現状の最大値
どれくらいの時間が経っただろうか。もう100回は複製を自分に使っただろう。
試しに手を繋いでいる鎖に力を入れる。簡単にその鎖は大きく音を立て崩れてしまった。
「やった…!複製はステータスにも使えるのか!」
そして枷から解き放たれた俺は、目の前にあった、だが手が伸びなかった扉に手を掛けた。
外はやはり雪が降っていた。だが、寒くはなかった。それよりも、ここから出られたと言う事実に感動していた。
一歩踏み出す。ザクリ。雪が心地の良い音を立てた。ザクリ、ザクリ。段々足の進みが早くなる。
その瞬間だった。足を踏み外し、滑ってしまった。
まずい。そう思っても後の祭り。俺は、自重で止まることもなく、冬の山を転がっていった。
気付くと見覚えのある風景が広がっていた。山の麓だ。何故か転がっている間は痛くなく、無事に麓までこれてしまった。
そして、アイツらを必ず見返してやる、と決意した。
まず、町に戻る。これが先決だ。
来た時に乗ったであろう馬車の轍を見つけ、その上を辿ってゆく。
変わり映えのない風景。沈まない太陽。馬車の轍だけが心の支えとなった。
歩き続ける。これに関しては疲れないので良いのだが、それよりも本当にこの道で合っているのかと言うことが精神を不安にさせた。その時だった。見覚えのある石壁を見つけた。
町に帰ってきた。この辺りまで来ると、雪はもう無くなっていた。門を見つけ、その方向に進む。見覚えのある衛兵が
経っていた。話しかける。
「通してもらおう。」
「あ!?どうしてそんなにボロボロなんだ?」
「山に行ったら滑り落ちてな。」
「それは不運だったな。通っていいぞ。」
「どうも。」
アイツらにやられたと言うことは黙っておいた。噂にでもなれば彼方も対策するかもしれない。
それだけは避けなければいけなかった。
あれから2ヶ月は経っていたが、町の様子は変わっておらず、安心する。
見慣れた看板を見つけ、その中に入る。
「こんにちは!クエストの募集です…か?」
あの時と同じお姉さんに声をかけられた。
お姉さんは俺を見てびっくりしている。そうだろう。採取クエストに行ったはずなのにボロボロになって帰ってきたのだから。
「どうされました…?それ。」
言いにくそうにお姉さんはそういった。
「山から滑り落ちまして。」
「そうですか。なら良いんですが。」
奥から俺を笑う声が聞こえる。
「ステータスを見てもらいたい。」
「わかりました。」
お姉さんが見覚えのある機械を奥から持ってきた。そして、ステータスを測る。手を機械に当てると紙が出てきた。
お姉さんがその紙を見て驚いている。
「どうされました?」
「これ…」
お姉さんから紙を受け取り見る。ステータスの全ての数値が999になっていた。やはり、複製の効果は確かだった。
「あぁ、山で筋トレしてたんですよ。気にしないでください。」
「でも、もったいないですね。」
「え?」
「ウエムラさんはステータスの上限を解放されてませんよね。」
「上限?」
「はい。ごく稀にオークションとかで競売にかけられる上限の書を使うとステータスが9999まで伸びるんですよ。
まぁまずそこまで強い人は稀なのでコレクションとしての用途が主になりますが。」
「へぇ〜」
これはすごいことを聞いてしまった。
ふと、気付く。
「そういえば、ディーボルトって知ってます?」
「ディーボルトさんですか?」
「さん?」
「ディーボルトと言ったら勇者の名前ですよ!」
「え?!」
「知らなかったんですか?」
「えぇ。」
アイツが勇者?そんなはずはない。そう言い聞かせて、その日は複製で増やした金貨で泊まった宿で一夜を過ごした。
夜の概念ないけど。