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2,凱旋パレード

本当は私一人だとばれてしまったらどうしよう。

そんな不安で足は震えていたが、恐喝をしていた男たちは慌てて路地のもっと奥へと逃げていった。


……よかった……引っかかってくれて。

私はまだ震えている足を何とか動かして、フードを被った男の人の方へと向かう。


「大丈夫ですか? 助けに来るのが遅くなってしまいすみません」


「いえ、助かりました。本当にありがとうございます、手を掛けていいものか考えていたら、あんなことになってしまって……」


フードから覗く男の人の顔はなんだかどこかでみたことがあるような気がした。

私が疑問に思ってしげしげと見ていると、彼は慌てたように顔を背ける。


「すみません、不躾にじろじろ見つめて。なんだかどこかで見たことがあるような顔のような気がしてしまって……はは、気のせいですよね」


「……はい、気のせいだと思いますよ」


……さっき露店で遠目に見た、絵画の中の人の黒髪と似ているだけか。

彼の反応には少し違和感があったものの、私は自分で納得した。

そして、急がなくてはならないことを思い出した。


「そうだった! 私、友人を待たせているんです。またどこかで会いましょう」


そう言いながら、私は彼に背を向けて走り出した。

しかし、急ぎ過ぎたせいで石畳の段差につまずいてしまう。


独特の浮遊感と共に、上半身が前向きに倒れていき、私は来たる衝撃に耐えるべく目を瞑った


………が、私の体はふわりと、誰かによって引き戻された。


「大丈夫ですか?」


私を後ろから抱きしめるような形で、フードの彼が助けてくれたのだ。


「はい、おかげで助かりました。ありがとうございます!」


「僕も助けてもらったので」


「……」


「……」





「あの、どうしたんですか……?」


なぜか彼は私を抱きしめ続けている。

そっと彼の方へ顔を向けると、フードから見える顔はじわじわ赤くなったように見えた。


「あ……すみません! 自分でもよくわからないうちに……って言い訳になりませんよね」


突然パッと腕を離し、私に頭を下げる。


「少し驚いただけなので……そんなに焦らなくても」


私はといえば、さっき助けてくれた時とは打って変わり、顔を赤くして慌てふためいている彼のことが、なんだか可愛く見えてしまっていた。

……それに、抱きしめられるのも別に……嫌じゃなかったかも?

いやいや、何を考えているのかしら、私ったら!


「あ、そ、そうだ! 私、行かなきゃだわ」


「そうでしたね、本当は大通りまで付き添いたいところなのですが……あいにく僕も急いでいて。気を付けてくださいね」


「ありがとうございます」


私は「嫌じゃなかったかも」なんて考えてしまった自分に恥ずかしくなり、振り返ることなく路地裏を後にしたのだった。


◇◇◇


「来た来た、良かった間に合って!」


イェレナを探していると、後ろから声をかけられた。

噴水広場の木の下から、私の方へ駆け寄ってくるイェレナの姿に、私はほっとする。


「心配かけてごめんなさい」


「いいのよ……今に始まったことじゃないもの」


「うっ……」


「っていうのは冗談よ。マリーのことだから何か意味のあることだったんでしょう?」


やっぱりイェレナは心が広い。


「えぇ、意味はあったと思うわ……そういえば、パレードはまだ始まっていないのかしら?」


「そうなのよ、トラブルで一時間延期になっているらしいわ。さっき王宮の官吏の人が知らせにきてくれたの」


「そうだったのね……でも、おかげで間に合ったわ」


一時間延期になったと言えど、街の熱気はそんなことでは冷めないようだ。

噴水広場の近くは、パレードを見ようとしている人でごった返している。


「そうね、でも……もうパレードが通る道の近くは埋まってしまっているから、うーん……あの辺で待っていましょうか」


イェレナが指さした先は、パレードが通る道からは離れているものの、高台になっているところだった。

確かにあそこならギリギリ見えそうだし、まだ人が少ない。


「そうしましょう」


私たちはその高台へ移動してパレードがやってくるのを待つ。

その間、私はイェレナの恋バナを聞いていた。


「それで、今月の手紙の返事も『申し訳ないけど、君の気持ちには答えられない』だったのよ!!」


彼女は例の人に惚れてから、毎月欠かさずに告白の手紙を送っているらしい。


「なるほどね……私この前イェレナに、押してダメなら引いてみろって言ったと思うのだけれど……」


私自身、恋愛経験は皆無だが、それでも彼女がグイグイ行き過ぎなのはわかる。


「やってみようとはしたわ! でもニックに対しては、そんなことできないのよ」


「ほんと、彼のこと大好きね」


でも、毎月律儀に手紙の返事を書いてくれるところを見れば、全くの脈なしではないような気がする。

それにイェレナが彼のことを「ニック」と愛称で呼ぶのも許しているようだし……?


まぁ、私は恋愛とかしたことがないしよくわからないので、本からの知識しかないが。


「向こうの方から歓声が聞こえてきたわ! きっと王子様達と聖女様がいらっしゃったのよ!!」


確かに遠くの方からガヤガヤとした声が聞こえてくる。

そしてそのざわめきはだんだんとこちらに近づいてきた。


「聖女様―――!!」


「キャー! ディーン王子よ!」


「フレドリック様!! キャッ、こっちを見たわ!」


「魔王を倒してくださりありがとうございます!!」


そして王子達と聖女を乗せた馬車がようやく少し見えてきた。


「ほら、あれを見て! あの方がディーン様……この国の第一王子よ。そして、そう、その隣で微笑んでいらっしゃるのは聖女カトレア様、かの有名なハリス公爵家の令嬢。で、あとは第二王子のフレドリック様なんだけど……うーん、反対側に座っていらっしゃるみたいね……ここからは見えないわ」


きょとんとしている私に対して、イェレナは細かく説明をしてくれた。

どの人も名前と功績しか知らなかったが、実際に見てみると本当に高貴な人なのだなということがよくわかる。

雰囲気からしてもう私とは違うようだ。


でも……?


「私、なんだかあの王子様、見覚えがある気がするわ」


「まさか!? ちょっとその話詳しく聞きたいのだけれど!」


丁度私達が陣取っている高台から一番近い道を、馬車が通り過ぎていった時、私はこの既視感の正体に気が付いた。


「そうだ、今日恐喝されかけていた人によく似ているんだわ……あの真っ黒な髪」


聖女カトレア様と仲良さそうに笑いあっているディーン王子の黒髪は、さっきの人と同じ色に見える。


「恐喝ですって? まさか王子ともあろう人が、わざわざ城下町まで来て恐喝なんてされているわけないから、人違いだと思うけれど……その人、大丈夫だったの?」


確かに王子がふらふら路地裏まで来て恐喝されているなんてことはないか。


「大丈夫だったわ。私が『騎士団の方―!』って叫んでみたら、あっという間に逃げてしまったもの」


「じゃあ、私に先に行ってと言ったのは、その人を助ける為だったってことなの? それなら教えてくれれば、私も一緒に助けに行ったのに……まぁでも、マリーもその人も無事で何よりだわ」


イェレナがちょっと怒ったような顔で話すのは、きっと私のことを心配してのことだろう。


「ごめんなさい、次からはちゃんと言うわ」


「そうしてくれると嬉しいわ……私に言わなかったのは、私がこのパレードを楽しみにしていることを思ってのことよね。ありがとう」


「……えぇ」


そんなことを話している間にもパレードは通り過ぎ、集まってきていた人たちは家に帰ったり、酒場へかけ込んだり、露店へ買い物に行ったりと、段々と散り散りになっていく。


「じゃあそろそろ帰りましょうか、ディーン王子とカトレア様のお顔も見れたことだし」


イェレナの言葉にうなずいた私は、路地裏で出会った人が王子と少し似ていたことなんてすっかり忘れていた。


……そう、1か月後の舞踏会で、まさか彼と再会することになるなんて夢にも思っていなかったのだ。

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