13,曇り空
あの日から1か月、私はフレッドに振り向いてもらえるように、見合う令嬢になれるように、自分に出来る精一杯の努力を重ねた。
今まではあまり興味がなかった舞踏会の作法についての本を読み漁り、正しいマナーや礼儀を身につけた。
イェレナからは、本を読んでばかりでは身につかないものもあると言われたので、最近の流行やファッションのレクチャーを受けた。
美容にも気を使って、メイドのみんなと一緒に肌や髪の手入れは欠かさずに続けたし、苦手だったダンスも、母と父に手伝ってもらいながら練習をした。
両親は私が本気なのを見て、
「やっとその気になったのね。もう、マリーったら!」
「もう少し先でもいいんだぞ?」
なんて、茶化したり、引き止めたり、各々勝手なことを言っていた。
でも、両親は全力で応援してくれた。
そして、フレッドにも来月の舞踏会に参加することを伝えた。
彼はかなり驚いていたが、
「マリーが参加するなら、僕もその舞踏会、出席することにするよ」
と言ってくれたので一安心だ。
今日は舞踏会の当日。
部屋でこの1ヶ月のことを思い出していたら、メイドが部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
私は急いで椅子から立ち上がり、ドアを開ける。
「あら、返事を下されば、私が自分で部屋に入りましたのに」
「どうも落ち着かなくて……はは、今更何をって感じよね」
「マリー様、最近頑張っていましたもの。今日緊張するのは当然のことです」
メイドは私に座るように促すと、洋服棚の中から新しいドレスのセットを出した。
「それにしても、素敵な色合いのドレスですね。流石、フレドリック様はマリー様のことをよくわかっていらっしゃいます!」
彼女は私にコルセットを付けながら、うっとりとしたように言う。
一時期、母が紅茶をかけたとか何とか言って、薄緑のドレスが無くなっていたことがあったが、どうやらフレッドが私のドレスのサイズを知るために持ち出していたらしい。
今回の新しいドレスは、フレッドが私に送ってきてくれたのだ。
確かに送られてきたドレスはとても可愛い。
でも、私は地味な茶髪に黄緑色の目。
私には、目と同じ色のドレスしか似合わないような気がするけれど……
「私に似合うかしら……?」
思わず心の声を口にすると、メイドは力強く頷いた。
「勿論です! それに、もし仮に似合わなかったとしても、似合うように支度をするのが私達の仕事ですから!」
今まで私のドレスアップに付き合う機会なんてほぼなかったからか、彼女はとても楽しそうだ。
「手伝ってくれてありがとうね」
「ふふ、私の方がお礼を言いたいくらいです。お嬢様を世界一の美女にしてみせますよ!」
あっという間に服を着せられて、髪は整えられ、メイクを施され、アクセサリー類もつけてもらった。
なんだか気合いが入りすぎているのではないか、と緊張もしたけれど、玄関先で両親が私のことを褒めちぎってくれたので、少し自信がついた。
「マリー、最近よく頑張っていたものね! 私の自慢の娘なんだから、絶対大丈夫よ」
「マリーも大人になったんだなぁ……でも、あまり遅くならないように帰ってくるんだぞ」
その言葉を胸に、私は家を飛び出した。
「マリー、お待たせ! おぉ、素材がいいから、磨かれてもっとかわいくなっているわね!」
いつものように乗合馬車乗り場で待っていると、イェレナがやってきた。
本当は、フレッドが私の家まで迎えに来てくれると言っていたのだが、彼が珍しく舞踏会に参加するからか、式辞を任されてしまい、彼だけ早めに会場入りしなくてはならなくなったのだ。
「1番最初に『綺麗だね』って言いたかったのに……」
ちょっと拗ねたような顔をする彼を見た時は、やっぱり心臓がおかしくなった。
けれどこれは不思議なことでは無い。
だって私は彼のことが好きだから。
「何一人でニヤニヤした顔しているのよ!」
「ごめん、フレッドのこと、考えてた」
「自分で言うのね」
彼女は若干呆れが混じった声で話しながら、馬車の座席に座る。
そこから、私たちは会場に着くまで、外の景色を眺めながら色々な話をした。
「その、今日はイェレナ、何をして過ごすの?」
聞きづらい話だったが、どうしても気になって聞いてしまった。
彼女はニコラス様のことを一度諦めると言っていたからだ。
「うーん、のんびり色々な人と話して過ごそうかなと思っているわ。あとは……マリーの見守りかしら?」
彼女は思ったより元気そうに返事を返してくれたので、私も安心した。
「良かった。前向きなのね」
「勿論!」
やはり、イェレナの明るい性格には憧れるな、なんて考えていると、外をみたイェレナが神妙な面持ちで口を開いた。
「……ねぇ、マリー。舞踏会の開始時間に間に合うかしら?」
「私もそれは思っていたわ。厳しそうよね」
先ほどからトラブルが続いているのか、馬車は思っていたより進んでいないようだ。
今も、前の道路でどこかの貴族の家の馬車が立ち往生しており、私たちの乗っている乗合馬車は仕方なく右折した。
かれこれ、こんな感じのことがもう五回ほど続いている。
「何回目よ……何かがおかしいわ」
イェレナはそう呟き、窓から曇り空を見つめていた。
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