STORIES 019:恋をするには狭すぎる
STORIES 019
ずいぶんむかしの話。
良いとか悪いとかは時効ということで…
平均年齢が若めの職場にいた頃。
仕事の後、みんなで飲みに行くことになった。
青山だか渋谷だか、あの辺でワイワイと。
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お酒も入って、カラオケもみんな絶好調…
気付けば、終電なんてとっくに終わっていた。
するとメンバーの1人、普段からアルコールを飲めない人が、車を出してくれることになった。
全員を送っていくのは無理だけれど、どこか行こうか。
みんな方向がバラバラだったしね。
行き先を相談するうち、その中の1人のマンションに遊びに行くことになった。
ちょっと広めの部屋だということで。
行き先なんてどこでも良くて、まだ帰りたくなかっただけなんだよね。
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それはいいんだけど。
全員は乗れないんじゃない?
このスポーツセダンじゃ。
6人いるし。
「おう、大丈夫だよ。後ろもあるから。」
バカンっとトランクがオープン。
ははは。
乗るわけないじゃんねぇ。
…いや、乗らないって。
無理無理無理!!!
ちょっと…
わっ!
数人がかりで放り込まれる。
勘弁してよ、狭いとこダメなんだってば。
降りようとするけど、酔っているのでうまく抜け出せない。
「じゃ、私も〜❤︎」おひとりさま、追加でダイブ。
いや、これ以上狭くするなって…
青ざめ始めている僕。
そうこうしてるうちにトランクはバタンと閉められ、ワイワイ言いながら本当に走り始める車…
暗くて狭いトランクに大人2人。
かつてない恐怖の始まりだった。
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「あはははは。ホントに走り始めたねぇ。」
ふざけて後ろから抱きつく彼女。
背中に密着する胸の感触。
…それどころではない。
息苦しくて仕方ない。
頼むから静かにしてくれ。
暗闇の中で脂汗が浮き、生唾を飲み込む。
僕は、暗くて狭いところは大の苦手なのだ。
心臓の拍動も早まる。
いつになったらこの恐怖から解放されるんだ。
「なぁに?大丈夫だってば。ほら❤︎」
近づく顔、唇の感触…
この人、だいぶ酔ってるな。
だからさ、それどころじゃないんだって…
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気も狂わんばかりの恐怖にひたすら耐えていると、大きな橋を渡るのがわかった。
まだ、あの辺を過ぎたばかりなのか…
時間よ、早く過ぎ去ってくれ…
どこをどう走ったのかは、後で聞いたのだけれど。
冷や汗に背中も脇もグッショリ濡れる…
永遠に続くかと思われた暗闇と振動。
ようやく抜け出すことができたのは、数十分後。
幸い、吐いたり漏らしたりということもなく、無事に辿り着けたようだった。
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それ以来…
閉じ込められたシーンを思い浮かべるだけで恐怖心に苛まれるようになった。
棺桶で生き埋めなんて、この世で一番の苦痛だ。
想像しただけでも恐ろしすぎる。
閉所恐怖症
それは、とても素敵なあの人に抱きつかれたり、
酔った勢いでキスされたりするくらいでは…
到底消し去ることもできない、重く苦しい感覚。
トランクの中なんて、恋をするには狭すぎる。




