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ミレノアはお婆さんを引き連れ近くの長屋に入って行った。お婆さんはミレノアから聞かされた事実をまだ飲み込めていないようだ。


アレフもそのあとをただついて行った。足首に草木がチクチクと刺さった。土の冷たい温度が足の裏から伝わってくる。


久々の温度感にアレフは少しテンションが上がった。土のひんやりとした感触を味わうのも10年ぶりなのだ。


ここは何か作物を育てる労働場なのだろうか?


アレフは周囲を見渡しながら長屋に向かった。周りにはミレノアが入って行った長屋がチラホラと点在しており、他には田畑以外目立つものはないように見えた。


一見何事もないように見えるが、アレフにとっては衝撃であった。


ダンジョンの中に普通に人が生活しているということ。文明らしきものが発達しているということ。この10年間で何があったのか、アレフはやっと興味が湧いてきたのである。


ミレノアが引き戸を勢いよく開け、中に入った。


「ただいまー!みんな、今日は大量だよー!」


そう叫ぶとたくさんの子供たちが餌に群がる池の鯉のように、闊達に走ってきた。


「ミレノアだー!!!今日もご飯持ってきてくれたー!!!」

「はやくバイラに渡して料理して貰おー!!!」


子供達はミレノアが風呂敷から出したモンスターの肉片を片っ端から持って行った。中にはミレノアの体に飛びついて遊び出すものもいた。


「ミレノア……大人気だな」

「えへへへ。私はこの子達のお母さんみたいなもんだからねー!」


ミレノアは、振り返り、得意げに笑った。


集まってきた子供達も皆、肌は少し緑色だ。ここはハーフの人間ばかりいるのだろうか。


「ミレノア!まだ話が終わっちょらん!しっかり聞かせなさい!そして、はやく奥に隠れる!」


お婆ちゃんが急いでミレノアの周囲に集まった子供達を払っていく。


「お前さんたち!バイラの手伝いでもしてきんしゃい!あと、バイラも奥の部屋に呼んできんしゃい!デビルスが殺されたって伝えたらええさかい!」


早口で捲し立てると、ミレノアとお婆ちゃんは長屋の奥部屋に移動して行った。


部屋と言っても布切れ一枚で仕切っただけのスペースであった。


そこにアレフとミレノア、お婆ちゃんが座った。


「どういうことかしっかり聞かせなさい!ミレノア」

「ちょっとお婆ちゃん落ち着いてよ。お婆ちゃんの方から話を聞かせてよ。なんで私が政府に追われてるのよ?」

「なんでも何も、あんたがデビルスに逆らったってお役人が叫び回ってたからだよ。何したんだね、あんた。もしかして見つかっちまったのかい?」

「うん…付けられてるの気付かなかったの。ごめん。お婆ちゃん、でも、このおじさんが助けてくれたの!」

「そこが分からんのよ!」


お婆ちゃんがじっとこちらを見る。


出会ってからアタフタとしかしていなかったが、いざしっかり話をするとなると、さすがは年の功。どしっとした落ち着いた様子に様変わりした。


その心眼でお婆ちゃんがアレフの顔を見つめる。


「あんた……なにもんね。ミレノアに何かしたわけじゃなさそうね。でも、正義の味方って感じでもないわ。中間。憎悪と優しさが入り混じったどっちに転んでもおかしくない、そんな不安定さがあるが」

「……」


あながち間違ってもいないお婆ちゃんのアレフ評。思わず黙ってしまう。


「もう!お婆ちゃん、この人のおかげで私は助かったのよ。死にそうなところ魔力分けてもらって、それにデビルスも倒しちゃったんだから」

「それが信じられんね。あんたたち緑系が束になっても倒せなかったデビルスが死んだわけがなかね」

「嘘じゃないもん。はいこれ、証拠」


ミレノアは胸の中から、デビルスが所持していたペンダントを取り出し、畳の上に置いた。


「アイツらの汚い魔道具。これがこっちにある今、あいつらの言いなりになる必要はもうないんじゃない?」

「あんたこれ……ほんもんかね……」

「ここで嘘つくわけないじゃない!」

「これは……革命がおきるじゃよ……バイラは……バイラはまだ来んのか!」


お婆ちゃんが立ち上がりカーテン開くと、そこに緑系の青年が立っていた。


「大体の話は聞こえてたよ。ミレノアもオババも声大きいから」


バイラと呼ばれる青年はどこかミレノアと顔が似ており、整った顔立ちをしていた。


とても冷静で何もかも見渡しているかのような、そんな雰囲気を漂わせていた。

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