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アレフの右拳が振り下ろされ、デビルスの体は原型をとどめることはなかった。
デビルスだった何かを見つめアレフは少し自分自身が変わってしまったことに気づいた。
俺はこんなにひとを殴れる人間になったんだ。
自分を死よりも苦しい思いにさせた元仲間の姿を見てアレフは今までにない感情になっていた。
何かとんでもない一歩を踏み出してしまったのでないか?という気持ちと、それと同時にとてつもない爽快感と憎悪の気持ちでぐちゃぐちゃになっていた。
「おじさん…大丈夫?」
ミレノアが茫然と立ち尽くすアレフに思わず声をかけた。
「あぁ…大丈夫だ!ありがとうな、ミレノア。俺を出してくれて」
「いや、あれはホント偶然だから」
「なんで思いつかなかったんだろう?別に6人連れてくる必要なんてなかったんだ。ミレノアが分身出来るんだから6人に増えて貰えばよかっただけ」
「ホント、私たちバカだねー」
ミレノアはデビルスだった肉片の側に落ちていたペンダントを拾った。
「これだ……これのせいで私たちは……ありがとう、おじさん。第五労働場はこれで救われるかもしれない」
「ん……なんのことだ?」
「そっか、おじさん。何にも知らないんだよね。戻りながら話そっか」
ミレノアはペンダントを胸の中にしまった。ミレノアの植物魔法で作った服は先ほどの戦闘でボロボロになっていた。
「……」
「やだ!おじさん、私の体チラチラ見てない!?」
「……ぜんぜん見てないよ」
「見てる人の言い方じゃん」
ミレノアはすぐに自分の服装を作り直した。
「それにしても器用だな。魔法で服も作れるのか?」
「まぁこの植物魔法ってのが使えるの私だけみたいなんだ。お母さんも使えたみたいなんだけど、私たち人外は基本魔法は使えるけどおじさんと一緒でノーマル魔法くらいしか使えない」
「ほうほう、なるほどな」
アレフとミレノアはデビルスの亡骸を後にし、第五労働場へと向かった。
アレフが10年間強閉じ込められた宝物庫を後にして。
「てか、おじさんもダメージ食らってた割に全然体に傷痕ないねー」
「……確かにそうかもしれない」
「遠目だったけど結構モンスターに攻撃されてたよ?私心配だったんだから」
「本当か?全然気づかなかった」
アレフはほぼ真裸の自分の姿を見た。10年前と変わらない体型をしていることにも驚きだが、先程の戦闘の跡は何一つないことも驚きである。
「確かに痛みは少しあったんだが、今見てみると全く何事もなかったみたいだ」
「まぁそれならよかったんだけど!それより、裸だと目立つから私が適当に服作ってあげるよ」
ミレノアは植物魔法で俺に服を作ってくれた。茶色の木の素材をもとにしたTシャツと蔦で出来たショートパンツだ。
「おぉ、何年ぶりかの衣類だ……ありがたい」
「そんなありがたがらなくてもいいよー。こんな服ダサダサなんだから。地上に出たらもっと可愛い服がいっぱいあるみたいだし」
「そんなことないぞ?これ地上でも結構いい値段で売れるんじゃないか?ミレノアは服が好きなのか?じゃないとこんな服作れないだろ」
「うーん、まぁね」
ミレノアは自らの服装を眺めた。ずいぶんと前に畑の側溝に落ちていた雑誌の切れ端を真似て作ったものだ。
わずかな文明のヒントを頼りにミレノアは服を作成していた。そこには類稀なるセンスがあるのだが、このダンジョン最深部の地下でそれに気づいているものはいない。
「外に出て、たくさん服見てみたいな」
「なんだ?外に出たいなら出ればいいじゃないか?ここはダンジョンだろ?それにここは最深部。上に行けば行くほど雑魚のモンスターしかいないはずじゃ?」
「え?おじさん何言ってるの?ここにいるモンスターは1番弱いんだよ。それに私たち人外は勝手に違う階層に言っちゃダメなんだ。私たち人外は外に出られないんだよ」




