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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【2章】ヒトとケモノと
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ヒトとケモノと 2-5

 時刻は正午を回ったところ――そろそろ昼食の時間だが来客をもてなす料理なんて作れる訳もなく、また食事しながら話す内容でもなかった。


「お手洗いを借りても良いでしょうか?」

「あ、はい!もちろんです」

 煤木さんにお手洗いの場所を案内して部屋には匁流君と私が残された。


「ねぇ、匁流君!今までの話どう思う?」

「うん?説明された通りに受け止めてるっすよ」

「なんか……ヤバそうな研究所じゃない?」

「いやー、それはそうっすよ!じゃなきゃ仁さんに白羽の矢なんて立たないっすよ」

「なんてこったい……!」

 既にアングラ界隈で広まっているようだった……裏ではこんなヤバい相手とやり取りしていたのか、仁さん。マジでよく今まで生きてたな……。


「それにしても……仁さんも面白そう案件に出会したっすね」

「そうかな……?私はなんか怖い印象しかないんだけど」

「ヒメちゃんも動物と一緒に実験されてみるっすか?」

「そんなバカな!怖い怖い怖い!!」

「ただ、まぁ……相手の真意はまだ掴めてないっすけどね」

「……真意?仁さんに話したことを私たちにも聞いているだけじゃないの?」

「……」


「お待たせしました」


 ガチャっと扉が開く音と共に煤木さんが戻ってきた。座っている時も異常に姿勢が良いと思っていたが立ち姿は本当に見惚れるばかりだ、凛した感じのオーラがヤバい!この人がさっきまでクローンがなんだって話してたのか……余計にヤバさが際立つな。


「それでは続けても宜しいでしょうか?」

「「はい!」」

「ふふっ、息ピッタリですね。では――」


「プラン3は"人体再生と新たな道"です」


「クローンの方が先に立ち上げるプランってのが意外っす!」

「一般的にはそうでしょうね。ですが、我々はその数歩先にあるモノを目指しています」

「数歩先っすか?」

「そうです。まず再生医療は流石に聞いたことがあると思います」

 もちろん!……初めて聞いたよ、私。


「再生医療――機能障害や機能不全に陥った生体組織や臓器に対して、細胞や人工的な材料を用いて損なわれた機能を再生させる技術になります。その技術向上により、これまで治療法のなかった病気などに対して新たなアプローチが可能になります」

「そうっすね!」

「再生医療の分野で近年注目されているのはiPS細胞です」

「iPS細胞は……ありますっ!!」

「ヒメちゃん……それはSTAP細胞っす」

 はぅっ……


「iPS細胞――人工多能性幹細胞は体細胞に特定の初期化因子を導入することで樹立されます。この細胞は万能細胞とも呼ばれ、体のほぼ全ての細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力を獲得していますので、新たな医療への応用として期待が集まっています」

「デュアルスキル持ち!なんかゲームの便利キャラ感あるっすね」

「iPS細胞の凄さを示す例とすれば、オスのマウスから卵子を作成してオス同士から赤ちゃんマウスを誕生させることに成功しています」

 オス同士で赤ちゃん、だと……なんかワクワクすっぞ!


「また、鮫の体内に人工子宮を移植して出産に成功させたケースもあります」

 iPS細胞ヤバっ……なんでもアリじゃん!


「な、なら……絶滅危惧種とかに活用すれば数を増やすことも出来たりするんですか?」

「その通りです。このまま精度を上げて安定性や確実性を満たしていけば動物保護や保安の活用に大いに役立てることが出来るでしょう」

 科学スゲー!


「応用を繰り返した先の技術発展により、人間に対しても雌雄の垣根を壊し性別関係なく子供を誕生させることは意外と遠くありませんし、その未来では人間もある種の無性生殖が科学的に実現されて一人だけで子供を生むことが出来ます。恋愛や妊娠が必要ない世界になっているかもしれませんよ」

 価値観の崩壊がヤバいな……善悪は分からないけど現在の固定概念ではなかなか受け入れ難い内容でもある。


「その中で我々が注目して研究を進めているのは、動物による人体組織の部位や臓器の作製です」

「動物で人間の部位を作るんすか?」

「その通りです。既にiPS細胞を用いた研究は進められています。例えば、ヒトiPS細胞由来の内耳細胞を胎生期マウスの内耳へ移植させて、ヒト由来の正常なタンパク質をモデルマウスの内耳に発現させることが可能になっています」

 マウスで人の耳が出来るのか!?デッカくなっちゃったが今後はマウスで耳が出来ちゃったというギャグになる……?


「それに、ゲノム編集を施した豚の腎臓や心臓弁を人間に移植する手術も成功例があります」

 豚の心臓で人間が生きる……生命活動をする上で必須な心臓――体内でドクンドクンと鼓動しているものが実は人間由来ではなく他生物由来だったなら、事故や病気で移植を余儀なくされる人は確かにより多く救うことも出来るけど生理的抵抗はないのだろうか。


「過去にはインスリン製剤も豚由来で作られていたし豚は万能っすねー」

「その様に、異種移植も含めた再生医療の分野は研究が盛んになっており各国で大量の投資が行われています」

「アツいっすね」

「治療法がなかった病気や欠損などで手遅れの状態の患者へ新たな選択肢を提示出来れば命を救える可能性が増す。こんなに喜ばしいことはないでしょう」

「そうっすね!」

「当然ですが我々も研究を日々続けています。それなりの成果も挙げているんですよ」

「良いことっすね!」


「――その先へ進む為に」

「「??」」


「話が少し複雑になるのですが……ここからは2つのルートに分岐されます」

「「ほう」」


「ルート1は、再生医療の革新により異種移植が飛躍的に進歩して人間を"半永久的に延命"させることです」


「ただの医療で終わらない……ぶっ飛んでるっすねー」

「視力が悪くなれば目を、腕が欠損したら腕を、臓器が駄目になったらその臓器を、心臓なら心臓を、脳なら脳を、遺伝子なら遺伝子を――動物から人体の組織を生成して移植が容易になれば寿命を長期的に延ばすことが可能になります」

「理論上はっすね」


「また、進化したゲノム編集を人間の初期の段階で施せば、遺伝子のテロメア含めた生命活動に関わる部分を組み換えられる。そうなれば人間の設計図をも操作可能です」

「デザイナーベビーっすね!」

「そうです」


「将来的には……強化人間になった人類が動物を使って各部位を復活させる、これが実現すれば半永久的な命の継続が可能ってことっすかね?」

「まさにです」

「アニメや漫画の世界っすねー!ワクワクっす!」

「喜んで頂けてなによりです」

 えっ、盛り上がってるけど普通に怖くない??そこまでして生き延びたい人生って逆に凄いな。


「それで、ルート2はなんすか?」

「ルート2は……"新人類の作製"です」

 はぇ?新人類とはなんでっしゃろ?


「ルート1では人間に移植する前提でヒト由来の適切な幹細胞を動物へ施します。動物の体内で作製された器官や臓器を人間へと戻す為に」

「はい」


「視点を変えるだけです――人間に移植しない前提なら動物はどうなると思いますか?」

「あー、ね?」

 え、なにが起きるの?動物にヒトの……?


「お察しの通りです」

 まだ私が考えてる途中やろがい!


「キメラです」

 おや、デジャブかな?


「2019年には既に実験が開始されており、人間の脳の発達に重要なとある遺伝子を猿の脳へ移植して遺伝子組み換え猿が誕生しています」

「結果はどうなったんすか?」

「猿の記憶力や反応速度が野生の猿より向上したことが確認されています」

「進化してるっすね」

「先程少し話題に挙げましたが、フィクションである猿の惑星が少しだけではありますが現実味を帯びたとは思いませんか?」

「っすね!」

 こわっ……怖い!!


「複数の生物種の細胞を一個体に共存させる――人類は神話上の生物を作製するに至れるのです。その個体が高度な科学でより強化した個体を作製するという新しい子孫を残す形が構築されます」

「有性・無性とか言ってる場合じゃないっすね」

「仮に私たちのような旧人類が淘汰されることになったとしても……新人類たるキメラたちが活動を続ける限り人類の繁栄は終わらない」

「俺たちはやっぱり淘汰されちゃうっすか?」

「される可能性は高いですが、ルート1で生き続ける人類がより叡智に近付ければ対抗策も練れるでしょう」

「人類vsキメラっすね」

 B級の映画にありそう!

「戦争になる可能性もあると思います」

「それでも良いんすか?」

「えぇ、より強い個体が生き残るのが自然の摂理だと歴史が証明しています」

「それすら狙ってないっすか?」

「何故そう思うんです?」

「いや、だって……可能性の拡張が目的っすよね?であれば、今まで通りの人間だろうがキメラだろうが人類という枠に収まっていればなんでも良いと感じたっす!」

「ふふっ、流石は暇さんの助手をやられているだけありますね。その通りです、現人類だけに拘るつもりはありません。人類として自覚して活動する存在であれば良いのです」

「よしっ、当たったっす!」

 嬉しいんだ……


「プラン3で進化したルート1の人類とルート2の人類が相互的に可能性の拡張をそれぞれ発展させていければ、現生人類には到達出来なかった新たな未来へ進んでいけます」

「生存競争を意図的に作り出すって感じっすかね?」

「共存共栄する可能性もありますがどちらにせよ人類の為になる」

 そのまま両陣営とも絶滅ルートって可能性ってある?

「以上がプラン3の説明になります」


「話してくれて感謝っす!」

「あ、ありがとうございます」


「現在はプラン2・プラン3を並行して研究開発を続けています」

「頑張って下さいっす!」

 応援するんだ!マジ……?


「ありがとうございます。因みに、プラン3の感想を聞いても?」


「あぁ、そっか!うーん……人類の発展が全てで人間一個体にはさほど興味なさそうっすね」

「そう聞こえましたか?」

「っすね!人類全体としての進化の為に多少の人間は実験体として犠牲にしても良いって感じたっす!」

「そうですか。火芽さんはどうでしょう?」


「そうですね……どのプランにも言えることかもしれませんが、人類の為の贄としか動物の存在を考えていないのかなって思いました」

「手厳しい感想ですね」

「なんかどうしても世界は人間を中心に回っているようにしか聞こえなくて……間違っていたら本当にすみません」

「いえ、素直な感想ありがとうございます」


「因みに、一つ聞いても良いっすか?」

「もちろんです」


「人類の可能性の拡張が目的だと言ってたっすけど……拡張させてどうしたいんすか?」

「どうしたい、ですか?」

「そうっすね。拡張させた結果――なにを求めてるんすか?」

「霊長類代表として新たな進化と末永き繁栄を望みます」

「分かりました、ありがとうございます!」


 煤木さんの講義のような説明が終わり、私たち三人は暫しの間静寂に包まれた。


「お二人の意見や感想も聞けましたし……私はこれで失礼しようと思います」

 氷の溶け切ったお茶を飲み切った煤木さんが席を立つ。


「面白い話を聞かせてくれてありがとうございました!」

「大したお出迎えを出来ず失礼しました」

「いえ、こちらこそ突然の訪問失礼しました。暇さんにも宜しくお伝え下さい」

 相変わらずの凛とした姿勢のまま玄関まで進む煤木さんへ匁流君が言葉を投げる。


「そう言えばなんすけど、さっきの話を聞いて仁さんがなんて答えたか教えてもらっていいっすか?」

「ふふっ、それは秘密です。それではまたお会いしましょう」


 後ろ髪を引かれんばかりの笑顔で事務所を去った煤木さんに私も匁流君も立ち尽くすしかなかった。謎めく美人ってなんて絵が綺麗なんだ、後ろ髪に惹かれたね!


「おもしれぇ女っすねー」

「そんな締め!?」


 仁さんの答えは聞けぬまま人類の可能性の拡張は今日も明日も続いていく。

次話は2日7:00に投稿予定です。

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