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「誠に残念だが、アレフ君、君とはここでサヨナラしないといけない」



パーティーのリーダーであるピーナッツはその長髪を靡かせながら俺に言った。


端正な顔立ちが今日はやけに冷たく見える。


ピーナッツの言った言葉の意味が俺にはよく分からなかった。


「…どういうことですか? やっとここまで来たのに。俺たちはダンジョンの宝物庫までやっとの思いでたどり着いたわけじゃないですか? あとは帰るだけ。なのになんでここでお別れなんですか?」


俺はおもわず早口で口走る。


そう、俺たちは6人編成のパーティーを組みこの難攻不落と言われた悪魔のダンジョン「ビジゾワーズ」を攻略したのだった。


途中、幾度となく死線をかい潜りやっとの思いで最下層の宝物庫にたどり着いたのだ。


「ちょっと、黙っていなさい。アレフ。君は最初からここに置き去りにするつもりで我々のパーティーに誘ったのだよ。不思議だと思わなかったかい? 魔力レベルたかだか20そこそこの君がこの100オーバーしかいないパーティーに誘われたということが」


今まで君付けだったのにもかかわらず急に他人行儀な呼びつけに変わった。


それに今まではくだけた感じの言葉遣いだったのに、敬語に変わっている。それがなんとも言えぬ距離感と不安感を俺に与えてくる。


「お前は【捨て石】なんだよ。アレフ。この宝物庫にはある秘密があるんだ」


宝物庫にあった金銀財宝、魔武器を風呂敷に詰めながらゴーは言った。


素早さ、なによりもパンチの速さが人間離れしている戦闘要員のゴーが俺を捨て駒呼ばわりした。


怒りより驚きの方が強かった。ゴーにも何度も助けてもらったからだ。


「ある……秘密だと?」


俺はだんだん唇が震えてきた。さっきまで仲間だと思っていた奴ら5人が急によそよそしく冷たい空気を醸し出すからだ。


「簡単に説明しますと、この宝物庫は【6人で入って5人で出る】ことがルールになっているのです」


魔獣使いのデビルスがずり落ちたメガネを直しながら言う。


「ちょ、デビルス! 俺が説明しようと思ったのに!」


「あなたが説明しても分かりにくくなるだけでしょう? この捨て石さんにわかりやすく説明するにはデビルスが話す方が早いわ」


回復スキルを持つルージュがゴーを宥める。ルージュも当然のように俺のことを捨て石扱いしてくる。


なんなんだ、こいつらは。


「1人。生贄必要。だから。拾ってやった。お前。ザコだが。知識だけ。あった。から」


普段無口で何も話さない遠距離魔法を得意とするジーが言った。


ジーは俺のことをザコだと言った。


「というわけだ。捨て石君。君はこの宝物庫にいてもらうことになる。我々は君みたいななんの後ろ盾もない冒険者とは違ってコレラ国から直々に派遣された騎士団候補なんでね。様々な情報がダンジョン攻略前に入ってくるのだよ。このダンジョン最後の難関は【今まで一緒に頑張ってきた仲間を1人見殺しにすること】だというのは俺たちより前に入った調査隊によって解明されていたのでね」


コレラ国から直々に派遣されてきた騎士団候補生だと? コレラ国といえば俺の祖国でもある。


そこの騎士団候補生なんてエリート中のエリートじゃないか!


「そんな大事なことを何故今まで黙っていたんだ? 俺をダンジョン中間層で誘ってくれた時から? これは計画通りなのか?」


「当たり前じゃない。私たちは途中から最後の生贄にする【捨て石】を探しながらダンジョンを攻略していったわ。幸い私たちの実力があればダンジョンの敵自体はさほど強くもなかったのよ。問題は生贄だけだったからね」


ルージュは何も悪いことなどしていないかのようにすらすらと言葉を話す。


「まぁお前は魔力も弱いし戦力にはならないと思ったが異常なまでにダンジョンの生態系や魔物については詳しいというのは調査の結果分かったからな。連れていって損はねえだろうとの結論になったわけだ」


宝を一つ残らず包み終えたゴーは出口に向かいながら言った。


「お前ら何考えてんだ? 本気でそれ言ってんのか?」


俺はゴーの袖をグッと引っ張り腹に思いっきり一発入れた。


しかし、人間の肉とは思えないほどゴーの腹は硬く俺の指が折れたような気がした。



「くぅ〜効くねぇ〜。魔力20パンチは。お返しにこれでもどうぞぉ!!!!」


ゴーは俺と全く同じフォームで俺の腹に強烈なボディブローを入れてきた。


宝物庫出口付近から一気に奥の壁まで俺はぶっ飛ばされた。距離にして5メートルほどだろうか。


壁一面に生える苔のクッションのおかげでなんとか意識を保つことができた。


「お前…今…本気で俺を殺そうと…」


「バーカ! 本気でやってねぇーよ! お前なんか本気で殴ったら塵一つとして残らねからな」


ゴーが遠くの方で俺に叫ぶ。


「おい! ゴー! いい加減にしろ! 捨て石が死んだらどうするんだ! 死んだら生贄にできないんだぞ! 生きてる状態で1人ここに置いていくことがこっから出られるルールだろうが!」


「……すまん。ついかっとなって」


ゴーがピーナッツに怒られている。しかし、それは俺を庇う意味ではなく、生贄として俺を生かしておかなければならないという点で怒っていただけであった。


「お前ら…許さないからな。絶対に許さないからな」


俺はいつのまにか涙を流していた。


「約2ヶ月の間だったが俺は完全にお前たちのことを仲間だと思っていたのに。優しさの中にも判断力があるピーナッツ、何度も俺を助けてくれた武闘派ゴー、優しき魔獣使いデビルス、回復の天使ルージュ、遠距離魔法の天才ジー、みんなみんな仲間だと思っていたのに」


俺の言葉なんて聞く耳もなく、5人は全員ダンジョン「ビジゾワーズ」の宝物庫を出た。その瞬間入り口上部に吊り下げられた鉄柵が勢いよく下りてきた。


ズドーン!!!!


【ダンジョン、ビジゾワーズ、クリア。クリア者 ピーナッツ ゴー デビルス ルージュ ジー】


どこからともなくアナウンスのような声が聞こえた。ダンジョン攻略に成功するとこんな感じになるんだ。


「ねぇ? なんかアレフが怖いこと喋ってんだけど」

「死なない程度に黙らせる必要があるようだな」


[岩石魔法 土流落とし]


俺の頭上に巨大な岩が現れ、倒れる俺の頭から下に落ちてきた。


「ぐぁあぁっぁあぁぁ!!!!!!」


「ちょっとやりすぎじゃない? 死んだらどうするって言ったのあなたでしょう?」

「これくらいじゃ死なないだろ。5分は持つ。その間にここを離れればいいだけの話だ」

「それもそうね」


狂っている。この人間たちは狂っている。俺はこんな奴らを仲間だと思っていたのか。自分が嫌になる。下半身が熱い。何も考えることができない。


「……お前ら……死んでも許さないからな……」


クリア者5人はだんだん薄くなっている。宝物庫を出た時点でダンジョンクリアとなり自動的に地上に戻ることができるのだろう。


血反吐を吐き、岩石に押しつぶされる、俺を置いて。


「まだなにか話してるように見えるなぁ」

「捨て石は話さないよ。だって捨て石だからね。石だからね。無機物だからね。言葉を扱うわけないじゃないか。アハハ! 俺たちがダンジョンを出るまで生きていてくれればいいんだよ」


ピーナッツは俺の方を見向きもせずルージュの肩を持ちながら言った。


「なぁに心配いらないよ。捨て石はあと十分もすれば死ぬだろ。最恐ダンジョンビジゾワーズの奥地で放置されてるんだ」


「ふふ! そうね、そんなことより私たちとうとうクリアしたのね! 難攻不落のダンジョン【ビジゾワーズ】を!」


「こりゃあ、騎士団長くらいにはなっちまうんじゃねぇの? 俺たち5人!」


5人の和気藹々とした会話が嫌に耳に残る。


彼らはこの後、ダンジョン攻略者として英雄扱いされるのは間違いない。


いや、それどころかビジゾワーズを攻略したのだ。最高の名誉職『騎士団長』の地位も与えられるかもしれない。


5人はビジゾワーズクリア者としてダンジョンを後にした。ボロボロのアレフを空っぽの宝物庫に置き去りにして。


草木の緑の匂いが鼻にツーンと入ってきた。鉄柵が落ちてきたことで土埃が舞い、視界が濁る。俺は絶望のなか気を失った。


*****


しかし、この時まだ誰も気づいていなかったのである。


この最恐ダンジョン一番の秘宝は宝物庫に入っていた金銀財宝や魔武器なんかではないということに。


それを手に入れるのは裏切られ残された1人にあるということに。


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