1,路地裏の声
新連載スタートです!
よろしくお願いします。
「マリー、遅いわよ! 早く行かないと凱旋パレードが始まっちゃうわ!!」
「ごめんなさいイェレナ、今日は暖かいから外で本を読んでいたら、思ったより時間が経っていたみたいで……」
私の準備が遅かったせいで、友人であるイェレナのことを待たせてしまった。
「もう、いくら私達が勢いのない家の令嬢だとしても、流行として見に行かない手はないわ!」
今日は、魔王を倒したこの国の二人の王子様と、聖女様を称えるためにパレードをするらしい。
きっとイェレナがここまで言うなら、見に行った方がいいのだろう。
それに、魔王を倒したのは純粋にすごいし、見に行くことで王子様たちや聖女様に感謝を伝えることができるのなら……行きたいと思ったのだ。
「それで、パレードはどこを通るんだったかしら?」
「この道をまっすぐ行った先に噴水広場があるでしょう? その横の大通りを通るらしいわ。ほら、お祭りみたいに露店が並んでいるでしょう」
彼女の言う通り、噴水広場まで続く道はお祭りの時のようににぎやかで、城下町に住む人は皆、王子たちのことを歓迎しているのがよくわかる。
……ほぼ名ばかりの貴族である子爵家とは大違いだわ。
私は一応、ガードナー子爵家の一人娘なのだけれど、祖父の代で財産を築き、王家に少しの恩を売ったことで爵位を与えられた……いわゆる成り上がり貴族だ。
生活に困るようなことはないが、城下町の一等地に家を持っているわけでもなく、高貴な家柄であるわけでもなく、そして有名な貴族の家との関わりがあるわけでもなく……私は家の中でただ大事に育てられてきただけだ。
イェレナは私と同じような境遇なのに、私よりも貴族らしい令嬢なのだから憧れてしまう。
「ぼーっとしてどうしたの?」
「いや、何でもないわ。王子様たちと私達では、住んでいる世界がちがうなと思って」
「そうね……でも、私達も一応貴族令嬢だから、来月の舞踏会には出席できるわ! ようやく16歳になったのだもの! 私、ずっとこの舞踏会を楽しみにしていたの!!」
うっとりとした声で舞踏会について話すイェレナ。
実は彼女にはずっと想い続けている人がいる。
その人は由緒正しい侯爵家の跡継ぎで、幼いころに一目ぼれしたらしい。
だから彼女は、出席できる舞踏会やお茶会には片っ端から参加して、その人にアタックしているのだ。
そんななかでも来月の舞踏会は、家同士の関係性を深めるために、国中の令息・令嬢が集められる大きなもの。
彼女が楽しみにしているのもよくわかる。
……私は、そういった舞踏会やお茶会に参加するのは苦手だから、あまり楽しみではないけれど。
「……まさか、来月の舞踏会まで欠席するわけじゃないでしょうね?」
「さすがに行くわ、えぇ」
「それならいいけど……あ、見て頂戴! 王子様たちと聖女様の姿絵が売られているわ! 買わなきゃ!!」
彼女の視線の先を追えば、露店で様々なサイズや構図の絵が売られている。
遠くから見ただけなので少ししか見えなかったけれど、黒髪とホワイトブロンドの美男美女達が描かれているようだ。
「私はここで待っているわね」
「マリーの分も買ってきましょうか?」
彼女からの申し出に、私は首を振る。
「今月のお小遣いは本に使いたいから」
「マリーらしいわね、わかったすぐに行ってくるから、少し待っていて頂戴」
彼女が駆け足で露店の店主に話しかけに行くのを見守りながら、私は近くの露店の食べ物を眺めていた。
普段は見ないような食べ物も売られているわね……あれは、東方の国の伝統料理、おにぎり、というやつかしら?
本でしか読んだことがなかったけれど、実際に見てみるととても美味しそうだわ……
そんなことを考えていた時、路地裏の方からかすかに声が聞こえてきた。
「あんた、お金持ってそうな身なりだなぁ……あぁ? こんなお祭りの日だというのに俺には金がねえんだ。お前から恵んでもらおうかなぁ」
これは……紛れもなく恐喝だ。
私は急いであたりを見渡したが、周りの人は皆知らないふりをしている。
明らかに声は聞こえているはずなのに……
「ちょっと奥に来いや」
そこから声は聞こえなくなってしまった。
これはまずい……どうにかしなければ。
でももうすぐ凱旋パレードが始まってしまう。
「いたいた、どうしたの? 大丈夫?」
姿絵を入れた袋を抱えて、イェレナが戻ってきた。
彼女はパレードをとても楽しみにしていたから、巻き込むわけにはいかない。
「ごめん、ちょっと用事が出来ちゃって、先に行っててほしいの」
「よ、用事!? 今!? ……分かったわ。ギリギリまで噴水広場で待っているから、終わったらすぐに来てね」
イェレナは流行に敏感でいかにも貴族の令嬢らしい人だけど、その心はとても広い。
小さいころから頑固なところがあった私は、今までもこうやって彼女に迷惑をかけてきた。
「本当にごめんなさい」
「気にしない頂戴。でも、間に合わなかったら私だけでパレードを見に行っちゃうからね!」
「分かったわ」
こうして彼女の姿を見送った後、私はそっと路地裏を覗き込む。
かなり奥の方まで連れていかれてしまったようで姿は見えない。
私は一歩、また一歩と路地裏の奥へ足を踏み入れていく。
正直、こんなところへ来たことはないのでかなり怖い。
でも、恐喝されている人はもっと怖いだろうから……ここで私が怯むわけにはいかない!
「あぁ? さっきからずっと黙り込みやがって! 早く金をよこせ……俺らはあと十秒しか待たないからな!!」
声のする方へ近づいていき、曲がり角の先にその姿を捉えた。
茶色いフードを被った……おそらく背格好的には男性が、二人のいかつい男性によって壁に追い詰められている。
時間はない……いまだ!
私は大きく息を吸い込み、大声を出した。
「騎士の方! こちらです!! 脅されている人がいるんです!!!」
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