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南高の日々  作者: 高槻
1/2

チョコレートが飛び交う日

 ケータイに着信が入った。

[戸田善貴]

 出ようか一瞬躊躇ったが、まあ、先輩だし仕方ない。

「もしもし?」

『吉田ー、お前俺からの着信無視とかありえんからなー?』

 お見通しか。

「時と場合によります」

『あのなあ・・・。まあいいや。今日は連絡があって』

「さっさと言ってください。長いと切りますよ」

『来週の土曜日、空けといて』

「なんですか、突然」

『最近会ってなかったしー、デートしよう』

「嫌ですよ」

『反対意見は認めませーん。じゃあ、土曜日。そうだなぁ、1時に駅前な』

「ちょっ、勝手にッ・・・」

 言いたいことだけ言って、切りやがった。

 長いと切るって言ったのは俺だけど・・・

 ふざけんな。

 久しぶりに電話してきたと思ったら、デートだぁ?

「ふざけんな」

 大学行って忙しいのかも知れないけど、もう少し頻繁に連絡くれたっていいじゃんか。

 絶対会ったら文句言ってやる。

 それでも声を聞けたのが嬉しくて。

 先輩のせいで顔が赤いのが癪だった。

「はぁ・・・」

 カレンダーに書いておこうと日付を辿る。

 来週の、土曜日・・・

 ・・・


■ ■ ■


「おー、吉田ぁ、久しぶり」

 五分前に到着したのに、そこに先輩はもう居た。

 笑顔で手を振ってくるのが、なんだかムカつく。

「お久しぶりです」

「ちょっ、言葉に棘がついてる、刺さってるッ」

 棘を避ける真似をする先輩を、自分でも分かるほど冷たい眼で見ていた。

「そうですか?気のせいでしょう」

「・・・違う。絶対違う」

「それはそうと、何で今日なんですか?」

 自分の顔が、不機嫌に歪んでいるのがわかる。

「何で?」

 質問の意図が分かってないような先輩に、更に苛つく。

「先輩、今日何の日か、分かってますよね?分かってて誘ってますよね?」

 あー、そういうこと。先輩は笑顔で頷いた。

「勿論。今日は素晴らしき日、バレンタインデーじゃないか!!」

 あー、その笑顔、殴りてー。

「そうです、バレンタインデーです!!この街がカップルで溢れかえる日に、なんで男二人出かけなければならないんですか!!」

「えー、嫌なの?」

「嫌です!虚しいじゃないですか!!」

「俺は全然虚しくないけど・・・」

「先輩は神経が図太いですものね」

 俺はそんなに図太くない。

 他の日ならまだしも、この日は恥ずかしすぎる。

 周りはなんとも思っていなくても、だ。

 それでも先輩と一緒にいたいという気持ちも、無いわけではない。

 自分ばかりじゃなくて、俺の中の葛藤も少しは察してくれ!!

 暫く考えていた先輩は、じゃあ俺んち行くか、と提案してきた。

「まぁ、それなら」

 先輩の家なんて、別に行きたくないけどっ

 俺の顔を見て先輩が笑ったのが、癪だった。


■ ■ ■


 先輩は隣県の大学に進学していたが、通える範囲だからとまだ実家在住だった。

「今日はうち誰もいないんだよね」

「そうなんですか」

 別に聞いてないんですけど。

「皆今日はデートなんだよね。父さんも母さんも、いい年してさぁ」

 そういえば、先輩の両親はおしどり夫婦だと前にも聞いた気がする。

 うちの両親も仲が悪いわけでは無いが、デートはしない。

 というより、していたら寒い。

「先に部屋上がってて」

「はーい」

 勝手知ったる他人の家宜しく、階段を上る。

 戸田家の二階は、階段を中心に部屋が左右に二つずつある。

 先輩の部屋は左奥。

 ドアを開けると、しっかり整頓された部屋があった。

 いつ来ても綺麗だな、この部屋は。

 ベッドに座って、上体を倒した。

 微かに先輩の匂いがする。

 ・・・何考えてんだ、俺。

 自己嫌悪。

 ドアの開く音がしたので、目だけをそっちに向ける。

「お前どんだけ寛いでるんだよ」

 途中コンビニで買ったジュースと、コップを二つ持っている先輩と目が合った。

「折角の休日ですから」

「あ、そ。てかさー、気付いてる?その格好、結構エロい」

「!?」

 勢い良く起きた俺に、先輩は腹を抱えて笑い出した。

「先輩、コップ危ないですよ」

 笑い続ける先輩に、少々むっとする。

「・・・はぁ。いやー、吉田は面白いな」

「別に面白く無いです」

 全然面白くない。

「ねぇ、どうしたの?今日いつもより不貞腐れてるね」

「そうですか?」

「昔からさー、友達とはケラケラ笑ってるのに俺と一緒の時はツンと澄ましてたけど」

「そりゃあ、友達と先輩じゃ、態度変わるのが当たり前でしょう」

 後ろに座った先輩に、抱え込むように抱かれる。

「その割りに、くっついても嫌がらないんだよね」

「!!」

 顔に血が上る。

「赤くなった。かーわいー」

 耳に吐息がかかってくすぐったくて、先輩の顔が近付いてきたもんだから慌てて顔を逸らした。

「反抗期?」

「違います!大体、先輩が悪いんですよ!最後に会ったのはクリスマスだし、最近のメールは正月の一通だけだったくせに、この前の電話もすぐに切るし!今日は五分前に到着したのに先輩もう居るし!何よりその余裕の笑みが憎らしい!!」

 言い切ったところで、先輩が笑い出した。

「何笑ってるんですか!」

「・・・いや、うん、可愛いなぁと思って。この前の電話は、長いと切るって言ったの君だよ?」

「そうでしたね!」

 矛盾してることは分かってる。

「俺、遅刻したわけじゃないよ?」

「そうですよ!」

 ただムカついただけだ。

「俺が余裕そうに見えたの?」

「見えます!」

 今だって余裕かましてるじゃないか。

「きっとそれはね、君が余裕無いからそう見えるだけだと思うよ」

 !?

「違いますっ!!」

「違わない。だって俺、いつも通りだもん」

「それじゃあ、いつもが余裕なんでしょう」

 不意に、先輩の腕に力がこもった。

「それとね、連絡しないでごめん」

 耳元で言うな。心臓が縮むじゃないか。

 でも、心は緩むのが分かった。

「・・・本当ですよ。クリスマスの前のメールは十月ですよ、ロック掛けとかないと流れるんですよ」

「ロック掛けてるの?」

 しまった、墓穴・・・!!

「そ、そんなわけないじゃないですか、とっくに流れさってますよ先輩のメールなんて」

「潤」

 だから耳元で囁くな、俺の名前を囁くな・・・!!

 顎を掴まれて顔を後ろへ向けさせようとするから反抗しようとしたけどできなくて

 俺は

 

 一ヶ月と三週間ぶりの、先輩とのキスに溺れた。



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