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「おじさん!ごめーん」
スライム状のモンスターに体を捕えられたミレノアの首元を、ケンタウロスのようなモンスターの鋭利な右腕がそう。
「お前、あの子の命がどうなってもいいのか?俺を攻撃したらどうなるかわかってるんだろうな」
「お前らしいやり方だなぁ」
デビルスは自分の周りに強いモンスターを配置しながらも保険としてある作戦を遂行していた。
それは【ミレノアの本体を捕えること】であった。
アレフが次々とモンスターをなぎ倒していった瞬間、いや最初の一体を倒した瞬間にその作戦を遂行し始めたのだった。
デビルスは6人のミレノアから本物を推測していた。
「・・・あははは。よかった。ほんと人外の女がバカで助かった。俺のモンスターの配置は俺に近づいてくるにつれて強い順に配置している。一人だけいたんだ。異様に俺からずっと離れたところで雑魚のモンスターばかりを倒していたミレノアがなぁ」
「・・・へー。一人だけいたんだ。消極的なミレノアが」
「そうだ。あいつはすげぇ魔法を使えるにもかかわらず、人外は馬鹿だからな。使い方を知らねぇんだ。実体を作れる分身魔法の肝は【本物がどれかばれないようにする】に限るんだ。本物がバレちまったらあとはもう簡単だ。それ以外の5人は無視。その一人を徹底攻撃すりゃいい」
「ほー、消極的なミレノアがいたと」
「はっ!俺がモンスター操りながらそこまで見てないと思ったんだろうな。あの人外のバカは」
遠くの方にスライム状のモンスターに捕えられたミレノアが見える。どこかニヤニヤしているようにアレフは見えた。
「まぁ、あれだな。デビルス、お前はミレノアを舐めすぎたんだ」
「は?何言ってやがる?お前あの子の命が惜しくないのか」
「惜しいも惜しくないもない。あそこで捕まってるミレノア。ありゃ【分身だ】」
「え?」
その瞬間、捕えられたミレノアがボシュンと消えた。そして最前線にいた(デビルスに一番近い位置にいたミレノア)が近寄ってきた。
「おじさん!ひどーい。もうばらしちゃうの?」
「いやいや、お前も悪いな。なんで捕まった演技なんかするんだ」
「おじさんびっくりするかなって思って。心配するかなって」
「お前が一番安全地帯にいるわけないだろ。家族友達のためにリスクとって狩りに出かけているやつがこんなところでビビって後ろにいるわけない」
「あー、やっぱり、おじさんにはバレてたのか。残念だねー」
デビルスは目の前の光景が信じられなかった。何が起こっているのか理解が追いついていない。
「え?なんだ?どういうことだ?」
「あぁ。こいつ、まだ理解していないから、ミレノア説明してあげろよ」
「えぇ。めんど。うーん。だから、私はあえて【1人だけ後ろに下げてた】の。本物っぽく見せるためにね!おかげでとっても戦いやすかった。みんなあの分身向かっていくから背後取れる取れる!」
デビルスはがっくりとうなだれた。
「そんな・・・じゃあ俺は人外に頭脳で負けたってことなのか?」
「まだわからないのか?デビルス。お前は人外に負けたんじゃない【人間】に負けたんだ」
「ミレノアは・・・人外だ・・・」
「まだ言うのか・・・ミレノアが人間だから鉄柵が上に上がったんだ。あれだけモンスターが来ても上にあがらなかった鉄柵がミレノアが6人集まったら開いたんだ。少なくともこのダンジョンはミレノアを【人間】だって認識したってことだ」
「そ・・それは」
デビルスは何も言い返せなかった。アレフの言うとおりだったからだ。
そのアレフの見解を聞いてミレノアの目にうっすらと涙がこみ上げてきた。
自分が人間だと根拠を持って説明されたのは初めての経験であり、初めての肯定であったからだ。
「お前に対しては優しくなれないからな。覚悟は出来てるよな。お前らだけは絶対に許さない。お前みたいなやつを人外って言うんだ」
「いや、まて。俺を攻撃するな。仮にも俺は騎士団長だ。俺に逆らったら他の奴ら、いや政府全体がお前を犯罪者とし」
デビルスを弁明はもはや誰の耳にも届いていなかった。
アレフの真っ白な右拳がデビルスの顔面に思いっきり振り下ろされた。
【ズドーン】
とてつもない爆音とともにデビルスの顔面がむちゃくちゃになり、そして吹き飛んでいった。
鬼のようなアレフの復讐の姿をミレノアはよく見えていなかった。
なぜだか視界がぼやけていたから。
脱出編おしまいです。
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