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03 愛に溺れたかった王太子

 私は産まれてすぐに実母を亡くした。

 そのため乳母の手によって王宮の奥で育てられる。


 それは物心ついたころだったと思う。

 父から許しをもらって王宮内を探索していたときに、侍女から『あの方は王妃様です。ジェフリー様の義理のお母様にあたる方ですが粗相のないようにお気をつけください』そう教えてもらったのは、目つきがきつく、なんとなく影があって、例えるならば物語に出てくる魔女のような女の人だった。


 私は姫より、魔法が使える魔女に興味があったから、その日から王妃様が気になり始める。


 まだ無知で無邪気だったころは魔法を教えてほしくて、どうやったら仲良くしてもらえるかそんなことばかり考えていた。


『お元気そうでなによりですわ』

『ルイス様の幼い頃に瓜二つですわね。将来が楽しみですわ』

『寂しい時は、わたくしを本当の母親だと思って甘えて下さっていいのよ』


 会えばそうやって優しく声を掛けてくれるから、嬉しくなってその姿ばかりを探し求めた。


 初めは知ることのない母性を求めていたのかもしれない。でもそれが違う愛情に変化していったころ、あの人が私を避けていることに気がついた。


 理由が知りたくて調べたところ、実母があの人から父を奪って傷つけていたことがわかる。

 どうやら侍女たちは、私のことを気遣って、ずっとそのことを隠していたようだ。


 始めから嫌われていたのに、付け回すようなことをして、とても迷惑だっただろう。それでも目を合わせると、あの人はいつでも優しかった。


 苦しい。

 私の気持ちがあの人に届くことはない。そう思うだけで胸の奥のがずきずきと疼いた。実母のことがなかったとしても、あの人は父の妻なのだ。この邪な気持ちは、誰かに気づかれる前に封じ込めなくては。


 諦めるために、私は公爵家令嬢のナタリーとの婚約を承諾する。相手など誰でもいいと思っていたが、嬉しいことに、ナタリーは日を増すごとに、あの人に雰囲気が似てきた。


 背格好が同じで、少しきつめの容姿、完璧な所作といい、二人とも王妃候補として選ばれて、その教育を施されているからだろうか。

 ナタリーをあの人と重ねることで、私の未来は明るくなった。このままふたりで穏やかに過ごして行こう。

 その時はそう思っていた。


 しかし、フローラと出逢ったことで、それまでとはすべてが一変しまう。


 フローラとの出逢いは、王宮の関係者しか入ってはいけない場所に、彼女が迷い込んでしまった時だった。

 私がお茶をしていた庭園にひょっこり現れた彼女。その時以来、私はフローラから目が離せなくなってしまった。

 彼女といると他のことは何も考えられない。


 ナタリーとの穏やかの日々が色あせ、あれだけ焦がれていたあの人のことさえ遠い思い出として記憶の隅においやってしまうほど、私は彼女に夢中になった。


 それからは毎日彼女に会い続けた。

 フローラ以外を妻にすることなど考えられない。彼女からの訴えと懇願もあって、ナタリーとの婚約は白紙に戻すことに成功する。だが、フローラとの結婚は誰も認めてはくれなかった。


 どうやらフローラは私の実母とまったく同じことをやっているらしい。


 その時の失敗を王宮の重鎮たちは悔やんでいて、ナタリーと婚約破棄したことも、私は遠回しに責められていた。

 それは私の存在をも否定していることに、彼らは気づかないらしい。そんな風に扱われたら、私が反感を覚えても仕方ないと思う。


 いつまでも平行線の状況だからか、フローラも最近は顔色が曇っていて、笑顔を見せることが少なくなった。


 どうしたものかと悩んでいた時に、あれだけ私のことを避けていた王妃が、何故か自分の方から私に会いにやって来た。


 フローラとは違う嬉しさで胸がいっぱいになり、そしてそんな自分に戸惑いを覚えた。私の心はいったいどうなっているのだろう。


 気持ちの整理がつかないまま、それでもフローラとの逢瀬を何よりも優先していたそんなある日、突然フローラが急に苦しみ始めた。

 何が起こったのかと心配しても、彼女がなんでもないと言うので、その日は早めに家に帰して様子を見ることにした。


 しかし、それからだったと思う。フローラが今まで以上に積極的になったのは。


 二人きりになりたがり、身体を密着させてくる。私と婚約できないことで焦っているのだろうか。しかし私にもそのへんの分別はある。フローラには、口づけ以上は手を出さないように理性を総動員させて十分気をつけていた。


 そんな私の態度がフローラを悩ませてしまったのかもしれない。


 フローラがこんなことをするなんて。そう思った時にはすべてが終わっていた。


 私はフローラに渡された飲み物を飲み干さなければいけない。なぜかそんな衝動にかられ、勧められるままそれを口にし、その直後に吐血した。


 それで、彼女は()()()()を選んでしまったんだと悟った。最初はそう思った。


「王妃様あああぁぁぁ!?」


 しかし、彼女の絶叫を聞いた時それが間違いだということに気づく。


 あの人はそれほどまでに私のことを憎んでいたのか?

 それでも、殺したいと思うほど、あの人の心に私という存在が刻まれていたことを知って、心が躍った。


 こんな私は、どこか壊れているのかもしれない。


 意識が途切れる直前、最後に見たあの人の笑顔が脳裏に浮かぶ。


「できることなら、この狂おしい想いを貴女に伝えて抱き締めたかった……」


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