3,再会
「わぁ……」
舞踏会の会場に足を踏み入れた私は、その豪華絢爛さに思わず言葉を失う。
「さすが1年の中でも一番大きな舞踏会ね、あぁ、ニックは2年も前からこれに参加していたなんて……一体どれだけの令嬢からのアプローチを受けていたのかしら」
私はイェレナと、家の近くの乗合馬車の乗り場で待ち合わせをして、王宮までやってきた。
私たちはお金には困ってはいないものの、自分の家の馬車があるほど身分が高いわけではない。
王宮の外に止まっている、おそらく格式ある家々のきらびやかな馬車を見た時は、私は場違いなのではないかと不安になったが、いざ会場に着いてみれば本当にいろんな人がいてホッとした。
私と同じように人見知りをして壁のそばに突っ立っている人もいれば、異性に積極的なアプローチをかけている人もいるし、熱心にオーケストラを眺めている人もいれば、ひたすらスイーツを食べ続けている人いる……
「はっ! あれはニックだわ! 見て頂戴、令嬢3人に囲まれているわ!! 早く私も行かなきゃ」
言うが早いか、イェレナは淑女らしからぬスピードで舞踏会会場の人ごみの中へと消えていった。
そんな……私はイェレナ以外にあまり仲の良い友人はいないから、今日は彼女に引っ付いていこうと思っていたのに!
だがしかし、もう彼女の姿は見えない。
私は洋服棚の奥から出してきた薄緑のドレスをぎゅっと握りしめる。
かくなる上は……逃げるしかない!!
私は近くにあったバルコニーへ一直線に歩く。
だがしかし、たどり着く前に話しかけられてしまった。
「こんにちは、私と一緒に一曲いかがですか?」
視線をあげるとそこには、明らかに貴族らしい雰囲気を纏った男性がいた。
なぜ私が声をかけられたのかはよくわからないけれど……困ったことになった。
だって……私はダンスをうまく踊れる自信がないし……それにこういった舞踏会の場はほぼ初めてと言っても過言ではないので、礼儀やマナーがなっていない可能性も大いにある。
だから今日初めて出会った人と一緒に過ごすのは、かなりハードルが高いのだ。
でも……ここで私の方から断るのは迷惑に当たるのかしら?
でもでも……後で迷惑をかけるより、今断った方がましかしら?
数秒の間に一通りの可能性を考えた後、私は誘いを断ろうと決意した。
「すみません、約束があるので……」
勿論、そんな約束などないが。
「少しだけでいいので、ね、一緒に行きましょう」
断ったはずなのに……!?
なぜかその人は勝手に私の手を取って、ダンスフロアの方へと向かおうとする。
上手くダンスを踊れなかったらどうしよう……それになんだか強引すぎて怖い……
無理やり連れて行かれそうになっていたその時、目の前の男性のものではない声が横から聞こえてきた。
「すみません、彼女は僕と先約があるんです」
その人は私の肩を持って、そっと自分の方へ引き寄せる。
私、友人と呼べる人は少ないし……それにましてや異性の友人なんていなかったはずだけれど……!?
若干パニックになりながらおそるおそるその人の方を見ると、そこには見覚えのある顔があった。
「あ、あなたはこの間の……フードの方!」
「覚えていてくれたようで何よりです」
一瞬この国の王子であるディーン様に見えたが、同じような黒髪でも彼は目の色が違う。
ディーン様は青色、彼は紫色だ。
私は少しでも知っている人に出会えたことでほっとする。
「そうだったんですね、失礼いたしました!」
私のことを誘ってくれた男性は逃げるように去っていった。
もしかしてフードの彼は、かなり身分が高い人なのかもしれない。
あと……
「誘ってくれてありがとうございます、ってあの方に言った方がよかったかしら?」
怖かったけれど、誘ってくれたことに対してはお礼を言うのが礼儀だろうか?
私のその言葉に、隣にいた彼はプッと噴き出した。
「君は本当に面白い人だ」
「……もしかしてからかわれていますか?」
「いや、いい意味で、だよ。そのままでいてほしい」
そう言いながら、彼は私をバルコニーの方へ連れて行ってくれた。
「私がここに来たかったのを知っていたんですか?」
「あぁ、さっき君がダンスに誘われる前、バルコニーに一直線に向かっているのをみていたから」
私は恥ずかしいところを見られていたようだ。
「……あまり舞踏会には慣れていないもので……それに一緒に来た友人もよそへ行ってしまったし……」
「それなら僕と回る?」
「え……」
そんな誘いを受けるなんて考えてもいなかったので、思いがけない事態に戸惑ってしまう。
でも……なんだか彼となら悪くないかもと思ってしまう自分もいた。
「舞踏会の雰囲気が苦手なら、中庭でのんびりするのはどうかな? 実を言えば僕もあまりこういった場は好きではなくて……」
そう言いながら恥ずかしそうに頭をかく彼。
やはり、この人とは波長が合う気がすると思ったのは気のせいではないみたい。
「ぜひ一緒に行きたいです!」
「良かった、それなら行こうか」
にっこり微笑む彼の横顔になぜかドキッとしながら、私は差し伸べられた手を取った。




