14,嫉妬
一人、また一人と乗客は乗合馬車から降りていった。
皆、目的地に着いた時にはかなり時間が迫っていたようで、駆け足で去っていく。
私達も乗合馬車の中で、会場に着くのを今か今かと待ち構えていた。
今も、突然目の前に現れたどこかの家の馬車が、私達が乗る馬車を牽制するように前に居続けるせいで、思うようにスピードが出せていないようだ。
これには流石の運転手もため息をついたのが聞こえてくる。
「ねぇ、もしかしてこれって私達に対する嫌がらせだったりするのかしら?」
ふと浮かんだ疑問を口に出す。
この馬車には他の乗客も乗っているが、何故かそんな気がしてならなかった。
イェレナは私よりもっと確信をもっているようだ。
「十中八九、フレドリック王子の事が好きな令嬢のしわざでしょうね」
「どうしてこんなことをするのかしら?」
「嫉妬に違いないわ」
「嫉妬……」
嫉妬という気持ちはこの前私も知ったばかりだ。
でも……その感情をこうして私にぶつけるだけなんて、むなしくないのだろか?
もっと他のことにその熱意を向ければいいのに……
そんなことを考えていると、突然馬車が止まった。
もうすぐ会場に着きそうなのに、何があったのだろうと前方を見てみると、先ほど私達を牽制していた馬車が、他の馬車と一緒に会場へと続く道を封鎖している。
会場はこの一本道を上った丘の上にあるので、迂回して向かうこともできない。
運転手が困ったような顔をしてこちらを見たので、私たちは急いで立ち上がった。
「ここで大丈夫です、ありがとうございます」
「すみません、ここまで運転してくださりありがとうございました」
迷惑をかけてしまったので、通常よりも多めに料金を支払い、そそくさと馬車を降りた。
乗合馬車は方向転換をした後、来た道を戻っていき、道をふさいでいた数台の馬車はそのまま丘の上へと昇って行った。
「……あからさまね」
イェレナがあきれた顔で呟いた。
「ごめんなさい、私と一緒に来たばかりに、イェレナも巻き込むことになってしまって」
「いいのよ、私が今日ここにきた一番大きな目的は、マリーを見守ることだから」
さっき言ったでしょう? と私に笑うイェレナのおかげで、私もすこし気分が明るくなった。
「それじゃあ登りましょうか。もう舞踏会は始まってしまっているとは思うけれど……できるだけ早く行くに越したことはないわ」
イェレナが歩き出したのをみて、私もそれに続く。
会場までの道は上り坂だったので、建物の入り口に着くころには、私たちは二人とも肩で息をしていた。
「ふぅ……ここの門の前では、特に何も無いみたいね。急いで入りましょう、いつ妨害されるかわかったものじゃないわ」
「そうね、また邪魔される前にフレッドのところへ行かなきゃ」
だって伝えたいことがあるから。
ヒソヒソ話している私達の姿を、衛兵たちは怪訝な目で見ていたが、招待状を見せるとすぐに門を通してくれた。
そのまま庭を突き進み、案内に従って建物に入り、無事に大広間まで着く。
「意外と何もなかったわね」
「そうね……でも、安心するのはまだ早いかもしれないわ」
それでも、私たちはお互いの顔を見合わせて、ほっとした笑みを浮かべ合う。
そして……舞踏会の開催場所である大広間の中へ足を踏み入れた。
眩しいシャンデリアの光に、色とりどりのドレス。
鼻をかすめるいい匂いに、人々の笑い合う声。
舞踏会の会場はいい感じに盛り上がっており、ダンスフロアではもうたくさんの人が踊っている。
「始まってから、既にそこそこ時間が経っているみたいね。さぁ、早くフレドリック様を探しましょ」
私は、彼はどこにいるだろうと会場内を見渡した。
式辞を述べたということは、きっとその後令嬢達に囲まれているに違いない。
人だかりの中に埋もれていないかどうか、イェレナと一緒に会場を回ったが、彼の姿は無かった。
一瞬ダンスフロアで、ホワイトブロンドの綺麗な髪を持つ美しい令嬢と踊っている黒髪の男性を見て、彼かと勘違いしたものの、よく見てみればその瞳は青、第一王子のディーン様の方だった。
それにお相手は聖女カトレア様。
変な勘違いをして、勝手に落ち込みそうになった私自身に驚いた。
嫉妬とは辛いものだ。
でも……私はその嫉妬の力で自分自身を鼓舞してきた。
だから、今日はフレッドにそんな私を見てもらいたいと、そう思ってしまう。
「見つからないわね……彼がどこにいるか心当たりはないの?」
「うーん……」
もし彼が、令嬢達から逃げきれたとすれば何処へ行くだろうか?
「中庭とか、バルコニーにいるかもしれないわ」
私が返事をすると、イェレナはなるほど、というふうに頷いた。
「確かにこれだけ探してもいないなら、そういった所にいる可能性もあるわね」
「探しに行ってもいいかしら?」
「勿論! フレドリック様が見つかるまで私も一緒に探すわ……あぁ安心して、見つけたらさっさと退散するから」
「もう、イェレナったら、
しかし、私がその先の言葉を言うことは無かった。
「あら、ご機嫌よう」
何故なら、10人はいるであろう令嬢軍団が私達に話しかけてきたからだ。
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