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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【3章】ねるこのはて
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ねるこのはて 3-4

 退っ引きならない発言に私の体は硬直したかのように動くことが出来ないでいた。それでなくても目の前の異様な存在にたじろぐことしか出来ていないのに……だから、グイっと顔を近づけないで!私はあなたの同志ではない!!


「当然と言えば当然だったのでしょう。仁さんのお連れ様ですからね」

「ど、どういう意味ですか?」

 その含みのある感じ嫌だなぁ……


「もしかして事前に私の話とかされていましたか?……いや、例え聞いていなくても仁さんのお連れ様であれば十分に予測可能でしょう」

 なにも理解出来ていないのに勝手に話が進んでいる、だとっ!仁さん……あなたは過去になにをしたの!?


「人類冬眠化計画――私が研究チームにいた頃からの悲願であり現在も追い求めているテーマになります」

 質問に対する回答がない。


「あの頃は私もまだまだ未熟であり理論も不十分でしたので仁さんにはコテンパンにされてしまいましたが。確か……あの時もお連れ様がいたような……いえ、それは今は関係ないでしょう」

 だから仁さんは過去になにをしでかしたの!?


「今はあの頃と違い研究もどんどん進んでいます。せっかく仁さんもいますので当時のリベンジも兼ねて火芽さんに聞いて頂きましょう――悲願の今を!リネームされた夢の続きであるSiLe(サイル)計画を!」

 私をダシに使って仁さんへリベンジするな!え、なに?さ、サイル……?LDHの新しいグループ??


「まずは、冬眠についてのご理解は?」

「えっと……動物が個体の代謝を下げて低温期を乗り切る的な……?」


「簡単に言えばそうですね。生命活動を続ける為に餌の確保が難しい冬のような厳しい季節を耐え切る策です。広義的には、恒温動物の一部と変温性のある動物などが活動を極限まで抑制する行為もしくは生態とお考え下さい。例えば哺乳類系で言うと約4000種の中で約200種類が冬眠をします」

「はぁ……(興味ない)」

「冬眠をすることで仮死に近い状態まで生命活動を抑制してエネルギー消費を限りなく減らす訳ですので、先程話をしていた睡眠とは似ているようで別枠の行動です。とは言え、冬眠時でも持続的冬眠と中途覚醒を繰り返すのでずっと意識がないという訳でもありません」

「無意識に寝たり起きたりを繰り返している感じですか?(興味ない)」

「それに近いでしょう。冬眠をする動物を冬眠動物と以降呼びますが、冬眠動物はまだ謎も多く可能性に満ちています」

「何故です?」

「呼吸数や心拍数を極限まで減らして体温を下げて代謝量を抑制する――普段であればその状態が数時間から数日程度続けば生きることが出来ないのに対して、冬眠時はその状態でも心臓は止まらないし臓器は傷まないし筋肉は衰えないし脂肪は効率的に燃やせる。これでなにが言いたいか分かりますか?」

「いえ、察しが悪いもので……」

「そんな謙遜をなさらないで下さい。既に察しているかと思いますが、冬眠を理解して解明することにより人間へ応用したいのですよ」

 だから勝手に話を進めないで!なにも察してないよ!


「人間へ応用ですか……?」

「そうです。臓器移植の精度向上、肥満予防、冬季うつの予防や改善など医療の分野での応用が特に期待されています」

「微睡さんもその分野で研究されているんですか?」

「そういう研究も行ってはいるのですが……私は断片的な冬眠の応用ではなく包括的な冬眠を人類へ適応させたいのです」

「すみません……なにを言っているか私には理解が追い付きません」

「簡単に言えば、人間も冬眠を可能にしたいのです」

「あぁ!だから最初に冬眠化計画がなんちゃらって……」

 アニメのパロディ的なギャグじゃなかったんだ。


「その通りです!だからこそ当時は、安直に人類冬眠化計画と名付けましたが――現在ではSiLe(サイル)計画と改称しています」


「そのサ、サイルってなんですか?」

「Sleep in life extentionの頭文字を取ったものです」

「どういう意味なんですか?」

「直訳すると、"寿命を延ばす睡眠"になりますね」

 うわっ、分かってはいたがややこしい話になってきたな。


「先程は睡眠と冬眠は似て非なるものと説明しましたが冬眠開始時の脳波は睡眠と似ています。ですので、睡眠の延長線上にある分岐として私たちは研究を進めています」

「へ、へぇ……(もう帰りたい)」

 私にはチンプンカンプンなんですけど……仁さん助けて……って、目を擦って欠伸してやがる!過去に聞いたことあるんでしょうけど興味なさすぎでしょ!あなたが寝そうになってどうするんですか!?


「人間は何故冬眠が出来ないと思いますか?」

「それは必要がないからですか?」

「それも答えでしょう。人類は進化の過程で脳が発達して知恵を得た。それにより低温期でも乗り越えられる術を発明していったのですが……本当に不要なのでしょうか?」

「えっ?」

「結局は冬眠の仕組みを応用しようと研究がされていますよね?部分的とは言え、本当に不要であればそもそも誰も研究なんて始めません。冬眠の仕組みが必要とされているのであれば、人間も冬眠することが出来れば万事解決ではありませんか!」


「そ、そうなんですか……?」

「そうですとも!!!」

 圧が強い!圧が強い!!


「人工冬眠が可能になれば人類にとって限界を超えることが出来るのです!」

「限界ですか……」

 うわー、面倒なこと言ってる……


「寿命という生物にプログラムされた絶対遵守の命の期限――いかなる生物も誕生した瞬間から死というゴールまで走り切る長距離マラソンをしているとイメージして下さい。止まることが許されず延々と走り続ける姿を……最初から死が確定していて距離もある程度定まっているのであれば、無理に走らなくても歩いたり休憩を挟んだりしたくはありませんか?」

「そう言われると……そうですかね?」

「基本的には死ぬ為に生きている訳ではなく生きた先に死があると考えるはずです。そうであれば、生きる期間が延びれば延びる程……より満足のいく死に辿り着けると誰もが理解するばすです!」

 えっ、なにかの宗教の話に聞こえてきたんですけど……


「人工冬眠を実現させる為にはいくつか方法があるのですが、他の冬眠動物同様に代謝を減らすことから始めようと考えています」

「代謝ですか……?」

「私たちは冬眠を通して生命の長期的維持を目指しているので、どこの誰かさんと違い肉体を捨てて電脳世界へ逃げるような発想は致しません」

「うん……?」

 なにか引っ掛かる感じがした。


「あぁ、失礼しました、関係ない話でしたね。まずは代謝はご存知ですよね?」

「流石にそれは知ってます。生きる為に必要なエネルギーみたいなモノですよね?」

 流石にと言ったものの曖昧さを拭えなかった。


「えぇ、その必要最低限を基礎代謝と呼びます」

 おぉ、合ってた!流石は私!


「代謝量が高いのは健やかな肉体を維持する上で大切なのですが、生命の長期的維持の観点で言えば良いことばかりではありません」

「え、健康になるなら寧ろ良いことですよね?」

「それはそうなのですが、それでは従来通りの寿命しか生きることが出来ません」

 あぁ、なるほど。


「正常体であれば心拍と脈拍は一致して基礎代謝量が高いと脈拍は多くなり基礎代謝量が低下すると脈拍も減少するといった相対関係にあります。では、代謝を下げる為にはどうするのか?……もうお分かりですよね。心拍数をゆっくりにすれば良いのです」

「……(そんな、さも当たり前のように言われても)」

「実際に心拍がゆっくりな亀が200歳まで生きたり鮫も400歳まで生きている種類もいます」

「……(亀は万年じゃないの!?)」

「一生の内の心拍数はどの動物でも約10億回前後となっており、科学の進化と元より長寿な人間だけはその限りではありません。人間以外の動物は病気や事故などの外的要因を省けば心拍が10億に至るのが早いか遅いかが寿命に直結しているのです」

「……」


「冬眠は心拍が下がり代謝が減り体温が下がる――この流れを踏襲すれば良いのです。複雑に考える必要はありません。 2022年にマウスの脳にあるQ神経と名付けた細胞を薬剤で刺激させて冬眠に近い状態を作り出すことに成功しています。本来マウスは冬眠をしませんので、Q神経に薬剤刺激を続けている間は平常37℃付近のマウスの体温を大きく低下させて酸素消費量も大幅に減らせています。この状態をQIHと呼んでいますが薬剤を止めると約1週間程度で平常に戻っています」

「複雑に考える必要はないという嘘は置いといて……冬眠しない動物が科学の力で冬眠をするんですね」

「同年にはマウスの視床下部にウィルスを注入することにより一部の神経細胞が活性化して冬眠に近い状態を作り出すことにも成功しています。このように人間も人工的に冬眠が可能になれば、本来の心拍スピードを遅らせることが出来るので結果として寿命を延ばすことが出来る訳です」

「……ってことは、人間にもそのなんとか細胞に薬剤を投与するんですか?」

 それは嫌だなぁ……


「その方法論も現在検討中ではありますが別の方法も当然検討しています」

「それは?」

「要は代謝スピードを下げれば良いのですから、冬眠による低体温状態を人工的に作り出せば同じ結果に辿り着きます」

「低体温ですか……」

「代謝は生体内での化学反応でもあるので体温に依存しています――高温だと化学反応が早まり低温だと遅くなります。また化学反応をサポートしている酵素は37℃付近が最適と言われています。ですので、体温を下げれば酵素の活動も弱まり化学反応が遅くなる。化学反応が遅くなるということは代謝スピードも遅くなっていると同義なので結果的に老化(成長)を遅らせられるという訳です」

「風が吹けば桶屋が儲かる論法に聞こえるのは何故でしょう……」

「お、ヒメちゃん!そんなことわざを知っているなんて賢いね!」

 うるせぇ!急に話したと思えば私を馬鹿にしていないでさっさと助けろ。


「とある研究で人間の体温と寿命の関係を予想したグラフがあるのですが、体温を2℃下げただけで寿命が20〜30年程延びるというデータが出ています。体温は寿命と密接な関係にあると分かると思います」

「……」

「ということは……散々お話している冬眠は低体温状態になっている訳なので寿命を延ばすのに適した方法なのです」

「なんとなく分かったような分からないようなって感じですが(全く分かっていない)……実用化出来るんですか?」


「良い質問です」

 教授と生徒みたいなやり取り!


「医療現場で既に実用化されている技術があります――ライノチルシステム(低体温療法)と言って、重症者や心停止した患者へ向けて脳や体の劣化などを防ぐ為に全身を冷却させて代謝を落とし劣化を防ぐ方法です。具体的には、患者の鼻から特殊な冷却剤と酸素を送り脳から冷やしそのまま冷えた血液の自然循環によって全身を31℃付近まで冷やす技術になります」

「もうあるんですね!?」

「現状では7〜14日間程度しか保てないのですが、このライノチルシステムの進歩により冬眠やコールドスリープへの応用を目指すべく各国で投資や研究が進んでいます」

 コールドスリープ。なんか最近聞いた気がするな。


「神経細胞への刺激、外部からの冷却――より安全で確実性のある方法で人工冬眠を実現させます!!」

「ほぇー……」

 言葉にならない。理解度を問わず上手く言語化を組み立てることが出来ないでいた。


「以前は妄想の域を出ない理論もだいぶサマになったでしょう、仁さん」

「……」

 仁さんは口を開くことはなく感情の読み取れない表情をするままだった。


「夢の冬眠生活……ようやくここまできました。今なら仁さんの意見も当時とは異なるのではないですか?」

「僕なんかになにを言わせたいのかな?」

 ようやく口を開いた仁さんはあくまで他人事のスタンスを保っていた。


「それはもちろん……あなたに賛同して欲しいんですよ」

「……」


「さぁ!いかがですか!!」


 微睡さんの顔から余裕が消えて迫真な表情で仁さんを見つめる。それに反して無表情な仁さんは――。

 

「微睡さん、客は僕だけかい?」

 

「はい?」

 背中がゾクゾクと騒いだ気がした。


「僕より熱心に話を聞いてくれた人間が目の前にいるだろ?」

「火芽さんのことはもちろん忘れておりませんが……」

「なら僕なんかより先に突破する壁があるんじゃないかな?」

 ギロリと熱視線が私へ向かってくる。うわーやりやがった!


「あ、あの……」

「火芽さん!仁さんとは前々からの絡みがありましたので気持ちが急いてしまいましたが……あなたも私の大切なお客様です!!」

「え、えっと……」


「まずは火芽さんの答えをお聞きしましょう!さぁ!!」

「うわっ、マジか……」


 仁さんのキラーパスのせいで私が答える羽目になってしまった……この地獄の空気どうすればええんや!私にどうしろと!鬼!悪魔!謎好きおじさん!人類冬眠化計画改め"SiLE計画"の概要を意気揚々と話す全身白ずくめ紳士こと微睡さんから、件の計画についての所感?見解?を求められるなんて……いや、知らんがな!私にそんな大層な役目を求めるんじゃないよ!


「さぁ、火芽さん!!」

 だ、だから!グイグイと圧が強いんだって!


「ほ、本当に私なんかの適当な意見で良いんですか?」

「えぇ、もちろん」


「あなたが知りたいのは仁さんの気持ちですよね?私を挟む必要性を感じないのですが……」

「そんな謙遜は不要です。仁さんからの意見はもちろん聞かせて欲しいのですが、あなたも大切なお客様であり話を最後まで聞いた以上は私の計画に是非を述べる権利があると考えます」

「そうですか……」


 頑張って抗おうと試みたが微睡さんの真剣な眼差しに抵抗は無意味であると理解させられた。ここは腹を括るしかないようだ……


「それでは……不躾ながら私が感じたことをお伝えします……」

「お願いします!」


 唇を震わせながらも思ったことを素直に伝えた。

次話は9日7:00に投稿予定です。

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