16,初めてを2人で
「……フレッド?」
彼は急いで隣まで歩いて来て、私の方へ伸ばされたままの令嬢の手を払いのけた。
彼女はようやく声を荒げている人物がフレッドであることを認識したのか、身体を震わせる。
「出てくるのが遅くなってごめん……兄上とカトレアから様子を見守るようにって言われて、止められてしまって」
彼の言葉に、皆でもう一度ドアの方を見ると、確かにディーン王子とカトレア様が、廊下から部屋の中の様子を覗いているのが見えた。
私達の視線を集めたことで、彼らも部屋の中へ入ってくる。
……なぜかニコニコと笑いながら。
突然の大御所たちの登場に、令嬢達はとんでもなく慌てふためいている。
だが、ディーン王子とカトレア様はそんなことは気にせずに、まっすぐに私達の方まで歩いてきた。
そしてカトレア様は、
「さすがフレドリックが惚れただけあるわ、面白い子ね。私この子好き!」
と言って私の手をぎゅっと握り、ディーン様も、
「なかなか芯のある子でいいな、これなら人間不信ぎみの弟も任せられる」
なんて言ってカトレア様の後ろで頷いている。
「この二人が、マリーがどういう対応をするか見たいって言って、僕がマリーのところへ行こうとするのを止めたんだ。本当はほぼ最初から部屋の外にいたのに……本当にごめん」
「何よ、私たちのせいみたいじゃない。私たちはただ、第二王子の相手としてどんな人なのかを見定めたかっただけよ……でも、そうね、怖い気持ちにさせてしまったのは申し訳なかったわ」
「確かに、もう少し違う場面を使って見極めても良かったかもな……すまない」
「い、いえ! 私なら大丈夫です!」
彼らが静かに頭を下げ、私が頭をあげてもらおうと必死になっているうちに、周りの令嬢達は自分たちの置かれている状況に気が付いたのか、逃げるようにして部屋を去って行った。
「頭をあげてください。皆さんが来てくれたおかげで、私、助かったので。それに、彼女たちに言いたいことも言えて満足なので」
私がそう言うと、カトレア様はハッとした顔をした。
「そうだったわ、私ったら邪魔しちゃってごめんなさいね、後は若いお二人でどうぞ!」
「え、ちょっと待ってカトレア」
フレッドの困ったような声も無視して、彼女はディーン王子の腕を引っ張る。
「マリー嬢、これからよろしくな」
カトレア様に引き摺られながらも、最後にディーン様はそう言い残して、部屋から二人で出ていった。
「お若い二人でどうぞって……」
お若いと言ったってカトレア様達も私とそう年齢は変わらないのではないか? とは思ったが、そんな疑問よりも、恥ずかしさが勝つ。
だってそんな言い方では、私とフレッドがまるで恋仲みたいではないか。
まだ、彼に思いを伝えてすらいないのに……ってあれ?
……そういえば私、令嬢たちに反論する時、フレッドのことが好きって言っていたような?
そしてフレッドは、最初から様子を見ていたと話していたから……
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
しばらくして、彼は沈黙を破った。
「ねぇ、マリー? その、さっき言っていたことは、本当……?」
「本当? っていうのは……」
「僕のことが好き、っていう気持ちがあるって、言っていたのは」
やっぱり私は「フレッドのことが好き」と言っていたらしい。
そして、彼もそれを聞いていて……
そう考えた途端、私の顔に熱が集まるのがわかった。
そっと目だけを動かして彼の顔を見ると、彼はそんな私の様子に驚いたような顔をしている。
ここまで来たなら、ちゃんと本人に向かって言うしかない。
私はフレッドの方へ顔を向け、私の答えを返した。
「最初は居心地がいいなって思っていただけだったはずなのに……いつのまにか好きになってしまってたみたい」
言い切った!
その達成感からか、自然と笑みがこぼれたのがわかる。
一方で彼は、大きなため息をつき、へなへなと近くのソファーへ腰を掛けた。
片手で顔を覆っていたが、彼の顔もまた真っ赤になっているのが手の隙間から見える。
「僕、ずっとマリーには意識してもらえていないと思っていたから……本当にうれしい」
「多分、ずっと気持ちとしては心の中にあったんだわ。気が付くことができなかっただけで」
こういう風に心臓が音を立てるのは、何も今に始まったことでは無い。
私は彼の隣に座り、横から彼の顔を覗き込んだ
「ねぇ、フレッドも……同じ気持ちなのよね?」
ここまで来て違ったら、きっと今度は私が人間不信になってしまう。
でもそんな不安は一瞬で吹き飛んだ。
彼が私のことを抱きしめてくれたからだ。
「僕もマリーのことが好きだ。見た目でも王子の肩書きでもなくて僕自身を見てくれるところが好き。努力家で、博識なところが好き。人の為なら危険をかえりみずに体が動くところが好き。それに、
「待って、もういっぱいだから!」
そんなに言われたら私が耐えられない!
そう思って、思わず彼の口を手で塞ぐ。
そんな私の様子に彼は少し笑った後、何をおもったのか、私の手のひらにキスをした。
「……!?」
「驚いた?」
「……やっぱりフレッド、こういうことに慣れてるでしょう?」
「そんなことないよ、マリーが初めて……全部。ドレスを送ったのだって初めてだよ、すごく似合ってる」
それはそれは穏やかに微笑んで言うものだから、その言葉はストンと私の心に落ちてきた。
「ありがとう……私も、色々な事が初めて」
そして、きっとこれからたくさん初めてを、彼と一緒に経験出来る。
そんな気がした。
「じゃあ、今から初めてすること、してもいい?」
「……どうぞ」
彼の顔が私の方へ近づいてくる。
そして私は、そっと目を閉じたのだった。
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