第三の試練
『次なる試練は、わたし、力天使デュナミスが取り仕切ります。これからあなた方には、裁判を行っていただきます。これは、アルカイの疑似治民と対になるもの。二つの試練で、あなた方が民の上に君臨するに相応な存在か否かが、明らかになるでしょう』
オリフィルたちがいたのは、無味乾燥な石造の廊下だった。廊下の両壁に、重厚な、これまた石造の扉が並んでいる。
『……一人ずつ、別の部屋に入っていただきます。部屋の中であなた方は、訴追役、弁護役、そして審判役をそれぞれ異なった事件に対して行っていただきます。道徳の黄金律に従い、あなたの良心のもと役を全うしてください』
「我々が裁判をする、とのことですが、どこの法に従えばよいのですか?法と一口に言えども、国に寄りけりです」
バアル・ゼブルの発言に、他の天使と同様眩く光り輝くデュナミスが答える。
『法ではなく、あなたの良心に従いなさい。そうすれば、おのずから選ばれるべき者とそうでないものは分かたれるでしょう』
デュナミスの謎めいた言葉を背に、挑戦者たちはそれぞれ扉を開いた。
オリフィルは、三つの裁判に出席した。やむを得ない事情で起きた窃盗事件の訴追役、主犯であることが明らかながら無実を主張する凶悪犯の弁護役。そして最後に、天啓を受けたと主張し、信者から財を巻き上げたという事件の審判役。
オリフィルの出身であるブレムミュアエには複雑な司法制度も成文法も存在してはいなかった。彼は幾度か村内で起こった諍いで、誰ともつるまない中立的な存在として仲裁を依頼され、実際にしたことはあった。しかしそれはちょっとした口論がほとんどで、凶悪な事件などは初めて出会うものであった。
それでも彼は、この試練のために作られたのであろう人造人間たちと辛抱強く長時間にわたる協議を続け、どうにか三つの裁判を、三方が納得する結果に運んだ。
オリフィエルが扉を潜り最初の廊下に出ると、他の挑戦者たちはみな既に試練を終えていた。
『これで全員が挑戦を終えましたね。今回は、試練を通過する基準が明かされず、あなた方もみな戸惑ったことかと思います。第三の試練を通過する基準は、あなた方が大いなる存在となるにふさわしい倫理観と平衡感覚、そして交渉力を持っているかどうか、です。それでは、脱落者の皆さま、お疲れさまでした』
ソムリェとつるんでいた赤毛の青年をはじめとして、三十人ほど残っていた挑戦者の二割ほどが消えた。
「まさか俺が残れるだなんて、正直思ってなかった。裁判で、つまらない失敗ばかりしていたというのに。そういえばオリフィル、お前はずいぶん時間がかかっていたな」
「ああ、ついつい完璧な和解を求めてしまった」
「そうかあ、やっぱり……いや、何でもない」