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2.鉱脈


 家令のジェームズが驚いた顔でこちらを振り向いた。


「旦那様、今……なんと?」

「あっ、いや!なんでもないぞ」

「お言葉にはお気を付けください。あらぬ噂が出回ってしまいます」

「すまない。寝ぼけていた」

「お気を付けください」


 自分としたことが反乱などという言葉を簡単に口にしてしまっていたようだ。本気で帝国に反乱を企てるのであれば、自分の一挙手一投足に気を付けなければいけない。気を引き締め直して、いつも通りの服装に袖を通して領主執務室に向かった。

 午前は何十回と見慣れた書類の整理と様々な事項の承認。これは特に問題も不審な点もなく、いたって普通の領内問題を解決していくだけだ。その後はメイドたちが作ってくれた、昼食を食べると午後の仕事に移る。

 午後一番は地元の名士から1~2件の要望を伝えられるが、これはあまりに利益が偏るので却下。執務室で引き続きジェームズと相談していると……


ーーーコンコン


 鉱脈の視察に出かけていた部下が帰還する。


「騎士のタナ―にございます」

「……入れ」

「入ります!!」


 鎧も革で薄く土埃で汚れたタナ―は騎士の様な見た目をしていないが、これでも立派な配下の騎士の一人だ。今回は鉱脈調査に同行し、護衛と秘密の漏洩を監視する役割を与えている。


「どうだ?」

「はい!見つけました……なんと金、それにミスリルとその他上位鉱物です!」


 タナ―はこちらの反応を伺っている。隣にいるジェームズがポーカーフェイスなのはいつもの事だが、自分も表情を変えず反応も薄い事に納得いっていない様子だ。これはもう何十回と聞いている私にとって驚ける要素が無いのだから仕方がない。


「あったか」

「……朗報ではないのでしょうか?」


 余りにこちらの雰囲気が変わらない事に、タナ―は思わず顔色を伺うだけではなく、質問を投げて来た。


「……朗報でもあるんだがな、これは我が領の将来をかなり左右することになる」

「はぁ……でも、領内で見つけた新鉱脈はその領有権者の物では無いのでしょうか?」

「帝国の法律だとな。今聞いただけでも、莫大な利益を産める鉱脈を易々と周りの貴族が私に渡すと思うか?難癖だらけの政治だらけだ」


 事実この新鉱脈のお陰で、何故か私は何十回も死を経験しているのだ。普通の人間のように最初の一回で死ぬことが出来たのなら、何と良い事だろうかと今でも思う。


「そうなのですか」

「すまない、喋りすぎたな。もう下がっていいぞ、調査隊もそのまま帰還させていい」

「え?本格的な採掘調査はしないので?」

「まだ……な」


 これまでだとタナ―に調査隊としての更なる調査を依頼して、本格的な採掘調査を行う。そうすると、3ヶ月で確かに鉱脈がある事を確認できるのだが、それによって自分が死を迎えるのは間違いない。ちなみにこの採掘調査遅らせる行為によって、自分が死亡する11月18日が変わるわけではないので、その時の気分だ。


「旦那様、よしいのですか?」


 疑問符を大量に頭の上に浮かべながら執務室から下がるタナ―を見送ると、隣に立つジェームズがいつもと変わらないポーカーフェイスを浮かべながら聞いて来た。


「理由はタナ―にも言った通りだ。これ以上の調査は火種を産むからな」

「必ずこのことは外に漏れますゆえ、変わらないかと」

「人の口には戸が立てられないからな」

「はい」

「……」


 暫く無言で考え込む私にジェームズは何も言わない。今、自分の頭の中で今まで取って来た全ての選択肢を反芻していた。次に発する言葉によってどう変わるか分からないが、今回初めて意思を明確にして実行するのだ。それによる変化がある事を期待するしかない。


「……ジェームズ」

「はい。旦那様」

「私は……帝国に対して反乱を起こす」

「……承知いたしました」


 再度明確な意思として発した”反乱”という言葉に、ジェームズは少し眉を上げて驚いた表情をしたが、直ぐに元のポーカーフェイスに戻った。主人の言う事は絶対というジェームズにとって、私がどういう選択肢を取って行こうが関係ないのか、それとも違うのか図りかねた。


「ジェームズよ、何故止めない。主人が自分で死に向かって行こうとしているんだぞ?」

「……私も旦那様が赤子の頃から見ている故分かりますが、旦那様のお顔は既に決められた顔です。私が今『お止めください。今の言葉は私の耳にだけ留めます』と言っても、無駄なことは分かります」


 ジェームズは先代の私の父からナック子爵家に仕える男で、最初は使用人から始まり私の家庭教師となり、私の執事兼護衛となり、年老いてからは子爵家の家令として仕えている男だった。彼には昔から私の悪巧みも、良かった事も全てがお見通しで敵わない。


「そうか、では話が早い。今から帝国を打ち倒す為の方策を考えるとしよう」

「承知いたしました」


 幸い私は30を超えたにもかかわらず家族が居なかった。本来私に縁談を持ってくる筈の父を亡くし、子爵領を継いだ後はこの零細子爵家に縁談を持ち込む者はいない。残っているのは付き合いの薄い親戚と、仲の悪い父の弟妹だけだ。

 これ以上に今から反乱を起こそうとする私に好都合なことは無かった。

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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