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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【3章】ねるこのはて
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ねるこのはて 3-2

 仁さんの買い物に付き合う流れで久々の二人での外出。


「買い物ってなにが欲しいんですか?」

「使い古してしまった枕を新調したくてね」

「枕ですか、良いですね!」

「だろ?使っていく内にどんどん馴染んでいく物ではあるけれど、それ故に劣化していく物でもあるからね。しかも良い物を買おうとすると値段も安くないし後回しになりがちだ、財布の買い替えと近い感覚かもしれない」

「た、確かに……でも、私の枕は仁さんの腕なので良い感じに首に馴染んで劣化も全然しません!」

「捏造は止めようか。そんなことした記憶はないよ」

「え、いつも仁さんが眠った後に寝室に潜り込んで楽しんでますが?」

「冗談でも怖いよ。枕の前に寝室に施錠器具買う?」

「ほら、後回しにする!」

「君のせいとしか言いようがないけど……そうだね、なかなか難儀な買い物だ」


 穏やかな晴れ間の下、私たちは事務所を出て買い物へと向かっている。駅前には娯楽施設や商店街などもあり華やかさよりも昔ながらの活気に満ちている。買い物はだいたいここで済ませるのだが、少し離れると住宅街が広がり一気に静けさが漂っている為か、なだらかな坂はあれど基本は平坦な道が多い土地故に駅前との景観の落差を感じてしまう。気付けば別世界に辿り着いたような景色の移ろいにたまにドキッとしてしまうこともしばしば。過去と今のせめぎ合い――共生とも違う、紆余曲折の果てに腐れ縁のような関係性に至ったようだ。


 栄えているとも寂れているともなんとも言い難い感じのどこにでもある街並を歩く私たちだが、それにしても……仁さんと二人での買い物は久しぶりでなんだかソワソワしてしまう……夜間に寝室へ潜り込んでいるのは冗談だよ?ソワソワを払拭する為の私なりのジョークなのだ、無断で人のプライベート空間に入り込むような非常識な人間では断じてない……たぶん、きっと、そのばす。


「それじゃ、ヒメちゃん!せっかくだしクイズでもしようか?」

「お、いいですね!乙女の体重は秘密ですよ?」

「じゃあ問題!」

 華麗過ぎて気にならないぐらいのスルーをされた。


「睡眠とはどんな状態?」

「睡眠ですか……えっと、まず心肺は停止しているはずで……」

「それじゃ死んでるよ。ちゃんと義務教育の義務を全うした?」

 普通に心配された。


「義務は全うしましたが教育は受けてないかもしれません!」

「ヒメちゃんは本当にお可愛いこと」

 普通に馬鹿にされた。


「先生!さっさと答え教えて下さい!」

「それじゃクイズにならないよ……まぁ、もういいか」

 普通に諦められた……もう少し粘って!あと一押しで揺らぐこともあるんです、そこをなんとか!


「答えなんだけど、意識や心拍が下がって脳や体が休息モードに入った状態を指します」

「ほう」

「レム睡眠やノンレム睡眠ぐらいは聞いたことあるでしょ?睡眠中はそのサイクルで回っていて疲労回復やストレス解消もそうだし記憶の整理や定着などが行われている」

「ほうほう」

「……と言うのは、断片的な答えであり本質からは少しズレている」

「えっ?」


「生物は何故眠るのか?睡眠とはそもそもなんなのか?という本質であり根源的な回答は現代科学でも未だに持ち合わせてはいないようだ」

「睡眠ってそんなに複雑なんですか?」


「そうみたいだね。睡眠を定義する4つの指標というのがあって、睡眠覚醒の切替が素早く可逆的である・個体の動きが鈍く(あまり動かなく)なる・外的刺激に鈍くなる・睡眠覚醒のバランスを制御している、これらを満たしていれば睡眠と見做すらしい」

「へぇー、でも研究が進めば内容が変化する可能性もあるんですかね?」

「十分にあるだろうね」

「奥が深い……あ、さっき断片的と言ってましたが、身体回復や記憶整理などは睡眠中に行われているんですよね?」

「そうだね、ただ脳は睡眠中でも結構動いていたりするみたいだから睡眠を脳の休息と定義してしまうのは矛盾を歓迎している回答になってしまう」

「あー、寝ている時は脳も休んでいるって聞いたことあります!それは間違ってはいないけど正しくもないって感じですね」

「その通り!ちゃんと理解出来ているじゃないか、偉いぞヒメちゃん」

「エヘヘ……それほどでも」

 ウヒヒ……仁さんに褒められた……。


「それに夢を見たことはあるだろ?」

「そうですね!海賊王になりたいです!」

「大海原へいってらっしゃい」

 そこは引き止めて!船舶免許なんて持ってない!


「因みに、蓄積された記憶の断片情報をまとめて整理している時に夢を見ると言われている、諸説あるんだけどね」

「人を殺している夢をたまに見るんですけど、それも過去の記憶の断片が整理されている最中だったんですね」

「いや、怖っ!必ずしも体験記憶だけとも限らないだろ?漫画や映像で見たシーンも立派な記憶だ」

「本当にそうかな?」

「何故、そこを謎めかす!」

「へへっ、私が見た夢を相手も鑑賞出来れば答えが分かりますね」


「実はその研究は既に行われている」

「なん、だと……!」


「日本のとある大学で、機能的MRIを用いて後頭葉の視覚野のパターンをレコーディングして夢の中身を当てるという論文が発表されている」

「マジっすか!?」

「ただ夢って主観的なイメージが強いからなにを持って夢と判断するかなど、まだまだ研究の余地はありそうだけどね」


「人類科学は凄いですね!では、次のクイズは?やってやって!」

「ノリ気なら最初からちゃんと答えてくれ……まぁ、もういいか」

 仁さんの器の広さに甘えまくってドロドロな私だった。


「次の問題!」

「ジャジャン!」


「眠らない生物は存在するのか?」

「えーっと、いそうな気がしますが問題的にいないが正解か……」

「出題文でメタろうとしないで……正解はいないです」

「やっぱり!」

「神経系のある生物らしい生物は全て睡眠行動がある」

「じゃあ大体の生物は寝るんですね」

「うん。爬虫類、魚類、昆虫、軟体動物、線形動物など、数多くの生物には睡眠に近い状態の睡眠様状態があると判明しているよ」

「みんな眠るんですねー」


「それに最近では、無脊椎動物であるクラゲも眠るという研究データが学会で発表された」

「クラゲも寝るんだ」

「一昔前までは、脳(中枢神経系)がある生物が眠ると考えられていたが今回のクラゲの件でその考えが破綻した。だってクラゲには脳はないからね」

「脳で睡眠をコントロールしている訳でもないんですね」

「まだ断言は出来ないが、ある程度の複雑な神経系を有する生物は全て等しく眠るというのが睡眠学の現状の答えだ」

「それは睡眠を行わない生物がまだ見つかっていないだけの可能性は?」

「それも有り得るかもね」

「いてもおかしくはないですよね……だって野生環境で眠るのってリスク高くないですか?」

「そうなんだよ、外敵の標的になりやすく危険極まりない行動である睡眠だが、現代に至るまで淘汰されることはなかった――そこにどんな意味があり理由が存在しているか……考えるだけでワクワクするだろう?」


「ワクワクはしますが、仁さんの場合は解けていない謎に興奮しているだけじゃないですか」

「謎は謎のままが美しい!」


「それじゃ一生分からないままじゃないですか!ほら、仁さん、次、次の問題!」

「では、次の問題です!」

「ジャジャン!」


「冬眠とはどんな状態でしょう?」

「冬眠ですか……まず心肺が停止して――」

「――ないから真面目に答えて?」

 食い気味にボケを封じられた。


「そうですね、睡眠の時よりもっと意識や心拍が下がって下がって、やがて止まる……」

「どうしても殺したいんだね」

「そんな訳あるめぇよ、旦那!」

「エセ江戸っ子出てるよ」

「じゃあ、冬から春まで絶対に起きないモード発動って感じですか?」

「適当じゃん!」

「なら!」

「あ、そっちの解釈?珍しいね」

 私の目分量はアテにならないようだ。


「もう答え言うね」

 ちょっと呆れてません?ヤダ!見捨てないで!


「冬眠は、代謝を大幅に下げることにより体温、呼吸、心拍を低下させて生命活動をギリギリまで抑制した状態だね。それで冬のような低温期を乗り切ろうとする本能に組み込まれた生存戦略でもある」

「ほうほうほう」

「猛禽類は飼ってませんよ」

「私はフクロウではありません!睡眠とは違うんですね」

「そうだね、長期間の睡眠とは別モノと考えた方が分かりやすいだろう」

「ほぇー、じゃあ私も冬になったら冬眠します!」

「人間は冬眠しないよ?」

「そこをなんとか!」

「僕に言われてもね……」

「年中冬眠でも構いません!」

「それは多分死んでるよ?」

「それでも構いません!」

「少しは構おうよ」

 愉快な雑談を交わしながら移動すること約10分程――気付けば殺風景だった景色が駅前の栄えた彩に塗り替えられていた。


「枕はどこで買う予定なんですか?」

「えっとね、確かこっちだったかな……」


 商店街入ってすぐにある店舗間の路地へと進む。日中帯なので建物の隙間から日差しが降り注いでいるものの多少の薄暗さも残っており景色の豹変が変な奇妙さを醸し出していた。路地特有の廃れた雰囲気と排他的な印象で何故だか足を踏み込むのに一瞬だけ躊躇してしまう時を思い出す。


「こんな場所にお店なんてあるんですか?」

「変な場所に店舗を構えたものだよね……あ、ここ!」

 周囲の雰囲気を断ち切るかの如く外装を白一色に染められたヘンテコな店を仁さんは指差した。


「ここですか……?」

「そうそう、白々しい程に主張が強いよね。さぁ、入ろうか」

「わ、分かりました……」

 路地以上に入るのを躊躇う主張の強さだ……なんか帰りたくなってきた。


「仁さんは前から知ってたんですか?」

「まぁね。済んだ話だけど」


 えっ……なんて言いました?


 暇仁を物語るには欠かせない聞き馴染んだ一言に私は戦慄する。それを言うってことはアレじゃん!うわっ……絶対に面倒な感じになる……帰りてぇ……

次話は7日7:00に投稿予定です。

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