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アレフはバイラからもらった袋をミレノアに渡した。
「この袋……兄さんが私にって?」
「あぁ、そうだが?」
ミレノアが複雑な面持ちになる。
アレフには何故ミレノアがこのような表情になるのか分からなかった。
「えーと、ふむふむ。食料と水と、、、ラフレンワと、、、」
「え?なになに?ラフレンワって何?」
「あれ?おじさん知らない?ラフレンワ、これがあれば遠くの人と話せるのよ。コレラの研究者が開発したモンスターとテクノロジーの融合らしいけど。詳しい話は私も知らないわ。ラフレン花ってモンスターは知ってるよね」
「あぁ、もちろんだ。集団で襲ってくるタイプの大きな花を頭に宿したモンスターだ」
「そのラフレン花は魔力で仲間同士意思疎通をしていたらしいの。そのメカニズムを解明して作られたのがラフレンワ。これがあれば兄さんから連絡が来た時に話ができるわ」
「そいつは便利だな。こっちから連絡を取ることも?」
「もちろん可能よ。でも、今はやめときましょう」
アレフのいない間にモンスターとテクノロジーが融合した機械が出来ていたのだ。
【ラフレンワ。片手で持てるほどのサイズ。魔力を与え、花の部分に話しかけると話したい相手のラフレン話が大きな音を出し通知する仕組み】
「あれ?なんかもう一個入ってる」
ミレノアが取り出したのはクシャクシャになった雑誌だった。
「これ……何で……」
ミレノアが取り出したのは可愛らしい女の子が着飾った雑誌。地上のファッション雑誌であった。
「私、これこっそり見つけて読んでるのコレラの兵士にバレて、それで没収されて…誰にも言ってないはずなのに」
雑誌のページの間に一枚の紙が挟まっていた。
ミレノアはそれを取り出した読み勧めた。
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ミレノアへ。
お前が夜な夜な読んでいたこの本、どんだけ面白いのかと思って兵士から取り返したが、何が面白いのか俺にはさっぱり分からない。お前はそんなに服が好きなのか。やはり、ここを出て服を作りたいのか?この袋に食料を少しずつ備蓄しているのはそのせいなのか?それともいずれ無許可の狩猟がばれた時のために、一人で逃げるつもりなのか?
どちらにせよ、お前はこんなところでとどまるような性格じゃなさそうだな。兄貴として、何もしてやれなくて申し訳ない。俺は労働と幼い子供の面倒で分身を使い果たしている。食料確保という危険な役回りを自分からかって出てくれたお前には俺たち緑系は皆感謝している。
そんな俺達の感謝がお前をここにせき止めていたとしたら申し訳ない。いづれ来るだろう、お前がここを離れるときにと思い、俺もいくつか役立ちそうなものを用意していおいた。ラフレンワはその一つだ。危なくなったらいつでも連絡をくれ。助けに行くから。
特に上に行けば行くほど、地上に近づけば近づくほど俺たち人外への偏見はきつくなるとも聞く。
心配なことは尽きないが、俺から言えることは唯一つだ。死ぬなよ、ミレノア。そして自分のために生きて、楽しく暮らしてくれ。
PS たまには連絡をくれ。オババも心配するだろうから
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「いい兄さんだな。お前のことなんかなんでもお見通しだったんだ。先を見通せる頭脳がありすぎて、心配性なところもあるけど。落ち着いたら、帰ってやろうな」
ミレノアは無言で頷き、バイラの読んだ手紙をそっと袋に戻した。
早くしまわないと、濡れてしまうと思ったから。
2人はしばらく無言で走った。
やがて、草木生茂る森林が少なくなってきた。木が一本も生えていない荒野がちらほら見える
「おじさん、多分道合ってたよ。第四労働場は鉱石業が主要産業だって聞いてる。ここは鉱山地帯に違いないわ」
「たしか、魔石が取れる地帯がビジゾワーズにあったような。そこが第四労働場になっているのか」
森林部と荒野部を隔てるかのような大きな洞窟があった。
「ここに入っていくのか?」
「うん。第五労働場と第四労働場の境は洞窟だってのは有名な話。第五労働場から逃げようとしたってむだ。この洞窟の中のモンスターは凶暴だから食べられておしまいって何度もコレラの兵士に言われてきたわ」
「そうなのか、やめとくか」
「なに言ってるの!おじさんと私なら余裕でしょ」
ミレノアは物怖じせずに洞窟に踏み出した。アレフも、後に続く。
バイラたちの頑張りもあってか、第五労働場のコレラの兵士たちは誰もアレフたちを追ってこなかった。
おそらく、アレフたちに人員を割く余裕がなかったのだろう。
「さよなら、第五労働場。兄さん、絶対帰ってくるからね」
ミレノアは大きな一歩を踏み出した。15年間閉じ込められ続けていた第五労働場を後にして。
次話より新しい章に入ります。しばらく構成を考えますので更新はお待ち下さい。それまで応援のほど宜しくお願いします。




