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5,正体は…

それからは夢のような時間が過ぎた。

会場に戻った時は、なぜか周囲の視線を集めているような気がして緊張したものの、彼とダンスを始めてからはそんなものは気にならなくなった。


その後も最近流行りのスイーツを教えてもらって食べてみたり、音楽に耳を傾けてみたり、珍しい宝石を付けている令嬢を見つけたから、その宝石の原産国について話したり……


彼はとても博識で、話していて楽しかった。

だからこそ、こんな不安もよぎった。


「あの、時間は大丈夫なんですか? 私とばかり一緒に居たら、他の方との時間が無くなってしまうのでは……」


「君は僕と一緒にいるのは嫌かな?」


「いえ、全くそんなことはないです」


むしろここで彼がどこかへ行ってしまったら、かなり絶望を感じる。

おそらく置物になることを覚悟するだろう。


「なら良かった。さっき言った通り、僕、舞踏会あんまり好きじゃないんだよね。ほら、女の人って目の色変えてグイグイ来るからさ、それが苦手で」


と言われて安心したと同時に、なぜかイェレナの顔を思い出してしまった。

私の中でグイグイ系代表がイェレナだからだろう。

……やっぱり押すだけではだめらしい、ということを伝えなければ。


こうしてあっという間に時間は過ぎていき、少しずつ人も減ってきたように感じた。


「私、そろそろ帰ろうと思います」


「そっか、今日は楽しかったよ、ありがとう」


「いえいえ、こちらこそ! あの時助けてもらえなかったら、ずっとビクビクしたまま楽しめずに、この数時間を過ごすところでした」


「役に立てて何よりだよ。また会おうね、マリー」


彼は私の髪を一房掬い取ってキスを落とし、そのまま去って行った。

本当に小さい頃に読んだ絵本の王子様のような人だ。

見た目も……言動も。


そんなことを考えてボケっと立っていると、私の方に誰かがツカツカと近づいてくる。


「マリー! 行くわよ!!」


彼女は少し強引に私の手をつかみ、急いで会場を出ようとしている。


「イェレナ! どうしたの? そんなに急いで……ってまだニコラス様、会場にいるじゃない。一緒に居なくていいの? いくら私でも、家に帰るくらい一人でできるから……」


イェレナが来た方向を見やると、まだニコラス様は会場に残ってドリンクを楽しんでいるようだった。

そんな彼女の想い人は、なぜか私達の方……いや、イェレナの方を見ている。


「見て! ニコラス様、貴方の方を見ているわよ!」


「ちょっと、後ろなんて見ていないで急いで頂戴!」


鬼気迫る表情で言われた私は、理由はよくわからなかったが、急いで彼女の後をついていく。

そのまま二人で会場の扉から飛び出し、乗合馬車の乗り場まで早歩きで進み、馬車に乗り込んだところで、彼女はやっとつかんでいた私の手を離した。


「どうしたの、イェレナ? あっ、もしかしてニコラス様と何かあったの?」


私の問いかけに、イェレナは深くため息をつく。


「何も気が付いていないのね……まぁ、それがあなたの良いところなのだけれど」


「どういうこと?」


「マリーが今日ずっと一緒にいた相手の名前、知っているかしら?」


そういえば……私は彼に名乗ったけれど、彼からは名乗られていない。

また会おうね、なんて言われたけれど……これでは会うことなどできないではないか!




「あの人の名前は、フレドリック・ウィンベリー、この国の第二王子よ」


「……え、ええー!!」


私の悲鳴に馬車の中の人が一斉にこちらを振り返る。

すみません、と頭を下げてから、もう一度イェレナに確認を取る。


「その、本当なの?」


「そうよ、あの黒髪は第一王子のディーン様とそっくりじゃない。今日は、いつもあまり舞踏会には顔を出さないフレドリック様が来るって、話題になっていたのよ。そして、来たかと思えば見たことのない令嬢……マリーのことね、と一緒にいるってわけ」


「……な、なるほど……?」


「分かってないわね! フレドリック様は、令嬢達からとても人気が高いけれど……女性が苦手なことで有名な方なの。もし彼と別れた後、会場を出なかったら、今頃質問攻めにあっているか、嫌味をぶつけられているかしていたと思うわ」


「……!」


確かに……令嬢たちは、憧れの王子様が、ぽっと出のよくわからないやつと親しげにしていたら……きっと私の存在が気に入らないと思うだろう。


「イェレナ、それでニコラス様を置いてまで私の方へ来てくれたのね……ありがとう、そして邪魔してしまってごめんなさい」


「いいのよ、もう既にたくさんアピールした後だったから……今日もなびいてくれなかったけれどね!」


そう言って頬を膨らませるイェレナはいつも通りだ。

イェレナの気遣いがなかったら今頃……これは考えないでおこう。



だがしかし……私は更に恐ろしいことに気が付いた。


「どうしよう! 私、王子だと知らないで、とてもフランクな態度で接してしまったわ!!」


「でも、マリーとフレドリック様、なんだか仲がよさそうだったじゃない。きっと平気よ」


「そうかしら……」


これで、不敬罪で一家が潰れてしまったら、父や母、それに子爵家を建てた祖父にも顔が立たない。


「大丈夫よ! 私には、王子様ったらあなたに気があるように見えたけど?」


「ちょっとなにを言っているのイェレナ! 不敬罪で捕まるわよ!」


「ないない」


そう言って彼女が笑うものだから、なんだかどうにかなるような気がしたのだった。


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