13
10年という月日はこのダンジョン「ビジゾワーズ」を大きく変容させていた。
そのことにアレフは否が応でも気付くことになる。
アレフはミレノアが労働者としてこのダンジョンに閉じ込められていることを知った。
しかし、幼い頃からこのような境遇のミレノアはなぜ自分が外の世界に出ることが出来ないのかは知らなかった。
ただ聞かされていた言葉は一つだけ。
「人外はここから出るな」
ミレノアは自らの薄緑の肌を呪った。この肌色でなければ私は外の世界で、もっと自由に、生きていられたのかもしれないと。
そんな事は、アレフに伝える事はなかったのだが。
宝物庫から歩いて1時間ほど経過した。さっきまでは草木をなぎ倒し道を作っていた二人だったが今は違う。
少しずつ道が補整されてきて、人工的な雰囲気がやや見えてきたのだ。
「おじさん、だから私はモンスターと人間のハーフで緑系の人間って言われてるの。どうやって生まれてきたかはよく分からないの」
「お前の年が15歳だっけ?生まれた時からここにいたのか?」
「……小さい時の記憶はぼんやりしてるかな。おじさんもそうでしょ?でも、幼い頃はもっと別の、違う場所にいたような気がするの」
アレフはモンスターと人間のハーフと言われる存在に興味深々であった。
本来ならば世間との10年間のタイムラグを埋めるために必死になるべきなのだが、ダンジョンオタクのアレフにとって世間よりも目の前のミレノアの生態の方が興味をそそるのである。
「ううん、確かに俺が外の世界にいた時も【植物魔法】なんて魔法は見たことがないんだよな。ミレノアの魔法は特別なんだな」
「私も何が特別なのかは分からないの。でも、実態の分身を作れたりするのも植物魔法のおかげみたい。植物の生命をもとに分身を作ってるから本体とは見分けが付かないんだって」
「ふうむ。生命をもとにした魔法か…。それもまた興味深いな」
「おじさん、考えてばっかだね。しんどくないの」
「おじさんという人種はな。考えるのが好きなんだ。あと俺28歳くらいだからおじさんじゃないよ」
「私からしたらおじさんだよ」
「…」
草木を脇目に畦道をしばらく歩き続けると、緑いっぱいの視界がアレフの目の前に広がった。
アレフとミレノアはそんなこんなで第五労働場にたどり着いた。
そこは田園地帯であった。と言っても穀物を育てているわけではなさそうだ。
「ここが私が毎日働いてる第五労働場だよ。結構いいところでしょー」
第五労働場という言葉の響きからアレフはおどろおどろしい無機質な工場のようなものをイメージしていた。しかし、そんなものはなく、長閑な雰囲気漂うただの農村地帯だった。
「ここが第五労働場?」
「まぁ、そう名付けたのはコレラの政府のお役人なんだけどね。元々私たち緑系民とモンスターが共存する町だったんだ」
「モンスターと人間が共存だと?それもダンジョン内で?」
アレフが驚いているのを無視してミレノアは駆け出した。向かった先に田畑を手入れしている人間がいた。
「お婆ちゃん!ただいまー!帰ってきたよ!」
「あれ!!!ミレノア!!!あんた生きとっんだが!!はやく家ん中入り!!!」
ミレノアが向かった先にいた老婆は慌てて言った。
「なに?お婆ちゃん?どうしたの?また、入れ歯の置き場所忘れたの?」
「いや、そんなわけないだが!前に一回あったけど!オババが慌てるバリエーション、入れ歯以外にもあるだが!」
「えぇ、じゃあなんなの?」
「あんたを政府の役人が探してるだが!ミレノア、あんたデビルスに逆らっただが?!」
アレフもその喧騒に近づく。何やら揉めているような雰囲気だ。
「逆らったも何も、お婆ちゃん……デビルス殺しちゃった☆」
「は??!!!!」
「それも、ここにいるおじさんが」
「へへへへへ?????」
殺しちゃった☆




