医師の飢えにああ残念
「今日から先生、休みらしいよ」
「ああ残念ね」
「体調不良みたいだよ」
「何かを食べてる姿を、誰も見たことないみたいだから」
「あら、そうなのね」
「医者が体調を崩すって、意外に多いよね」
「確かにね」
「ねえねえ、何話してるの?」
「ああユウさん。あのね、先生の話」
「ああ吉良先生ね。なんか、輸血しているって噂だよ」
「えっ、そうなの?」
「理由は分かる?」
「なんか、人間の血しか栄養にならない人みたいで」
「人なの? そんな人がいるの?」
「吸血鬼じゃないの? 鬼じゃないの?」
「えっ、吸血鬼って鬼なの? まあ、それはいいとして」
「輸血で、なんとかなるんだね」
「吸血鬼は、輸血でいいんだね」
「でも、日光浴してたよ。それが、趣味みたいだし」
「吸血鬼ではないらしいよ。血は、口から吸うみたいだけど」
「それが吸血鬼なんだよ」
「でも、私たちを襲うそぶりが、全然なかったよ」
「むしろ良いものを、分け与えてくれたっていうかね」
「うんうん。私には、先生の実家で採れたっていう、ニンニクをダンボールで」
「ニンニクとガチガチで、関わっちゃってるじゃん。大丈夫なの?」
「だから、吸血鬼みたいだけど、吸血鬼じゃないんだよ」
「でも、私が先生に『10時から〇〇があります』って言ったとき。ビクッてなってたよ」
「『10時から』っていう言葉の中には、『十字架』っていう言葉が入ってるからね」
「それ、まったく関係ないよ」
「まあ、優しい心は、時に障害になるってことね」
「うん、そうね。優しくて襲えないなんて、気の毒ね」
「うんうん」