人は人材派遣会社の営業や採用を任されており、設立して間もないベンチャー企業だったこともあり人員も少なく多忙な日々を送っていました。
その日も採用面接が何件か組まれており、送られてきた履歴書類を確認しながら準備をしていました。面接時間の5分前に会社のインターホンが鳴り確認すると求職者だったので事務所へ通しました。
出迎える為にオフィス入口で待っていると、求職者が来たまでは良かったのですが、横に知らない女性が立っていました。
「本日面接の横井(仮名)様ですね、お越し頂きありがとうございます……それで、そちらにいらっしゃる方は?」
「はい、私は翔太(仮名)の母でございます」
「お、お母様ですか……」
面接に母親同伴なんて聞いたことがない……!もしかしたら緊張する息子を励ます為に弊社入口まで一緒に来たのか?それなら百歩譲ってまだ分かるが……
「わざわざお忙しい中ご子息様をお連れ頂きありがとうございます。後は弊社でしっかりとご案内いた――」
「いえ、私も面接に同席させて頂きます」
はい……?
こうして、空前絶後の親子参観もとい親子同席面接が幕を切ったのであった。
「息子の将来がなにより怖い!!!」
「いやー、怖かったっすねー」
「ゾクゾクしたよ!親子参観でも凄く嫌だったのに仕事の面接で横に親がいるって地獄じゃん!」
「世の中には自分の考えが全く通用しない相手もいるってことっす!」
「その面接はさぞお通夜みたいな空気だったでしょうね」
「面接が始まったら面接官がなにを質問しても本人じゃなくて母親が回答してたみたいなんで、誰の面接だって感じっすよ」
「子も子なら親も親だね……メンヘラ寄生虫の私がマシに思えるよ」
「それは甲乙付け難いっすね……」
短い作品だったがしっかりと恐怖を感じさせるポイントがあり非常に楽しめる内容だった。世も末とまでは言わないが色んな事情を抱えて生きている人がいるということを痛感した。社会に潜む恐怖だ……
「次はヒメちゃん、なんかないっすか?」
「まかせろ!それでは――」
これは友達から聞いた話で――
「ダウト!!」
「え、なになに!?」
話し出した途端、匁流君からストップされてしまった。あれ、なんでだ?
「ヒメちゃん、ダメっすよ」
「だから、なんで?」
「そもそもヒメちゃんに友達なんていないじゃないっすかー?」
「……」
「その導入では誰も真面目に聞けないっすよ」
「……チッ、バレたか」
なんて悲しい理由だろう……匁流君みたいに友達から聞いた話で入ったら墓穴を掘ってしまった。確かにな……友達なんていないもんなー。
「導入を変えればいい?」
「そうっすね」
「分かった、それでは改めて――これから話すことはネットで拾った内容です」
「その導入ならOKっすね」
「よし、ならこのまま進めるね」
「っす!」
悲しいやり取りだな……語る前に泣いてもいいかな?
両親と子供の三人暮らしのとある家庭がありました。
両親はそれぞれ研究者として働いており子供は中学生でした。両親は研究所に属しながらその研究を基にして起業したということもあり多少は裕福な生活を送っていたそうです。所謂小金持ち家庭でした。
両親ともに自分の研究が絶対に正しいと思うような、ある種で信念が強く、子供に対しても親が決めたルートを強制的に歩ませようとしていました。学校での成績、交友関係、遊ぶ内容に至るまで完全に管理して少しでも理想に満たないと折檻も辞さないような親の元で子供は育ったそうです。子は親の所有物であり理想を叶えるロボットような人生を強いられていました。
そんなある日、子供はふと思ったそうです。
「自分の意思で生きたい」
中学校の卒業式の日、事件は起きました。
式を終えて帰宅後、キッチンに置かれていた包丁を握り締め母親の背中を刺しました。もちろん急所の位置なんて分からないので勢いに任せて何度も何度も何度も刺しました。母親の反応がなくなっても何度も刺しました。父親が帰宅する時間まで部屋の隅で息を潜め、惨状を目撃して動揺している隙に母親と同じ手口で後ろから父親も刺しました。勢いに任せて何度も何度も何度も刺しました。反応がなくなっても何度も刺しました。
これで縛られる存在は消えました。後は野となれ山となれで素直に自首して捕まろうと考えていました。年齢はまだ若いですが複数の命を奪う殺人事件で、ましてや両親を殺すという悪逆非道です――決して罪は軽くないと思い子供は安堵しました。ただ、今は緊張状態から解放された反動により疲労で頭がちゃんと動く状態ではなく、まずは返り血を浴びた服を洗濯機へ放り込みお風呂に入ってリフレッシュしようと考えました。
「血も匂いもなかなか落ちないんだ……」
それが子供の感想だったそうです。
お風呂から出たら眠気にドッと襲われたので寝ようと思ったのですが、この家では寝る気になれず親の財布からいくらか盗んで近くにあるビジネスホテルで休もうと家を飛び出しました。
ホテルに泊まり睡眠を取った翌朝、目覚めはしたのですが疲労感が拭えずにベッドの上でゴロゴロしながら寝たり起きたりを繰り返していました。なかなか動けずにその日もホテルに泊まりました。次の日、そのまた次の日……自首したい気持ちと動きたくない体の矛盾で雁字搦めな状態になり結局は追加で数泊することになりました。
数日が経ち、やっと心身の矛盾に多少の折り合いが付いてきたので近くの交番へ行こうとチェックアウトの準備している時……あることが頭をよぎります。
「もしかしてニュースとかになってる?」
今更になって気付き急いでテレビの電源を入れました。悲惨な事件であり両親と連絡が付かなくなった誰かしらが気付いて通報していてもおかしくないはずです。
結果としては、ニュースで報道はされていたのです想定していた内容とは全く違うものでした。怪訝に思った子供は色々と考えましたが当たり前のように答えは分かりません。あれこれと考えている中で過去の記憶が少しだけ思い出されました。
「よし……一か八か突撃してみよう」
交番で自首する前にやることが出来ました。それが正しいとも美しいとも思っていませんでしたが、自分には必要であると直感的に……そう思えたようです。
子供は自分の意思で一歩を踏み出しました。そのままとある場所を目指したそうです。
それ以降、行方は知れぬまま。
「どうだ!」
「おぉ、ネットで拾ったにしては生々しい話っすね!」
「でしょでしょ!?」
「怖さというよりなんとも言えない闇のような謎が残る感じで……これはこれで良かったすよ!」
「いえーい!」
匁流君にも喜んでもらえる話が出来て思いの外嬉しい!普段から私の方が色々と教えてもらうことが多かったから余計に感じるのかな?うん、実に気分が良い!
「では……良い感じに場が温まったので、ここで本命の話をするっす!心の準備は出来てますか?」
「よっしゃ、こい!」
「それでは――」
普段は見せない真面目な表情を向けたまま匁流君は静かに語り出す。
背中に滲む証拠は纏った言葉と共に逃亡していく――嘲笑う様はまるで狂言のよう。
次話は15日7:00に投稿予定です。




