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12,恋とは?

「いくらその子が、自分の狙っていた侯爵令息に気に入られているからって、いじめは良くないと私は思ったのよ」


「そうね、それならその子をいじめるんじゃなくて、自分も侯爵令息に気に入ってもらえるように頑張るべきだわ」


今日はイェレナの家の庭で、スイーツを食べながらダラダラ話をしている。

この話は彼女の恋バナ繋がると言っていたが、全く先が読めない。


「マリーもそう思うわよね! それで私、そんなの見ていられないから、その例の侯爵令息が舞踏会に参加している時に、こっそり教えたわけよ。『あの子、いじめられているから、力になってあげてください』って」


「流石イェレナね。確かに、直接いじめをしている令嬢達に文句を言いに行くよりも合理的だわ」


きっと私だったら、そんなことは思いつかずに勢いのまま、いじめをしている令嬢達に怒鳴り込みに行ったに違いない。


「でも、一つ誤算があって……例の令嬢達の内の一人が、私が侯爵令息に告げ口をしたところ、見ていたのよ」


「……そうすると?」


「今度は私が昨日のお茶会で裏に呼び出されて、紅茶をかけられそうになったって訳」


「大丈夫だったの!?」


本当に陰湿な令嬢達だ。

優しいイェレナにそんなことをするなんて!

今すぐにその令嬢達の名前を聞き出して怒りに行きたい衝動をグッと押え、話の続きを待つ。


「それがね……なんと、ニックが助けに来てくれたの!」


その時のことを思い出したのか、うっとりとした表情で頬を手で覆うイェレナ。


「よくイェレナが裏に呼び出されていること、気がついてくれたわね」


「たまたまだとは言っていたけれど……もう、顔に留まらず性格までイケメンなんだから!」


「それで、何か進展はあったの?」


「……」


彼女が黙り込んだのを見て、私は質問の答えを察した。


「助けて貰った後にお礼を言ったところまでは、まぁ、良かったとは思うの……でも、その後色々あって……」


「手紙はまだ送っているの?」


「まぁ……返事は同じだけれどね」


彼女は長い溜息をつき、テーブルに突っ伏した。

だが、顔だけは私の方に向けて話を続ける。


「私、二ヶ月後に隣国に行こうかと思うの」


「……え、失恋旅行!? あ、隣国の貴族に求婚されたから嫁ぐ……とか?」


いきなりの爆弾発言に思考が追いついていない私を、イェレナは軽く笑った。


「悲しそうな顔をしてくれてありがとうね。確かにそんな話もあるけれど……今回隣国に行くのは短期留学としてよ。すぐ帰ってくるわ」


「……なんだ、良かった」


私の大切な大切な友達が減ってしまうかと思った。


「でも、一旦ニックのことは諦めて、もう少し外の世界も見て来ようと思うの。それでもまだ彼のことが好きなら、それはその時に考えるわ……」


今までこんな弱気な彼女は見たことがなかったから、私は気の利いた言葉をかけることが出来なかった。

何を言おうか迷った挙句、私はただ、私自身の本心を伝える。


「絶対にこっちへ帰ってきて頂戴ね。私、友達と呼べる友達、二人しかいないんだから」


その言葉にイェレナは耳ざとく反応した。


「二人? 私と……まさか、フレドリック王子のこと?」


「えぇ、そうだけれど」


何か問題があるのかしら? と思っていたら、イェレナはまた長い溜息をついた。


「マリーったら、まだフレドリック様のこと、友人だと思っているわけ?」


「えぇ、そうだけど……何かおかしいかしら?」


純粋な疑問を口にすると、彼女は当たり前なことでも言うかのように話す。


「だって話を聞く限り、彼はあなたのこと好きじゃないの!」


「でも、そんなこと……恋愛的な意味で好きとか、言われたことないわ」


「言われたか、言われていないかじゃないわ。マリーがフレドリック様のことを、どう思っているかが大事なのよ」


「どうって言われても……よく分からないわ。恋愛とか」


「もう……!」


イェレナはもどかしそうに頭を振ったあと、私に問いかけた。


「それなら聞くけれど、マリーはもしフレドリック様が他の令嬢と楽しそうに話していたら、何か思わない?」


「フレッドはあまり女性が得意では無いから、そんなことは起きないわよ?」


突然そんな抽象的な事を言われても、全く想像がつかない。

頭にもやがかかったような感覚だ。


「そうじゃなくて、仮に、例えばの話で、そういったことになったら? 彼の隣で、控えめで可愛らしい令嬢が、彼と笑いあっていたら?」


彼女の具体的なシチュエーションが、もやがかかった頭の中に少しずつ浮かび上がってきた。


大人しめな、笑顔の可愛らしい、そして身分も高い……そんな令嬢が立っている所へ、フレッドが歩いてくる。

彼女が振り返ると、彼は幸せそうに笑いかけて……?


「なんだか、少し、嫌かもしれないわ」


この先を考えたくなかった私は、その令嬢とフレッドの姿を頭から振り払う。

心臓は鷲掴みにされたように痛む。


その様子を見たイェレナは、やっぱりとでもいう風に何回も頷いた。


「それが嫉妬ってやつよ。恋をした時によく抱く感情」


「……」


確かに。

私はフレッドに恋をしているのかもしれない。

考えたみれば、フレッドと過ごす中で心臓がギュッとしたことがあったではないか。

あれはきっと……フレッドのことが好きだから……


「ありがとう、大切な事に気がつくことが出来たみたい」


「それは良かったわ。私も半年間、話を聞いていてもどかしいと思っていたから。丁度一か月後に、そこそこ大きな舞踏会があるから、そこで気持ちを伝えてみたらどうかしら?」


「そうするわ! 私、それまでに……フレッドが振り向いてくれるように、自分磨き、頑張ってみる」


「まさかマリーから自分磨きなんて言葉が聞けるなんてね……まぁそんな事はしなくても大丈夫な気がするけれど」


イェレナは笑っていたが、私はこの日を境に自分の気持ちに気づき、そして努力を始めたのだった。

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