01.進藤真咲
どさり。
古ぼけた旧校舎で、とある男子生徒が床に倒れた。彼はこの学校で有名な問題児。有名と言っても悪名の方である。
いわゆる不良。彼の素行不良は高校三年生になった今年から激化した。
朝、バイクで登校してくるところから始まり、授業は出ない、仲間とつるんでカツアゲはする、万引き、喧嘩、深夜徘徊、やりたい放題だった。しかし、今彼の仲間は彼の周りに、彼より早く床に倒れていた。ある男の手によって。
「おいおい、まさかこれで終わりなのか?」
にやりと笑ったのは彼らを床に沈めた張本人、進藤真咲である。
拳を握りしめ、ボキボキと関節を鳴らしながら真咲は辺りを見渡す。
放課後、旧校舎に一人で来い。と、朝、このグループの下っ端に真咲は呼び出された。旧校舎は来月取り壊しの予定があるので勿論授業では使わないし、生徒は立ち入り禁止の区域になっている。
それは逆に不良にとっては好都合、たまり場になったり今のように喧嘩の場所にも使われている。そんな旧校舎に真咲は相手が有名な不良グループであるにも関わらず単身で乗り込んだのだった。
今しがた倒れた不良を混ぜて、十数人のグループをたった一人で潰したにしては彼ーー真咲ーーには目立った外傷は少ない。
「噂になってた割には実力が伴ってねえ。俺に喧嘩を売るのは百年早いってこった」
暴れるのに邪魔で脱ぎ捨てていた学ランを拾い上げると、手をひらひらと振りながら真咲は校門の方へ歩き出した。
「そんじゃまあ、今回も俺の勝ちってことで」
真咲もまた、不良だった。彼らと違って、真咲は自分から喧嘩を売らないし、犯罪行為に手を染めるようなことはしない。また、他の不良を一切寄せ付けず誰ともつるまないので誰から見ても目立つ存在ではあった。それだけではない。真咲は今までほとんど負けたことがないのである。このことがより一層他の不良達の目につくのだ。今日のように集団から喧嘩を売られるのは日常茶飯事。
「お…おい、待てよ。まだ…終わってねえぞ…!」
先の不良が息も絶え絶えに起き上がったが、真咲は拾い上げた自分の学ランのボタンが取れかかっているのを見つけて、完全にそちらに意識を持っていかれていて、まともに取り合おうともしない。
「まだやんの?立ち上がるだけで精一杯って顔してるけど」
真咲がおどけたように肩をすくめて言ったのが気に食わなかったのか、不良は一心不乱に殴りかかってきた。それを見て真咲は学ランを投げ捨て、あろうことかおもしろそうににやりと笑った。
「やっぱりそうこなくっちゃな!」
不良が走ってくる。彼の振りかぶった腕は真咲にはスローモーションで見えた。
避けられる。
腕の流れを見切った真咲は不良の腕、そのただ一点のみに集中し身構えた。
「うん?」
その時だった。不良の振りかぶった腕の後ろに何か、一筋の光が煌めいたのだ。それは瞬きをしても消えることなくむしろ大きくなっていった。
「おい!待て!」
「今更怖気づいたってそうはいかねえ!」
「違うんだって!後ろ振り返ってみてみろ!」
真咲が不良に叫んでいる間にもその光はじわじわと大きくなっていっていた。しかし何を言っても不良は殴りかかってくることをやめなかった。終いにはその光は不良や、真咲を飲み込んでしまっていた。