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無解決探偵って需要ありますか?  作者: わゆ
【1章】Hello world
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Hello world 1-0.0.0

"ハロー・ワールド!"


"希望の明日へようこそ!あなたはとうとう辿り着きました。本当におめでとうございます。メディカルチェックでは異常なしと測定されていますが、ご自身の感覚はいかがでしょうか?眠気、倦怠感、手足の痺れ等あれば気軽にお申し付け下さい。回答が無い場合はメッセージの最初へ戻ります"


 誰かの声が、少しずつ少しずつ……近付いてくる。森の中から聞こえてくる遠吠えによってだんだんと包囲されていくように。


「……」

 なにかに全身を隈なく舐め回すように見られているのか、異様な圧迫感に襲われている気がしてならない。それとは別に、周囲から聞こえてくる中性的でフラットな声色が耳から全身を巡りシナプスを介してニューロンが時間を掛けてネットワークを形成しているようでもあった。


「……」

 意識がまだ混濁の渦に囚われているせいか状況処理の取捨選択がままならない。虚無の時間が進むだけ――体を動かそうにも支配権を全て放棄したのではないかと疑うぐらいに言うことを聞かない。


「……」

 不気味なアナウンスにより届けられるメッセージを少しだけ理解出来た時、今更ながらここが真っ暗であることにも気付く。暗闇の空間に閉じ込められている……ここはどこだ――その前に、俺は誰だ……俺は、俺なのか?


「……」

 喋ろうにも声が出ない。口を動かそうにも最初から備え付けられていないような自然な感覚だけが伝わってくる……どういうことだ?


「……」

 冷や汗が背中を伝うような不快感――周囲は暗闇が支配しており、瞼を開けようにもシナプスに拒否でもされているのか、指揮命令がめちゃくちゃだ。本当に体の支配権がないのか?それとも一時的な不具合か?考えても答えはまとまりそうもない。それはそうだろう……如何せん整理する為の情報が不足し過ぎている。俺が俺である証明すら済んでいない。そんな時は手足を触ったり鏡で全身を見れば解決しそうなものだが、普段なら簡単な行為ですらなに一つとして実行に移せない――いや、実行することが出来ないということだけは嫌でも理解出来てしまう。


 なぜ?ナゼ?naze――何故何故何故何故何故why何故なぜ何故为什么何故何故por quéナゼ何故pourquoiなぜなぜナゼ?


 様々な模様を施した疑問符が意識上に浮かんでは消える。ネットワークで形成されたコースをただ走っているだけの営為になんの意味があるのだろうか。ただ、考えないように消しても消しても決して消え去らない謎に打ちひしがれることしか許されていない。一体どうなっているんだ、誰か教えてくれ!


「……」

 あっ……!どうもこうもない、先程から同じメッセージを繰り返しアナウンスしているなにかと意思疎通は出来ないものか!?現在の不自由な状態でどう伝達させるかが問題ではあるが、ずっと鳴り響いているんだ……肉声なのか人工音声なのかはまだ判断付かないが、俺に向けたメッセージを送っている存在がいるはず!であれば、その主がこの状況を監視している可能性は高い……そうでなくては困る。自らこんな不自由を選択するはずもないし、誰かしらの意図によりこの状況が作り出されているに違いない!


「……」

 目も見えない、口も開かない、手足も動かせない――ただ、こうして考えることが出来るということは意識はしっかりとある訳で……考えろ!どうにか相手に伝える方法があるはずだ。第六感でも超能力でもなんでも良い……この状況を打破する為になにが出来る!?……考えろ考えろ!俺はここにいる!真っ暗闇の中でこうして生きているぞ!誰かいないのか?どうせモニター室で快適に過ごしながら俺のことを見ているんだろ!?お前の目的は分からないがまずは話を聞かせてくれ!妥協点を模索しないか?一方的に監禁なんて不公平だろ?自分が嫌なことは相手にもするなって義務教育で習わなかったのか!?


「……」

 クソッ……!返事ぐらいしろよ!発声はしなくてもこちらの主張はどうせ分かっているんだろっ!クソックソッ……!あぁっ、さっきからピーチクパーチクおんなじアナウンスばかりしやがって、うるせぇな!!もう分かったよ、目も口も鼻も手足もなにも言うこと聞かねぇが意識だけはハッキリしているよ!異常なしだ、異常なし!なんなら怒りでどうにかなりそうだ!なにがどうなってやがるんだよ、ホントに……ここから出せよ!出してくれよ、考えろ考えろ考えろ、どうすれば……!


"ご本人様確認が取れました。異常なしとのこと大変喜ばしいです。それでは次のフェーズへ移行します"


 意識の中で叫んでいると謎のアナウンスに変化があった――その内容に意識を傾ける。これは、もしかして……意思が伝わったのか!?それなら嬉しい限りだが相手は人の尊厳を無視して勝手に監禁するような輩だ、油断は出来ない。踊る心をどうにか抑えながら暗闇の中を見渡す。視界に光が差す兆しは依然としてない。クソッ、なにが次のフェーズだ!なにも起きねぇじゃねぇか!束の間の安堵はすぐに崩れ去り焦りへと変わる。意識がハッキリしてからどれぐらいの時間が経過した?5〜10分ぐらいか?その前に今の時刻は?朝か、夜か?……なにも分からない。少しぐらい情報共有してくれよ!!!


 相も変わらず思考することしか出来ない状況に、憤りと苛立ちをグツグツと煮込ませているような気分を味わっている。今まで当たり前だったものが突然失われると、ここまで精神的に不安定になるのか……得難い教訓ではあるが耐え難い苦痛に他ならない。


"お待たせしました。準備が完了しました。最終フェーズの後、希望の明日があなたを迎えてくれます。ご本人様の意思に関わらず自動処理が行われますので予めご了承下さい"


 グツグツと煮込んだ負の感情シチューが出来上がる前に例の声が鳴り響く。最終フェーズ――ということは、もうすぐこの地獄のような監禁から解放されるのか……?不安と期待が混ざり合った感情に今にも押し潰されそうになっていると、徐々に目の前に広がる暗闇の世界に変化が訪れる。プログラミング言語のような英単語や数字記号の羅列が浮かび上がっているのだ、いつ現れたっ!?相変わらず視力は戻っていないはずなのにこの表示だけははっきりと認識出来るのは何故だ……?理解できない現状と今後どうなるのかという不安、もしかしたらこの状態から解放されるんじゃないかという淡い期待、その一喜一憂がグルグルとジェットコースターの如く駆け巡り自分の感情に酔ってしまいそうだ。あぁ、分かったよ……降参する、降参!お前の都合に付き合ってやるから、一刻も早くここから出してくれ……


"最終フェーズ完了。希望の明日までカウントダウン開始"

 5!

「……」

 4!

「……」

 3!

「……」

 2!

「……」

 1!

「……っ!!」


"希望の明日を、どうぞ未来永劫お楽しみ下さい"


 この言葉と共に、全体を覆い尽くしていた文字列ような表示が消え周囲から光が差し込んでくる。体の不自由はそのままだが、なんとかこの場所から解放されそうだと感じて心が少し軽くなる。ようやくか……クソッ、なんの冗談だ。早く俺を解放しろ!誰でもいいから体の拘束をさっさと解いてくれ!


 モニターの電源が入ったような光の表現が少しずつ色鮮やかになり、だんだんと鮮明に表示されていく。FHDがQFHDを経て5億7600万画素の限界を超えた景色が辺り一帯を塗り替える。こ、これは……!?


 本当の意味で目覚めた俺はようやく笑うことが出来たのだろう。今更になって全てを察した結果として――だってそれは、聞いたことのある"誰かの声"にとても良く似ていたから。

投稿初日なので次話も同日7:10に投稿

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