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身代わりの男装姫  作者: 鳥柄ささみ


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第二十六話 お披露目の儀

 あっという間にお披露目の儀の日になった。


 花琳は慌ただしくしていたせいで悩む時間すらなく、おかげで余計なことを何も考えずに当日を迎えることができた。


 民衆の前に出ると、秋王の登場にわっと歓声が上がって盛り上がる。

 こうして花琳が国民達の前に出るのは久々のことで、しかも隣に絶世の美女である雪梅がいたらなおのこと盛り上がらぬわけがなかった。


「秋王さま、お元気そうね!」

「雪梅さまお美しいわ……」

「お似合いのお二人だわ」

「久々のいい知らせね」

「秋王さま、ばんざーい! 雪梅さま、ばんざーい!!」


(これで少しでも国民の捌け口になればいいけど)


 花琳は心の中で「はぁ」と溜め息をつく。

 というのも、昨今花琳が倒れていたせいで箝口令などが厳しくなったせいで国民の不満は高まる一方であった。


 国民は秋王や秋波国は危ないのではないのかという不安や情報統制の厳しさから来る怒り、それらがない混ぜになって暴動などが起きる可能性が非常に高かった。

 そのため、国民の意識を和らげようと今回秋王が元気であることや秋波国にとって明るい知らせである伴侶の雪梅を披露したのだ。


 だが、実際に見て感じるのと内包している感情はわからない。

 だから花琳は彼らの怒りが治まるよう祈るしかできなかった。


 まだ病み上がりの彼女には、彼らの不平不満を受け止めるすべを持っていないからだ。


(しかもこれは偽りの儀。秋王も偽りで、伴侶も偽りだなんて、私は全てにおいて国民を欺いてる王ね)


 心の中で彼らを騙していることに申し訳なく思いながらも、花琳は笑顔で手を振る。

 隣にいる雪梅もニコニコと疲れなど感じさせないような笑顔で応対していた。



 ◇



 お披露目の儀が終わり、控えの部屋に戻って息を吐く。


 秋王として久々に民衆の前に立った花琳は国民を欺いている心苦しさも相まって気疲れしてしまい、今すぐにでも突っ伏したい気持ちになったが、雪梅がいる手前グッと堪えた。


「はぁ、疲れましたわ」

「あぁ、大義であった。慣れぬ場に来て早々駆り出してしまってすまないな」

「いえ、これもワタシの仕事ですもの。というか、陛下? いえ、花琳さまと申し上げたほうがよいでしょうか」

「どちらでも構わぬが、どうした?」

「いえ、ワタシ達は運命共同体ですもの。貴女ともっと仲良くしたいな、と思いまして」

「というと?」

「その口調などもっと親しくしていただきたいのです。あと、同じ女同士ですし、色々とお話がしたいなと思いまして」


 小首を傾げながらそっと袖を掴む仕草をする雪梅。

 男性なら誰もがイチコロだろう。


(きっと峰葵も)


「申し訳ない。さすがに公私混同するわけにはいかぬから、変えることはできぬ」

「まぁ、そうですの? それは残念です。せっかくお年が近い同性ですから、仲良くたくさんの話がしたかったのに」

「そうか。まぁ、口調などの期待には添えないが、話を聞くくらいならできる」

「そうですか? 嬉しい。早速お話しても?」

「あぁ、聞こう」

「峰葵さまのことなんですけど」


 峰葵の名が出て、どくりと心臓が嫌な音を立てる。


 花琳は顔に出さないよう努めながら、「峰葵が何か粗相でもしたか?」と平静を装って尋ねた。


「いえ、とんでもない。峰葵さまは素晴らしい方だと伝えたくて。ワタシのことを慮ってくださり、ワタシの希望を叶えるよう努力してくださって。……実はワタシ、ずっとお慕いしていたんです、峰葵さまのこと」


 表情が凍りつく。

 眉を顰めたい気持ちを抑えて、花琳はグッと拳を握った。


(どういう意味なの?)


 ずっと、という言葉が脳裏にこべりつく。

 聞きたくないが、話の流れとしては聞かざるをえないだろう。


 花琳の胸はだんだんと苦しくなってきた。


「ずっと、とは……?」

「余暉さまの後宮に呼ばれたときです。余暉さまの伴侶とのことで召喚されましたが、余暉さまにお目通りすることなどほとんどなかったもので。代わりに峰葵さまが当時後宮の管理をされてましたから、接する機会が多くて。優しいし最年少だったワタシを気にかけてくださいましたし、ですから、余暉さまには申し訳ありませんでしたが、ずっと心の中で峰葵さまをお慕いしておりましたの」


 頭を鈍器で殴られたかのような衝撃。


 余暉のことも峰葵のことも、それをわざわざ自分へ言うことも、全てにおいて花琳は理解できなかった。


 怒りで吐きそうになる。


 余暉を蔑ろにしたことも、峰葵への想いの吐露も。


 全てが花琳を傷つけるには十分なもので、今すぐここを出ないと雪梅を罵倒しそうだった。


「そう、か……」


 怒りを抑えながら絞り出す。

 怒りと苦しさと悲しみで胸が痛い。


 花琳はどうやったらこの状況を脱せるか、それしか頭になかった。


「えぇ、だからワタシ、峰葵さまのお子を産む機会が得られて本当に嬉しいんです。ずっと憧れだったから! 昨日もとても素敵な夜でした。それもこれも全て陛下のおかげですわ」


 怒りで目の前が真っ赤になる。


 理不尽な怒りだとわかってはいたが、それでも花琳はぶるぶると怒りで震えた。


「あら、どうしました、陛下? 顔色が優れないようですが。お寒いですわよね、ここ。誰か、誰か〜?」


 深呼吸して少しずつ、少しずつ怒りを鎮める。

 口を開いたら花琳は誰彼構わず罵倒しそうだった。


「どうしましたか、雪梅さま」


 聞きなれた声にドキリとする。


 峰葵だ。

 花琳は今怒りで震えている姿を峰葵に見られたくなくて、顔を逸らしながら必死に呼吸する。


(吸って吐いて吸って吐いて吸って……)


「陛下のご様子がおかしいのです。ワタシ、心配で」

「陛下。具合が悪いのですか?」


 峰葵が心配そうに花琳に触れようとする。


 花琳の頭は真っ白だった。


 バシンッ


 花琳がその手を思いきり払うと、峰葵はびっくりしたような顔をしていた。


「我に触れるでない! 我は問題ない。それよりも雪梅殿を早く後宮へお連れしろ。ここは冷える」

「ですが」

「聞こえなかったのか?」


 キッと峰葵を睨みつける。

 峰葵はグッと何か言いたそうにしていたものの、それを堪えて雪梅の手を引くと、そのまま後宮へと下がっていった。


(これでいいのよ。これでいいの)


 花琳はぐちゃぐちゃになった感情を抑えながら、良蘭が来るのを待つのだった。

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