⑧記念日<アニバーサリー>
お題は「記念日」
これは、自分で勝手に次に出ると予想していたお題で、すでに頭の中でできていたので書き上げました。
もう6年も経ったんだな。
青空の下、法衣の後ろ姿を見送りながら、ふと思う。
あの日は雨が降りそうな曇り空だった。
「お茶でもしない?」
振り返ると、居間で義姉が手招きしていた。
「お義母さんは?」
一緒にいたはずの義母の姿が見えない。
「2階で寝てくるって」
テーブルには湯気が上がる湯呑2つと饅頭が3つ。
近所の和菓子屋から買ってきたあの人の好物。
「3回忌でも思ったけど、法要ってややこしいわ。なんで、2年目が3回忌で、6年目が7回忌?で、次は12年目の13回忌?」
「そうなりますね。その時も来てくださるでしょ?」
「まあね。母がそれまで元気で法事をするって言えば」
義姉は外資系の商社勤めで、日本にいることの方が珍しい。
今日のために、忙しい中、休みを取って帰国してくれたのだ。
本人は、有給休暇が溜まってたし、いい骨休めだって言ってくれたけど。
「あのさ、ありがと」
急な謝罪に私は首を傾げた。
「なんか、母のこと、任せっぱなしにして。本当なら、私が実家で面倒見るべきなのに」
柄にもない殊勝な態度に思わず笑ってしまった。
「何、言ってるんですか、今更。義姉さんには仕事があるでしょ?それに、面倒見てもらっているのは、むしろ私の方ですよ」
「でも、もう6年よ。弟のことは忘れて…」
「これでいいんです、私は」
黙り込んだ義姉に、私は慌てて付け加えた。
「仕事も充実してるし、料理も随分上達しました。ぶりの照り焼きなんか、お義母さんにも褒められるくらいなんですよ」
ちらりと仏壇に飾られた笑顔に目をやる。
料理が趣味だったあの人の魚料理は絶品だった。
「夕食、楽しみにしてる」
それだけ言うと、義姉は笑った。
義母にも、最近、同じことを言われたっけ。
二人ともわかっていない。
私がどんなにあの人を愛しているか。
伝えるつもりもないけれど。
今日は、あの人のいない静かすぎるこの世界で、私が頑張った6年目の記念日。
さあ、また1年なんとか頑張ることにしようか。
二つ目の現代ドラマ。自信なかったのですが、ほめてくださる方がいて嬉しかったです。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。で、もしよろしければ、リアクションお願いします。