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STORIES 019:恋をするには狭すぎる

作者: 雨崎紫音
掲載日:2024/02/09

STORIES 019

挿絵(By みてみん)



ずいぶんむかしの話。

良いとか悪いとかは時効ということで…


平均年齢が若めの職場にいた頃。


仕事の後、みんなで飲みに行くことになった。

青山だか渋谷だか、あの辺でワイワイと。


.


お酒も入って、カラオケもみんな絶好調…

気付けば、終電なんてとっくに終わっていた。


するとメンバーの1人、普段からアルコールを飲めない人が、車を出してくれることになった。

全員を送っていくのは無理だけれど、どこか行こうか。

みんな方向がバラバラだったしね。


行き先を相談するうち、その中の1人のマンションに遊びに行くことになった。

ちょっと広めの部屋だということで。


行き先なんてどこでも良くて、まだ帰りたくなかっただけなんだよね。


.


それはいいんだけど。


全員は乗れないんじゃない?

このスポーツセダンじゃ。

6人いるし。


「おう、大丈夫だよ。後ろもあるから。」

バカンっとトランクがオープン。


ははは。

乗るわけないじゃんねぇ。


…いや、乗らないって。

無理無理無理!!!


ちょっと…

わっ!


数人がかりで放り込まれる。

勘弁してよ、狭いとこダメなんだってば。


降りようとするけど、酔っているのでうまく抜け出せない。


「じゃ、私も〜❤︎」おひとりさま、追加でダイブ。


いや、これ以上狭くするなって…

青ざめ始めている僕。


そうこうしてるうちにトランクはバタンと閉められ、ワイワイ言いながら本当に走り始める車…


暗くて狭いトランクに大人2人。

かつてない恐怖の始まりだった。


.


「あはははは。ホントに走り始めたねぇ。」


ふざけて後ろから抱きつく彼女。

背中に密着する胸の感触。


…それどころではない。


息苦しくて仕方ない。

頼むから静かにしてくれ。


暗闇の中で脂汗が浮き、生唾を飲み込む。


僕は、暗くて狭いところは大の苦手なのだ。

心臓の拍動も早まる。

いつになったらこの恐怖から解放されるんだ。


「なぁに?大丈夫だってば。ほら❤︎」


近づく顔、唇の感触…

この人、だいぶ酔ってるな。


だからさ、それどころじゃないんだって…


.


気も狂わんばかりの恐怖にひたすら耐えていると、大きな橋を渡るのがわかった。

まだ、あの辺を過ぎたばかりなのか…

時間よ、早く過ぎ去ってくれ…


どこをどう走ったのかは、後で聞いたのだけれど。

冷や汗に背中も脇もグッショリ濡れる…


永遠に続くかと思われた暗闇と振動。

ようやく抜け出すことができたのは、数十分後。


幸い、吐いたり漏らしたりということもなく、無事に辿り着けたようだった。


.


それ以来…


閉じ込められたシーンを思い浮かべるだけで恐怖心に苛まれるようになった。


棺桶で生き埋めなんて、この世で一番の苦痛だ。

想像しただけでも恐ろしすぎる。


閉所恐怖症


それは、とても素敵なあの人に抱きつかれたり、

酔った勢いでキスされたりするくらいでは…

到底消し去ることもできない、重く苦しい感覚。


トランクの中なんて、恋をするには狭すぎる。

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