4,中庭のワルツ
「すごい……これはこの国の植物ではないですよね? 珍しい花がたくさん……!」
右手に見える茂みから生えている花は、確か南西の方の国の花だったはず。
それに奥に見える白い花は、絶滅にひんしているとどこかの本に書いてあった。
こんなに珍しい花がたくさんあるなんて、さすが王宮の庭だ。
そんな私に、彼は少し驚いたような顔をしている。
「よく知っているね」
「昔から本を読むことと勉強をすることは好きなので」
普通の令嬢なら、きっと流行を追いかけたり、ファッションに気を使ったり、噂話に興じたりする時間を、私はずっと本を読んだり勉強したりする時間にあててきた。
「そうなんだ」
「令嬢らしくないって思いました?」
「思ったけど……僕、令嬢らしい令嬢苦手だから。君みたいな人の方が一緒に居て楽しい」
「……私も、なんだか貴方といるとなんだか居心地がいいです」
「光栄だよ。それにしても君とまた会えるなんて思っていなかった……本当にあの時は助けてくれてありがとう、改めてお礼を言わせて」
私たちはガゼボに置いてある椅子に座る。
「あのくらい当たり前のことです! 私も転びかけたところを助けてもらったのでおあいこということで」
その後に起きたハプニングまで思い出してしまいそうになった私は、急いで別の話題に切り替える。
「貴方が貴族だったなんて驚きました……あ、失礼になりますよねすみません、でも路地裏にいたから……まさか貴族だとは思わなくて」
「失礼なんて思わなくていいよ、本当にその通りだから。実を言えば僕も、君のことはどこかの富豪の娘なのかなと思っていたんだ。知り合いに顔が広い人がいるから、君の特徴を伝えて、知っていないかどうか聞いてみたんだけど、知らないって言われたからさ」
「私、こういった舞踏会にもお茶会とかにも全く顔を出していないので……」
「だからあの人も知らなかったのか……『こげ茶の髪に緑色の目』の令嬢は何人か見つかったけど、全部君じゃなかったからがっかりしていたんだ。また会えてうれしい」
『会えてうれしい』なんて言われて、私も心が温かくなった。
「私もまた会えてうれしいです!」
「……名前を聞いてもいいかな?」
そういえば名乗ってすらいなかった。
舞踏会では挨拶をするときに名乗るというのがマナーだと本に書いてあったのに、すっかり忘れてしまっていた!
「私はマリー・ガードナーと申します」
その場で立ち上がり、ドレスの裾を持ってお辞儀をする。
この動きだけは舞踏会に来る前にイェレナとさんざん練習したから……完璧なはず……
それでも不安になってそっと彼の方を見ると、にこりと笑って私に向かって手を差し出すところだった。
「とても綺麗なカーテシーだね。じゃあマリー、ここで僕と一曲踊ってくれるかい?」
ここは中庭。
会場からワルツの音楽が聞こえてくるものの、周りには人はいない。
それなら……私もダンスに挑戦してみてもいいかも?
それに、彼ならミスをしてもきっと笑って許してくれる……はず。
「私、下手ですよ?」
「上手い下手は関係なく、僕は君と踊りたいんだ」
月の光を背に笑いかける彼は、まるで物語の王子様のようだ。
「よろしくお願いします」
私がそういった瞬間、彼は私の手を引っ張ってステップを踏み始める。
最初はミスをしないように一生懸命だったけれど、彼がとてもダンスが上手なおかげで、私も流れに合わせるだけで踊れることに気が付いた。
そこからは余裕を持って楽しめるようになってくる。
私が回るたびに、しっとりとした花の匂いが私を包むようだ。
そして彼に近づくたびに、なんだか安心するような香りがする。
「この後、会場でも踊らない? こんなに楽しく踊れているんだから、きっと会場でも平気だよ」
「確かに……?」
彼と一緒にここで踊ったおかげで、なんだか自信がついてきたような気がする。
……もしかして彼はこのために私と一緒に踊ってくれたのだろうか?
私が、舞踏会になじめずにいるから……
「私のために練習に付き合ってくれたんですね、ありがとうございます。今なら、あの会場でも踊れそうです!」
「……そういうわけでもないんだけど、まぁそれならそれでいっか」
「……?」
彼はなにか小声で呟いていたが、よく聞き取れなかった。
私が不思議そうな顔をしたからか、彼は首を振る。
「ううん、気にしないで」
彼は私の手をつかみ、私たちは会場へと歩き出した。
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