According to 4-1
"社会保険適用が2024年10月から拡大。従業員数51名以上の企業において、一部パート・アルバイトの社会保険加入が義務化になります。今までは従業員数101名以上の企業が義務対象でしたが2024年10月からは従業員数51名〜100名の企業も対象になり、正社員と要件を満たすパート・アルバイトに対して社会保険の適用が義務化されます。適用対象になる企業・事業所は特定適用事業所と呼ばれ、今回の適用拡大により飲食店も多く対象になる見通しです"
「ヒメちゃんは無職なんすから関係ないっすよー」
「関係なくても知っとくことに価値はあるでしょうが!」
「いやいや、ヒメちゃんには無意味で無価値っす、一生っす」
「そんなこと有り得る!?」
木染月の下旬頃、歴戦の猛者の風格を醸し出すリビングのソファに座りながらテレビでニュース番組を見ている一幕。なにを隠そう、実は……毎日朝夜のニュースには目を通すのだ、エッヘン!
「記憶に残しても生活に活かせないとそれこそ意味ないんすよ?ただ見てるだけで頭良くなったって錯覚するのを楽しんでるんすか?無料で出来るエコな遊びっすね、よいしょ……ねぇ、SDGsに貢献って訳っすか、ウケる」
先程から悪態をつきながらソファの横に陣取りヘラヘラしているのは三刀匁流こと悪言の匁流だ。
「急に俺の紹介なんて挟んでどうしたんすか?……あっ!もしかしてアレっすか?俺らの名前って少し珍しいから読者に忘れられないように定期的に出すことによって印象に残す作戦っすか?」
「見事に言い当てるな!……三刀?誰だっけ?ってならないように私が気を遣ってあげてるんだから!」
「さも自分だけはちゃんと覚えられているような言い方っすねー、くはっは!俺らがヒメちゃんって呼んでるんで、名である纏なんてそれこそ誰も覚えてないっすよ?なんなら、本来が姓である火芽を名だと勘違いしている人すらいそうっす!」
「あぁー、禁忌に触れたな!そんな気がしてたけど考えないことでなんとか保ってきた均衡を破ったな!!」
「まぁ、落ち着いて……寄生虫のヒメ?」
「もう寄生虫ネタ止めて……」
私も自分からちょくちょくネタにしてた節はあるけどそろそろ悲しくなってきた。仁さんのスネは私の物ではあるけど虫扱いはだんだんと虚しさが増してきているのだ。
「じゃあ仁さんにおんぶに抱っこをまず止めればいいんじゃないっすか?」
「それだけは絶対に無理!!!」
「過去一の否定っすね……ある意味で尊敬っす」
尊敬だなんて……もう匁流君ったら。
「脳内お花畑のヒメちゃん、それで?」
「え、なに?」
「いや、毎日ニュース見てるんすよね?好きなんすか?」
「あー、好き嫌い……うーん……?」
「歯切れ悪いっすね」
「なんて言ったらいいのか……気になる……興味……関心……」
「言語化出来ない割に食い入るように見てるっすもんね?」
「そう?」
「グイッと目を凝らして集中して見てることあるっす!自覚ないっすか?」
「そうね……無意識かも……」
そうなんだ……そんな食い入るように見てることもあるのか……まぁ、うん、なんだ……
「まぁまぁ、国内外関係なく時事を知っておくことは大切っすからね」
「ほら、大切なんじゃん!」
「じゃあ……さっき見ていたニュースを簡潔に伝えてもらっていいっすか?」
「昨日の夕飯も思い出せない私に酷な質問は禁止!」
「だから無意味で無価値なんすよ……」
「えっと、なんだっけ……?日本の社会保険制度は破綻しているって話だっけ?」
「その理解力でニュース見る必要性ってあるんすかね……今まで適用外だった一部の労働者に対して社会保険の適用が義務化になったんすよ」
「あー、それそれ!私も憧れの社会保険に加入出来るかってウキウキしてたんだから」
「憧れる要素ってあります?ってか、先に言いましたがヒメちゃんは無職のメンヘラ居候なんで無関係っすよ」
「えぇっ、加入出来ないの!?」
「そうっす!」
「そっか……残念。メンヘラ無職の私にとっては社会保険加入ってなんか憧れるんだよね」
「メンヘラは自覚してんすね……あー、でも一定数いるっすよね!転職活動している求職者で社会保険加入を気にしている人って」
「そうなんだ!でも大事なことでしょ?確か会社が全部負担してくれるんだよね」
「そういう勘違いした人も一定数いそうっすね……労働者もちゃんと負担しますよ」
「えぇ、無料じゃないの!?」
「っす!」
「そっか……なら、そんなメリットないね。なんだ、ガッカリだよ」
「ただ税金払いたくないだけじゃないっすか。まぁ、個人の所得などによっては社会保険の方が保険料が安くなることがあるのでメリットがないことはないっすよ」
「えっ、でも支払いが発生するのは変わらないんでしょ?ならどうでもいいよ」
「社会保険にどんな夢を描いてたんすか、その発想力に脱帽っす……」
「その大してメリットのない社会保険に加入義務が発生する労働者が今後増えるんだっけ?どうぞ、お好きなように」
「自分の望む答えじゃないと分かったらこれだもんなー、ヒメちゃんは」
「ふんっ!どうせ無職の私には関係ないし!国もケチだなー」
はぁ……そっか、なんであんなに憧れてたんだろう。夢から醒めるってこういうことなんだろうな……社会保険に加入出来れば一人前の社会人として認められて国から恩賞とかあると思ってたのに。
「そんな甘えた考えを捨てることから始めればいいんじゃないっすか?」
「甘い考えを捨てても保険料は払うんでしょ?」
「大人になるには代償が伴うんすよ」
なんか凄い格好良いようなことを言われた気がする……腹立つ。
「なんか酷いこと考えてるっすか?」
「気のせい気のせい」
「そっすか。でも、なんで社会人として認められたいんすか?」
「えっ、なんか格好良いじゃん」
「まさに子供の答えっすね……食べ物の好き嫌いがなくなったら大人みたいなレベルの低さっす」
「本当の大人はね……子供みたいな発言にも同じ目線になって話を合わせられるんだよ、匁流君?」
「説得力ないっすねー、ウケる」
「もう!なんでもいいじゃん!私も一人前の大人になりたい!」
「結論変わってないっすか?一人前の社会人になりたいんすか?それとも大人になりたいんすか?」
「……え、同義じゃないの?」
「近いっすけど違いますね」
「マジか……」
「マジっす」
「じゃあ……なれそうな方で一つ宜しくお願いします」
「いや、頼まれても……あっ!一人前になれるかは今後次第っすけど、社会人になら今からでもなれるっすよ!」
「マジ!?」
「マジっす!」
大人になる方が難しいと思われているのを触れないことで現実を見ない高等技術を発揮中。
「教えて!どうすればいいの?」
「それはっすね……外の世界で仕事すれば叶うっす!」
「はい?」
「えっ、分かんないっすか?いとま探偵事務所の家事手伝いだけじゃなく他の会社さんでアルバイトとかすればいいんすよ!」
「あー、えっと……」
「アルバイトとかしたことあるっすか?」
「いや、ないけど……」
「なら、試しにやってみたらヒメちゃんの希望は叶うっすよ」
「うーん……突然そう言われてもな……」
「もちろんそうっすよね!俺としても我が探偵事務所の大切な居候だと思っているので、いなくなられると困るは困るんすけど……」
「えっ、匁流君……!」
なんだかんだ必要とされている……!?
「仁さんへ仕事しろって圧掛ける役目やみんなの食事の用意だったり事務所の掃除洗濯だったり……」
「マジで家事手伝いとしか思われてないのな!」
「え、違うんすか?」
「もちろんそうなんだけど……もっと、こう……ね?」
「まぁまぁ、大事な仲間だとは思っているんで安心して下さいっす!」
「あ、ありがとう」
「ヒメちゃんは良くも悪くも世間知らずの可愛い無知でいることが一番っすよ!」
「それは、どうなの……?」
「そのまま子供部屋おばさんならぬ事務所居候おばさんになるのも一興っすね」
「前向きに検討しておきます……って、するか!」
事務所居候おばさんはネームからしてヤバい……
「いつもみたいにノンデリ発言しまくって仁さんのスネをかじりつくしましょ?」
お前にだけは言われたくない。
「それとこれとは……ってか、まずはそのノンデリを抑えないとどちらにせよ社会出れない系?」
「社会には出れるんすけど周りの環境に恵まれないと孤立まっしぐら系っす」
そうですか……無自覚だからな……どう抑えたものか。
「短期バイトとかちょっと興味あるんだけどな……」
「そうなんすか?あんなに人の財布で暮らそうとしてたのに?」
「あれはただのネタだから……!」
仕事か……今までちゃんと考えたことなかったけど生きる上では必要だ……ノリと勢いととある理由でいとま探偵事務所に転がり込んだけど今後のことはどうしようか?そもそも考えていたものとはかけ離れた着地をして、見事になんだかんだなあなあの感じに落ち着いてしまっているのは否めない。そんな毎日に安らぎを覚えてしまっている是非は置いといて私も少し頭を使う時がきたのかもしれない。このぬるま湯から出ることに不安を感じないかと言われたら嘘になるけど、このまま歪な日々が続くことも心のどこかで疑問視している自分もいるのは確かだ。
「……あれ、今更なんだけど私っていとま探偵事務所には正式に雇ってもらうことは出来ない感じかな?」
「今更っすねー、ウケる」
あ、そうなんだ……
「仁さんが言ってたの?」
「直接聞いたことはないっすけど彼の考え的に雇うことはないでしょうね。そのつもりなら最初からそういう説明しているはずっすからね、ヒメちゃんの当事務所での役割は居候兼家事手伝いっす!」
「そっか……」
なんか悲しくなってきた……探偵になりたいと強く思ったことも明確な熱意や意欲もない。ただ、例え長い付き合いではなくとも寝食を共にしている仲間二人から本当の身内ではないと暗に明言されているように感じた。あくまで居候であり仁さんの気紛れの産物としてここにいることが許されているだけ――もちろんそれは正しいし反論の余地もないけど、私の本来の居場所はここではないことを痛感するのも確かだ。居候なんだからそれはそうなんだけど……うーん、なんかな、あー、考えがまとまらない。
「そんな難しい顔しなくても大丈夫っす!」
「なんで?」
「俺らには探偵事務所の雇用関係だけでは結べない関係値や絆があるんすから!」
「どんな絆?」
「……」
匁流君の次の言葉を息を呑んで構える。
「いやー、今日は暑いっすねー!」
「ないんかーい!!」
大した絆はなかったようだ。
「嘘っす嘘っす!急に恥ずかしくなって言い淀んでしまったっす!」
そんな羞恥心とかある人間か?
「どうせ大した理由はないんでしょ?」
「あるっすよ!ただ、まだヒメちゃんに伝えるのは時期尚早かなと」
「どういうこと?」
時期尚早……?
「時期尚早……と言うより、これは自身で見つけて欲しいのが正直っす!」
自分で見つける……
「うーん……」
「はっは!まだヒメちゃんには難しい話だったすね!また追々話しましょう!」
なんか、はぐらかされた感じが強いな……
「わ、分かった……」
深掘ると痛い目に遭うと予感し、私はなにも分かってはいないものの彼の誤魔化しをそのまま受け入れた。
会話の切れ間が編集点のように状況は次の段階へと進む。こういうのって閑話休題って言うんだっけ?……語感良きだよね。
「そう言えば、仁さんはどこ行ったんすか?」
「え、あー、なんか誰かに呼び出されたとかで凄く嫌な顔しながら出てったよ」
「そうなんすか、了解っす!今日も暑いんで外出するのは特に億劫っすよね」
「暑いよねー、冷房器具ないと耐えられないもん」
「っすねー!あっ、夏っぽいことしないっすか?」
「夏っぽいこと?別に良いけど」
「なら真昼間っすけど、少し怖い話でもしましょうか?」
「え、怪談的な?」
「そうっす!やります?」
「やる!」
仁さんの不在時、私と匁流君で唐突な怪談話をすることになった。怖いな怖いなー。
4章開始。次話は14日7:00に投稿予定です。




