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アレフは鉄柵の外の景色を見つめた。十年ぶりに見る外の景色は、想像以上に変わっていた。
アレフがこの宝物庫に辿り着いた十年前は、周辺にモンスターなどはいなかった。
しかし、今見てみると、見たこともないモンスターがうじゃうじゃと徘徊している。
「なんだ?これは・・・俺が十年埋まっている間にダンジョンの生態系が変化したのか?」
イノシシみたいに四足歩行で歩く獣、だが頭は龍のようにも見える。いろんな生物の特徴が入り混じった生き物がそこら中に歩いている。
「・・・変な生き物もそうだけど、とりあえず今はここから出ることを先に考えないと行けないよな」
アレフは鉄柵から少し距離を取った。
【ノーマル魔法 魔法ぱんち】
アレフは唯一唱えることができる、魔力で拳を包み込み殴るというシンプルかつ単純な、誰でもできる魔法を使い、鉄柵を壊そうとした。
アレフはその攻撃で鉄柵に少しのダメージがあればいい程度に考えていた。
いや、特に何も考えてはいなかった。
ただなんとなく何もせずに時間が過ぎていくことが怖かった。
ズドーン!!!
アレフが鉄柵を殴った衝撃はダンジョン中に響き渡った。
外の世界ではその衝撃は震度6の地震が発生したと報道されていた。
「なにこれ・・・?」
アレフは自らの拳を見つめた。自分の魔力が異常に上がっていることに彼はまだ気がついていないのだ。
「俺のただのパンチがこんなに強くなっている・・・?」
しかし、柵は頑丈で、やはり条件である【6人連れてこなければ開かない】という条件を満たす必要がありそうである。
「やはり・・・ここからは出られないのか・・・」
その時だった。外にいた多種多様なモンスターたちが一斉にアレフの檻にむかって飛びかかってきた。
モンスターたちの鋭い牙や爪が柵の隙間からアレフに襲いかかる。
瞬時に後ろに下がり、難を逃れるアレフ。
「うわっ!!何だいきなり!!さっきまでおとなしくそこら辺の草を食べていたじゃないか!!」
おとなしそうに見えたモンスターたちの目の色が充血し、狂ったような顔をアレフに向ける。
柵に何度も突進しアレフに襲いかかろうとしている。
【植物魔法 茨の踊り子】
どこからともなく声が聞こえ、その後、柵を食いちぎろうとするモンスターたち周辺に生えていた草木がいきなりくねくねと踊りだした。
そしてあっという間にモンスターたちの体に巻き付き捕獲してしまった。
「・・・何だ?次から次へと・・・何が起こっている」
アレフが混乱する中、一人の女が作の目の前に現れた。
「・・・あら。こんなところに人間?びっくりしちゃった・・・」
女性・・・というほど成熟した印象は受けないその女は驚いた様子でアレフの姿を見た。
「あなた・・・ほとんど裸じゃない・・・こんなところで何をしているの」
「俺は・・・アレフっていうんだ。十年前に仲間に見捨てられて・・・ここに閉じ込められてる」
女はアレフのその言葉を片耳で聞きながら、捉えたモンスターを器用にさばき始めた。どうやら狩猟をしていたようだ。
「君は?一体何者なんだ?こんなところで何をしている?」
「決まってるじゃない。仕事よ、仕事。私みたいなモンスターが生きていくには仕事をしていくしかないんだから」
「モンスター????君がか?人間じゃないのか???」
「あははっ!!私が人間に見えるの?相当お人好しみたいだね。あなた。そりゃ仲間にも裏切られるわ。私は人外。いわゆる人間とモンスターのハーフみたいな存在ね」
「モンスターと人間のハーフだと???」
アレフは次々とおこる驚きの出来事に脳みそがついていけなかった。
それよりも、まずこの女を絶対に手放しては行けないと思った。十年ぶりの情報源がここに来たのだから。
「すまん、俺十年間ここに閉じ込められたから外の世界がどう変わったのか全然知らないんだ。君のようなモンスターと人間が入り混じった存在がこの世に誕生したのか?」
「私も詳しくは知らないわよ。生まれてきたときからそうなんだもの。お母さんがそう言っていただけ。私達は人間じゃないって。だから、慎ましく生きていくのって」
「君は・・・このダンジョンから出たことがないのか?」
「ダンジョン???なにそれ。ここのこと言ってるの?ここは第五労働場だよ」
アレフは全くと言っていいほど女と会話が噛み合わなかった。
そして、かれこれ1時間ほど話し込んだ結果、驚愕の事実が判明した。
まず、十年間の間でこのダンジョン「ビシソワーズ」は俺の祖国であるコレラの統治下になっているとういことだった。
そしてこの女、名前は「ミレノア」。ミレノアはモンスターと人間の中間的存在であり、生まれた時からこのダンジョンにいたそうだ。
そして、コレラの労働者としてダンジョンで働いて生活をしている。
……なんだこれ??俺の知っていた世界はどこに行っちまったんだ??
「じゃあ、あなたの言うことが真実ならここは労働場なんかじゃなくて、もともとはモンスターたちがはびこるダンジョンっていう場所だってこと?私はそんなところで生まれたの?」
「そうだよ・・・今だって君モンスター倒してるし、こんなモンスターは俺が冒険していたときはいなかったんだけど・・・」
アレフはミレノアと出会い色々と話すうちに今の世界情勢が理解できるようになった。とともに一つずっと違和感があった。
「あなた、それじゃ、アレフは純血の人間ってことよね・・・私なんかが話してていいのかしら。これってもしかして死罪にあたいすることなんじゃ・・・。早く上官に伝えたほうがいいのかもしれない・・・」
ぶつぶつとミレノアはモンスターをさばきながら、つぶやいている。アレフはミレノアが度々発する【純血】という言葉がずっと気になっていた。
「なぁ・・・ミレノア。純血ってなんのことなんだ?」
「え?そっか。あなた人外も知らないんだもんね。私達、人外は純血の人間のために生きていかなくちゃいけなんだよ」
ミレノアの声が少し低く小さくなったような気がした。
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