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第二話 市井

「大丈夫ですか? 峰葵さまにあんなことして」

「大丈夫だって言ってるでしょ。さっきから明龍は心配しすぎよ」

「そうですか? 本当に? 僕が解雇されたら稼ぎ頭がいなくなって家族を養えないのですが……っ」

「もう、だからそんな心配しなくて大丈夫よ。もしそんなことを峰葵が言い出しても、私がちゃんと家族含めて守ってあげるから!」


 市井に向かう道中不安そうな明龍を励ますように声をかける花琳。

 正直、花琳自身もちょっとやりすぎた自覚はあったが、今更後悔しても仕方ないので気にしないことにした。


「本当にほんっとーに、約束ですよ?」

「しつこいわね、わかってるって。今まで私が約束を違えたことがあった?」

「うー……。ないです、けど……」

「でしょう? 私は義を重んじる女よ! 国民を背負う王なのだから、明龍の家族を露頭に迷わせることがあるわけないでしょう?」

「そ、それもそうですね。失礼しましたっ」


 わかればよろしい、と花琳は胸を張る。

 兄の代わりに秋王として君臨して十余年、兄にはまだ到底及ばないが賢王として民を導けるよう花琳は日々努力をしている自負があった。


「まずはどちらから行かれます?」

「うーん、今日は久々に市井に行くから色々と見て回りたいのよね。最近公務が多くてなかなか回れなかったから、一通り確認しておきたいわ」

「承知しました」

「……私も気をつけるけど、追手が来てないか十分に配慮よろしくね」

「えぇ、それはもちろんです」


 先程まで泣きそうな表情だったのが一転、険しい表情になる明龍。

 普段は気弱な青年のように見えるが、護衛の腕前は一流だ。

 特に彼は探知能力や武術に非常に長けているため、花琳の市井散策のお供には最適な人物であった。


 峰葵も言っていた通り、昨今市井の情勢は芳しくない。


 密輸入や違法入国などよくない噂を聞くことが多いが、いずれも具体性がなく、詳細が花琳の耳についぞ届くことがなかった。

 それは恐らく花琳をよく思っていない上層部の面々が情報を止めているからだということは花琳も承知していた。そのため自ら確認するべく市井へとやってきたのだが。


「とりあえず、情報集めからしたいから露店回りから行きましょうか」

「わかりました」

「では、早速しゅっぱ〜つ」


 掛け声と共に市井へ下る。

 あまり長居は得策ではないことは花琳も承知済みだったので、早速散策に出かけるのであった。



 ◇



「女将さん、お久しぶり〜!」

「おぉ、お嬢ちゃんお久しぶりだねぇ。元気にしてたかい?」

「うん、元気元気!」


 花琳が最初にやってきたのは露天商だった。


 城下町の中でもここは一際大きく、何でも品が揃っていることで有名だ。

 ここの店主である女将は快活で人当たりがよく、それでいて耳聡い人物なので国のあらゆる情報が入ってくるため、花琳は市井の情報収集相手としていつも利用していた。


「また父ちゃんに言われたおつかいかい?」

「そうそう。最近情勢が危ういみたいだから色々調べてこいーっておつかいさ」

「嬢ちゃんのお父上は上層部なんだろ? 毎度思うが娘を遣わにゃならないなんて、相当縛りが厳しいんだねぇ」

「そうらしいね〜。お上も色々あるらしいよ。私には教えてくれないけどさ」


 情報集めをする際、花琳は身分を隠して上層部である父親の遣いで城下町の情報を手に入れている、という設定になっている。

 そのため、架空の父親にこき使われている哀れな娘を演じているのだ。


「そうかい。嬢ちゃんも大変だねぇ。まぁ、嬢ちゃんのお父上には便宜をはかってもらってるから、こちらとしてはありがたいが」

「いいのいいの。いつも貴重な情報もらってるし。それで、最近変わったことはないかい?」

「あぁ、そうだね……。最近北部のほうで小競り合いが起こったっていうのは聞いたね。税収のことで揉めたとか」

「その話詳しく」


 ここ最近あった出来事をつらつらと話し始める女将。


 世間話をするような気安いノリで話しているが、内容は官吏にしょっ引かれてしまうほどの情報であった。

 それをさも何でもない話のような軽さで誰にも気取られずに話せるのだから女将はさすがである。


「ほうほう、いい情報ばかりどうもありがとう! 父ちゃんにも言っておくよ」

「あぁ、今後ともご贔屓に、と伝えておくれ。そういえば、最近の陛下の調子はどうなんだい? ここのところ姿を見せないから街では専らよくないことが起きてるんじゃないかと噂されてるよ」

「うーん、どうなんだろうね。父ちゃんも詳しく教えてくれないからなぁ。以前に比べてだいぶ元気そうだとは聞くけどね。こればかりはなぁ」

「そうかい。この国は情報が閉ざされてるぶん閉塞感があるからねぇ。他国から狙われてるせいで仕方ないだろうが。早く以前のように明るい話題が欲しいよ」

「そうだね〜。おっと、あまり長居しちゃ父ちゃんに怒られる! んじゃ、女将さんまたー!!」

「気をつけて帰るんだよ〜!」


 明るく笑顔を振りまきながら手を振る花琳。

 チラッと近くで見張りをしていた明龍に目配せすると、そのまま人通りを避けて時間差で路地裏へと入り、落ち合う。


「明龍、不審な人物はいなかった?」

「はい。今のところは」

「そう、それはよかった。では、次に行きましょうか」

「次はどちらへ?」

「市井全体を散策。人は何がしか不満を口にするものだから、噂や愚痴を盗み聞きするわ」

「大変ですねぇ、花琳さまも」

「国をよくするためだからね。兄さまが志半ばで逝ってしまわれたのだから、私が頑張らないと」


 花琳は目を瞑って亡き兄を思い出す。


 自分の命を懸けて父や母の意志を継ぎ、秋王として最期まで奮闘していた。

 だからこそ、自分も兄のように国をよくして国民にとって誇らしい国にしたいと思っていた。それが両親も兄も望んでいたことだから。


「散策はどうします?」

「バラバラでいるよりは一緒にいたほうが怪しまれないでしょう? 明龍は私の弟ってことで」

「またですか? 一応僕のほうが一つ年上なのに」

「だって、年上に見えないもの」

「うぅぅ。花琳さまは手厳しすぎます」

「さっ、ちゃっちゃと行きましょう〜! あまり遅くなったら峰葵のお小言が長くなる!」

「言われるのは確定してるんですね。はぁ、やだなぁ〜」


 明龍はぶつくさ言いながらも花琳についていく。

 とはいえ、ちゃんと設定を守り、すぐさま弟のように接してくるのはさすがであった。

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