054 呼び出し(2)
復活!
図書室に着くと、案の定、待っていたのは狭山カコさんだった。
室内には数人の生徒がいて、チラチラと僕を見ているのが分かる。
その視線に気づかない振りをして、カコさんに近づく。
「ひでお君……」
「カコさん」
「ここじゃ、あれだから……」
「うん」
カコさんに連れられ、図書室の奥へ向かう。
図書委員である彼女は慣れた様子で、本棚の間を迷いのない足取りで進んでいく。
誰も立ち寄らない場所。僕もここまで来るのは初めてだ。
「ここなら、大丈夫だから」
誰も気がつかないよな場所に、ドアがあった。
カコさんにうながされ、部屋に入る。
小さな部屋に長机がひとつ。それに椅子がふたつ。
「ひでお君、来てくれてありがとう……座って」
椅子に座ったカコさんの向かいに僕も腰を下ろす。
だが、それきりカコさんは俯いて黙り込んでしまう。
「えーと、カコさんって呼べばいいかな? それとも、マヤさんの方がいいかな?」
「カコで……いいよ」
「じゃあ、カコさんで」
そこで会話が途切れる。
俯いたカコさんは緊張しているのか、耳まで赤くなっている。
僕も慣れないシチュエーションで心臓がバクバクだ。
気まずい沈黙が流れ――。
「あの」「あの」
思い切って声をかけたら、被ってしまった。
「じゃあ、カコさんからどうぞ」「ひでお君からどうぞ」
またもや、被る。
お互い顔を見合わせ、プッと吹き出す。
それをきっかけに、緊張が解け、二人で笑う。
僕は手を前に出し、カコさんに譲る。
「どうやって話そうか、ひと晩考えたんだけど、ひでお君の顔を見たら、全部忘れちゃった」
それは僕も同じだった。
だけど、それで不安になったり、心配になったりはしない。
むしろ、いつも通りの自然体を取り戻した。
彼女の笑顔のおかげだ。
「僕も」
カコさんは僕の言葉にはにかむ。
「上手く話せないかもしれないけど、ゴメンね」
「ううん。カコさんのペースで良いよ。今日は予定を入れてないから」
カコさんは大きく目を見開いた。
「私のために、時間をとってくれたんだ」
「うん。僕にとっても大切な時間だから」
「ひでお君にそう言ってもらって嬉しい」
カコさんは俯きかけるが、すぐに顔を上げ、僕の瞳に視線を合わせた。
「私、中学の頃から、ひとりぼっちだったんだ」
「うん」
「クラスのみんなと話が合わないんだ。オシャレとか、恋愛とか、興味がないから」
「あー、僕も同じ。佑くらいしか話す相手いないよ」
「だから、高校に進むときも怖かった。また、一人だったらどうしようって」
「…………」
僕には佑がいたから平気だった。
佑が常に僕の隣にいてくれたから。
もし、佑がいなかったら……。
僕もカコさんと同じ思いだっただろう。
「入学式の日、ひでお君が勇気をくれたの。木の上で困っていた猫ちゃん。あれは私と一緒なんだ」
正直に言うと、カコさんからDMをもらうまでは、そのことをすっかり忘れていた。
言われて思い出したけど、その相手がカコさんだったことまでは覚えていない。
女子には苦手意識があったけど、あのときは自然に振る舞えた。
ちょっと、格好つけてしまったかもしれないけど。
「ひでお君が助けてくれた。ひでお君が同じクラスにいたから、私はひとりぼっちでも平気だった」
強がりじゃないと、伝わってくる。
「ひでお君は私によく話しかけてくれるよね」
「そうだね」
「私がかわいそうだったからかな?」
カコさんは不安そうに尋ねる。
僕は首を振って否定する。
「僕も女の子と話すのが苦手なんだ。でも、カコさんは平気だった」
ただのクラスメイトではないけど、友人と呼べるほど親しいわけでもない。
他愛ないちょっとした会話しかしてこなかったけど、カコさんとの会話は嬉しかった。
「小学校の高学年の頃かな。女子にバカにされたんだ」
それが女子に苦手意識を持つようになったきっかけだ。
「いつまでもヒーローなんて子どもみたい、ってね」
ショックだった。
みんなが成長して、大人になろうとしているのに、僕だけ取り残されたような気がした。
「それ以来、自分から女子に話しかけなくなったんだ」
男子も同じようなものだった。
ただ、佑だけが僕を否定しなかった。
「でも、カコさんとは自然と話が出来た」
クラスメイトは皆、格付けして、ラベルを貼る。
陽キャだとか、陰キャだとか。クラス内カーストがどうだとか。
一度、陰キャだと認識されると、そのポジションが確定し、誰も話しかけようとしない。
僕はその外側にいたし、佑もそうだった。
そして、カコさんも――。
次回――『呼び出し(3)』
長らくお待たせしましたが、ようやく体調も良くなりました。
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