「いただきます」について考えてみる男子高校生の昼休み
「いただきますっ」
彰吾はきちんと手を合わせて、はきはきとそう言った。昼休みに入った教室の中、雑多な話し声の波にも負けないような声だった。
俺は手だけ合わせた。普段は「いただきます」なんて忘れて食べ始めるタイプの人間だが、机を向かい合わせて弁当を食べる相手がこうもはっきりとそれを言うと、どうにもむずがゆくなって、そのまま食べることができない。だからせめてもの行動として手を合わせる。いつものことだった。
「なあ、今思ったんだけど、『いただきます』って、なんか怖くね」
唐揚げとご飯のみの弁当を見つめながら、彰吾が唐突にそう言った。
「なんだよ急に。お前いつも言ってんじゃん」
「え、思わねえ? だってこれ、命をいただくって意味だろ? 食べられる側からしたら、お命頂戴、みたいなもんじゃん」
お命頂戴が怖いかどうかはさておき。
「まあ、確かに言葉の意味は同じ、かもな」
「だろ? なんか代用の言葉考えてくれよ。お前国語得意じゃん」
「国語が得意なくらいでそんな恐れ多いことできるかっ」
俺はブロッコリーを箸で突き刺して、口に放り込んだ。もさもさとした不快な触感に顔をしかめる。
「敬語が悪さしてると思うんだよな」
彰吾はあくまでもこの話を続けるらしい。
「標準語に直したらどうなる?」と俺に言う。
「『もらうよ』とかじゃね」
適当に直訳してお茶を濁す。
「いいじゃんそれ!」
彰吾は大きな声で言った。俺は唖然として、危うく口を開けるところだった。
何も良いはずがない。この世のあらゆる食材に怒られてしまえ。
「よし、お前と飯食うときはそれでいくわ」
「おいまじでやめろ」
頼むから今まで通りにしてくれ。